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#53

 久しぶりに愛理さんと一緒に家へ帰った。


「タイムリミットはあと一時間です。お風呂入って、目立つもの片付けて……間に合いませんよね」


「風呂夜にちゃんと入るか。取り合えず今は汗流す程度で」


「時間ないんで一緒に入りましょう」


「風呂湧いてないんだからシャワーだけなんだぞ。片方お湯当たれなくて寒いだろ」


「ぴったりくっつけばモーマンタイってことですよ」


 果たしてそれで本当に解決するのか俺は欲望と共にアマゾンの奥地へと向かった……

 俺の体はさっさと自分で洗い終わらせた。

 俺が愛理さんの後ろに抱き着くと、愛理さんは俯いたまま固まってしまった。


「樹さん……その遠慮してくれていいんですよ?」


「俺もからかわれてばかりじゃないからな」


「やっぱり樹さんをからかってる方が心臓にいいです。樹さんが私にグイグイ来ると心臓が持ちそうにないです」


「そうか……」


「あ、ちょっと……」


 俺は愛理さんを深く抱きしめて、シャンプーを取って、愛理さんの髪を洗った。


「じゃあ次は体だな」


 お湯で愛理さんの髪についた泡を洗い流しながら、少しからかいたくなり愛理さんの様子を伺った。


「……ふぇ」


「からかいすぎたか」


 愛理さんがゆでだこのようになり、俺の言葉にもまともに反応しなくなった。

 いつもはからかう側なのに、からかわれる側になると愛理さんってめっぽう弱くなるんだよな。

 まあだから愛理さんをからかうのはたまににしている。

 愛理さんの返事がないので、そのまま体を洗うことにした。

 抱き着いたままで洗いやすかったから、というか俺が触りたかったから、まずおなかから泡立ったボディーソープをつけた。


「ぴゃっ!」


「もう愛理さんが日本語話せなくなってる……」


「だ、だってぇ……あ、そんな上と下同時に……」


 愛理さんをからかうのはいいが俺にも問題点が生じている。

 それは何か。

 普通に考えてみろ、好きな女子と裸で風呂に入りながら、好きな女子の肌を触っているんだ。

 興奮するだろ、反応するだろ。

 正直なことを言うと愛理さんと一緒にふろに入ったあたりから、かなり限界が来ていた。

 いつもだったら耐えることができていたはずなのに、今日は愛理さんが妙に色っぽくて、理性をゴリゴリ削っていた。


「……樹さん!場所変わってください!」


 急に声を荒げたと思ったら、ただ耐え切れなくなったらしい。

 しかし、俺は動くわけにいかない。

 なぜなら愛理さんと立場を交代したら、からかわれるのが確定しているからだ。


「愛理さん、体洗い終わってないだろ」


「もー無理です!これ以上はゆでだこどころの話じゃなくなります」


「背中洗うだけでもしてやろうか?」


「なんでそう頑なに……仕方がありません」


 愛理さんが急に体の向きを変えて後ろを向いてきた。

 終わった。

 愛理さんにからかわれる。

 そう思っていたのだが、違った。

 まず愛理さんは俺の顔を見て、そのまま視線がだんだんと下へと下がっていった。

 タオルを巻いているとはいえ、まあ目立つ。

 そこまでは俺も予想出来ていたのだが、そこからが違った。

 俺の下半身を見た愛理さんは……


「っぴぇ……」


「え?」


 後ろへ仰け反って、倒れてしまった。

 あまりの出来事に一瞬思考停止してしまったが、急いで愛理さんの体に着いた泡を洗い流し、風呂場の外へ運び出した。

 多分のぼせたのだろうと思い、出来る限りの処置はした。

 数分もしないうちに愛理さんは目を覚ました。


「あ、あれ……あー私、倒れたんですね」


「気づくのが早いな」


「樹さんのせいですからね」


「すまん」


「途中からのぼせてることに気づかないで興奮状態になってました……」


 目を覚ました愛理さんは冷静で、いつもと同じ様子だった。


「お母さん来たら行くので、それまで横になってます」


「なんかいるか?」


「キス」


「のぼせたってのに……」


 愛理さんの唇に俺の唇を重ねた。

 今日の愛理さんとのキスは普通のキスが多い気がする。

 急にどうしたんだと思うかもしれないが、愛理さんはキス魔なうえにディープキスが好きらしい。

 そのせいで、毎日キスするときは外じゃない限りはディープキスしかしてない。


「もう一回キスしてください」


「しないぞ。愛理さん舌入れるつもりだろ」


「……流石にもうばれてますよね。だって樹さんとのキスで得られる成分が忘れられないんですもん」


「麻薬かなんかか。服持ってこようか」


「お願いします……」


 俺は愛理さんの服をとってきて、ソファーの横に置いた。

 愛理さんが着替え終わったタイミングでインターフォンがなった。


「私が出るので、樹さんはこのタオルとか片付けてもらっていいですか?」


「はい」


 洗濯機へ同じ白物を一緒に入れて回そうかと思ったが、愛華さんが来るのなら干す時間はないと思ってやめた。

 洗面所から出ると、愛華さんが来ていた。


「樹君お邪魔してるわよ」


「いえ、愛華さん。俺は住まわせてもらってる身なんで」


 実際この家を買ったのは雪上家だからな。


「お義母さんって呼んでくれて構わないのよ」


「ならお義母様と呼びます」


「もう少し砕けてくれても構わないのだけれどもね」


 正直愛理さんのお母さんという時点で恐れているのだが、それ以上に雪上財閥当主の妻という肩書が強い。


「さてと。見た感じは良さそうね」


「個室以外だったら見ても大丈夫だけど……」


 愛華さんは部屋中を見て回り、問題はないかチェックしていた。

 寝室へ入るといきなりとんでもない発言をしてきた。


「愛理……襲うと言っておきながら何もしてないわね」


「だってぇ……樹さん思ったより鉄壁なんだもん」


「……ああ、そういえば知らなかったのよね。うーん、樹君親のあれそれなんて知りたくはないわよね」


 何か意味ありげな様子を見せる。


「まあ……でも、なにか関係あるんですか?」


「まあ知りたいなら教えるけど……樹君の家系の男性は……鉄壁というか奥手というか……まあそんな感じなのよね」


「初めて知りました……でも、なぜそんなことを知っているんですか?」


 事実よりも先になぜそのようなことを愛理さんのお母さんが知っているのかが疑問になった。


「なんでお母さんが知ってるの?」


「……あの馬鹿たちは息子に何も言ってないのね。一旦、リビングで座って話しましょう」


 リビングに戻り、俺がお茶を用意すると話は始まった。


「そうね、二人とも夫……城雪さんと弓義さんの仲がいいことは知っているでしょう?」


「はい」

「うん」


「その二人と、私と樹君のお母さんかなは同級生だったの。しかも凛ヶ丘の」


「そうなんですか……母さんも父さんもそんなこと一度も言ってなかったので初耳です」


 母さんも父さんも昔の話は中々してくれない。

 二人の馴れ初め話だとかも聞いたことがない。

 家にアルバムが残っているかもしれないと思い探して見たのだが、一冊どころか写真一枚も残っていないので、当時は本当は二人は結婚すらしていないんじゃないかと疑っていた。


「樹君、あの二人にはあとで厳しく言っておくから。まあさっきのことを知っていたというのも私と叶は仲が良かったからよ」


「それで、樹さんの家系が奥手という話は……」


「……先祖代々、そういう家系って聞いてるわ。女性側が無理矢理襲って既成事実でも作らない限りはそうそう落ちないとかなんとか……あと、なぜかわからないけどそういう欲求が強い人に惹かれるとか……」


「樹さんが男性としてあまり頼りないのはそういう……」


「愛理さん追い打ちにナイフを投げるのはどうかと思うぞ」


 まさかそんなことがあるのかと疑ってしまう。

 ただ俺のヘタレは遺伝だということに安心感を覚えてしまった。


「さてと、樹君の両親のお話は終わりとして愛理……しっかりやってるのね」


「そりゃもちろん、愛する樹さんの為に日々身を粉にして家事してるから」


「大変お世話になってます」


「お世話してます」


 自信満々に笑顔でそういうものだが、その言い方だとペットなんだよな。

 まあ餌付けされて、なにもしなくていいというのだから実質ペットなんだがな。

 若干お義母さんの顔も引きつっている。


「……家事はいいとして、体育祭」


「ラブラブでしょー」


「はあ……いつも言動には気をつけなさいと言ってるのに……まったく……」


 お義母さんの言葉は怒っているというよりも呆れが強く出ていた。

 あと少しだが、なにか懐かしむような遠くを見ているような表情だった。


「……叶と弓義君も体育祭で同じことしたのよねぇ」


 俺と愛理さんは顔を合わせた。


「大変だったのよ、あの頃は」


「長いですよ」


 愛理さんが顔を近づけてきて、小声で言った。


「叶は高校の頃から美人で学校一のマドンナ的存在だったから人気だったのよ」


 俺が聞いてて長いと思ったので頭の中で要約することにした。

 俺の母さんは美人で人気だった。

 様々な男子に告白され、取り合い状態だったらしい。

 まあ全員振っていたらしいが、そんな中でもしぶとく生き残ったのが俺の父さんと城雪さんだったらしい。

 要は、恋敵というやつだな。

 一年から続いた戦いは長引き、体育祭で返事をすると母さんは宣言したらしい。

 そして、全校の前で二人のどっちを選ぶのかをやったらしい。

 結果は知っての通り俺の父さんだったらしいが、決めるときにキスして決まったそうだ。

 この話を聞いて一番驚いたのは俺の父さんこんなに情熱的な男だったのかということを初めて知ったということだ。


「……うーん、なんでお母さんはお父さんと結婚したの?」


「体育祭が終わって傷心してるところを家に連れ込んで襲ってつけこんで、そのまま堕とし切ったわ」


「弱っているところにつけ入るとは流石お母さん」


 やっぱり血は争えないんだな。

 初めて会った時の印象は、愛理さんとは違って、冷静そうな印象を受けたのに今では愛理さんのお母さんという印象でしかない。


「城雪さんも当時人気だったわよ。顔はいいし、財閥家の息子なんだからもう黄金の道よ」


「玉の輿ってやつだ。私の場合はというか樹さんの場合は逆玉の輿ってやつですかね」


 財閥家に嫁ぐってなったらどこの立場であろうとも玉の輿になるんだよな。

 お義母さんと色々話した。

 特に俺の両親の話はたくさん聞けた気がする。


「帰ろうかしら」


「え、夕飯は食べないの?」


「一緒に食べようかと思ったけど、忙しくて。また今度、暇な時でもあったら食べましょう」


「ふーん、じゃあ出るところまで送る。樹さんは待っていていいですよ」


「俺も行くぞ」


「あら、いいわよ。あと愛理に話しておきたいこともあるから」


「わかりました」


 俺は一人部屋に取り残された。

 取り合えず洗濯機を回した。

 食器を片づけたりしている間に愛理さんが戻ってきた。


「おかえり」


「夕飯どうします?」


「なんもないよな」


「外食と思いましたけど、流石に疲れました」


「なんか配達頼むか」


「ピザ食べましょう、あとコーラ頼んでください」


 デブのダブルセットなんだよな。

 良さげなピザ数枚頼んで、飲み物も愛理さんのご注文通りコーラを頼んだ。

 案外すぐに届いて、食べ始めた。


「お義母さん愛理さんに似てるな」


「そうですか?似てないと思いますけど」


「似てる」


 表情、言動が愛理さんと重なる。


「そんなことより、今日のお風呂」


「すまん、俺が悪かった」


「セックスしないくせにああいうことされると、樹さんを襲いたい欲だけ溜まるんで襲っていいってことですよね」


「勘弁してくれ」


 ピザを頬張ってる愛理さんの目が怖い。

 捕食者の目をしている。


「この後お風呂どうします?」


「一緒に入るのはやめとくか」


「襲いたいゲージがもう八割来てるんで、そうしましょう。そうじゃなかったら、多分明日のお疲れ会欠席確定なんで」


「一緒に寝るのもやめとくか」


「それは私が死んじゃうんで嫌です」


 俺も愛理さんがそばに居ないと寝れないかもしれない。

 愛理さんと一緒にいると寝やすい。

 寝やすいというよりも眠らされるというか、急に眠気が強く襲ってくる。


「樹さん私いけないことを思いついてしまったんですけど」


「なんだ?」


「このままお風呂入らずに寝室で映画を見ながらピザを食べるというのは……どうでしょう?」


 愛理さんが口にしたのは、悪魔のささやきのようなものだった。

 今日ぐらいいいだろうという考えと、流石にそれはあまりにも罪だと思う考えが頭の中で対立している。


「ポテチもあります」


「ぐ」


「炭酸もおかわりありますし、ピザが足りなくてもおつまみ程度のものなら家に材料ありますよ」


「ぐぬぬ」


 もう俺の心は打ち砕かれていた。

 二人でピザが冷めないうちに急いで準備して、寝室を欲の塊のような部屋へと変えた。

 そこからは堕落の一歩をたどった。

 愛理さんのオススメでアクション映画を見ることになった。


「愛理さんって映画とか見るんだな」


「結構好きですよ」


 また愛理さんの新しい部分を見れた気がする。




 映画は面白かった。

 これまであまり映画には触れてこなかったが、思っていたよりも面白かった。

 もしかすると愛理さんと一緒に見たからということもあるのかもしれないが。


「面白かったですね!」


「またほかの映画も一緒に見たいな」


「そうですね~たまにこういう日作るのもいいかもしれないですね」


 確実にそして着実に堕落への道が開けた。

 一度甘い蜜の味を知ってしまえば、人間はそれを忘れない。

 もう一度、そしてもう一度、繰り返していくうちにそれが当たり前となる。

 当たり前という個人にとっての固定概念から抜け出すことは難しい。

 一度でもはまってしまえば、逃れられなくなるのだ。


「さて、明日もありますし、今日は寝ますか」


「そうだな」


「お風呂もまともに入らず、しまいには歯磨きもせず寝るなんてなんて堕落した生活」


「愛理さんのせいだからな」


「このままえっちなこともできたら完璧だったんですけどねー」


「それは俺のせいか?」


「樹さんのせいです」


 愛理さんに抱き着いてベッドに寝転んだ。

 抱き枕にするにはあまりに贅沢で、心地よくて、眠気が襲ってくる。


「明日もありますし、早めに寝ましょう」


「俺はもう寝る」


「おやすみなさい」


「おやすみ」


 キスをして、そのまま深い眠りへといざなわれた。




 目が覚めた。

 愛理さんはもう目が覚めていたのか、隣にはいなかった。

 寝室を出ると、朝食を用意して待っていた。


「おはようございます」


「おはよう、愛理さん」


「お風呂入りますよね?沸かしてありますよ」


「ありがとう」


「どういたしまして」


 俺は上手く回らない頭を覚ますためにも、昨日しっかりと入れていない分まで、風呂に浸かった。

 着替えも終わり、リビングに戻ると、朝飯と愛理さんが待っていた。


「うちの嫁が完璧すぎて困る」


「体のことも、お風呂の時間も、完璧に把握してるので。お腹の調子良くなさそうなので、優しめの朝食ですよ」


「聖女だな」


 実は朝起きてから胃の調子が悪い。

 原因は分かり切っている。

 しかし、一緒に夕飯を食べたとはいえ、胃の調子が悪くなることまでバレているとは。

 愛理さんがなぜそこまでわかるのかはわからなかった。

 飯は美味かった。

 お疲れ会はカラオケということになり、ただひたすらに全員が歌った。

 愛理さんと瑠璃と紀里は歌が上手かった。

 愛理さんに至っては、思いっきりアイドル感が出ていたせいで、目の前に雪姫雪花が居た。

次の投稿日は不明です。いつか書きます

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