十、窓
彼女はいつもそうするように窓を開けた。
爽やかな秋の風が室内に吹き込む。
ピンクの花柄のカーテンがふわりと膨らみ、彼女の長い髪が風を受けて舞い踊った。
学習机の隣には赤いランドセル。ベッドにはクマのぬいぐるみ。女の子らしい小綺麗な整頓された部屋が目に入る。
目を細めて窓の外を見る愛らしい彼女の姿に、僕は今日も足を止めた。
――今日こそ、僕の存在に気付いてもらおう。
自分の背丈より少し高い窓枠に手を伸ばす。
窓枠を掴む手に気合を込めると、少しずつ僕の指先に色が増していった。でも、今の僕にはこれが精一杯。
――まだ半分くらい透明だけど、まあ、大丈夫でしょ。
コンコン。
窓の下の所を、空いている方の手で軽くノックする。
すると、彼女は顔をあげて僕の方を見た。
頑張って体を引き上げて、上半身を窓の内へ乗り上げる。
“やあ。僕も君と同じ小学校に通ってたんだ。今は幽霊なんだけどね”
手をひらひらと振ってアピールすると、彼女は小さな悲鳴をあげた。
僕の声が聞こえたのか彼女がこちらへ近付いてくる。
ドキドキしながら身構えていると、彼女は勢いよく窓を閉めた。
僕は右手を挟まれながら部屋から追い出された。
僕の指をすり抜けた窓枠は定位置に収まる。
鍵の閉まる音は拒絶の合図だった。
――また失恋だ。目が合わない時点で薄々わかってはいたけれど。きっと声も届いてなかったんだろうな。
僕は挟まれた手よりも痛む胸を押さえて、彼女の家から歩き出した。
次は三つ隣のあの子の家に行ってみよう。




