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登頂準備-町の英雄-

「この後はどうするんだ?」

「コリーの都合が良いタイミングで一緒に試さ・・・北の大地に向かおうと思ってます」


 流石にコリー本人の前で試される大地と言うのは憚れるので自重する。


「別に試される大地でも構いませんよ?確かに村は自然の猛威に晒されています。生易しい所ではないですからね」


 こちらの心を読んだかのようにニッコリ笑ってくる。


「そんな所で日々を営んでるんだから、やっぱコリー達はすごいよ」

「同感だな」


 実際、その小柄な体のどこにその生命力があるのか不思議で仕方がない。


「あー、所でだ。今回の報酬はどうする?」


 バッカス氏がビールとソーセージでグビグビやりながら質問してくる。こいつはまだ仕事中じゃないのかな。まぁツッコミ入れるのも無粋だな。


「ん?別にいらないよ。俺達はコリーのためにやったんであって、町のためにやったわけじゃない。まぁ結果的にそういうことになってるけどな」

「じゃあ、報酬はいらないってことでいいんだな?」

「くれるんだったら貰うけど、支払い先はコリーにしてくれ。そうだな・・・報酬は北の民の待遇改善なんてどうだ?ドフォール商会もいなくなって不当に取り扱われることは無くなると信じているが、万が一理不尽な目に遭った時に町の住民と変わらぬように役所も対応してくれないか?それが俺の望む報酬だ」

「・・・分かった。その条件を呑もう。彼女達は町にとって重要な隣人だ。生真面目な北の民なら住民から不満も上がることもないからな」

「よろしく頼むぜ」


 俺達からコリーに出来ることといったらこんなもんか。果たして報いることは出来ただろうか。

 コリーは口に両手を当てて絶句している。やっぱりこれじゃ足りないだろうか・・・。


「私達のためにありがとうございます!このご恩は一生忘れません」

「いや、そんなに重く受け止めなくていいんだが。コリーは笑っていてくれ。そうしてくれると嬉しい」

「はい!」


 クシャクシャになりながら笑顔を浮かべてくれた。うん、想像してたのとちょっと違うけどこれはこれはでいい。


「自分のためではなく、他人のために報酬を与えるなんて無欲な奴らだな。仕事柄国中を飛び回ってるからまた会った時に声かけてくれ。力になる。後、次は飲み比べ負けねえからな!」

「ああ、その時は頼む」


 ガシッと握手する。バッカスまた会おう。


◇ ◇ ◇ ◇


「兄ちゃんありがとう」

「お嬢ちゃんありがとう」

「北の民、感謝する」


 ビッグウォールの越境準備がてら、コリーの荷物持ちしようと思い同伴している。女の子になるべく重たいものは担がせるもんじゃない。そう思って町に出たら地域住民の方々から道すがら好意的な言葉を投げかけられた。どうやら人の口には戸が立てられないということだろう。名乗り上げた覚えはないのだが。


 人の好意を無下にするものではないので曖昧に笑う。何だかんだで言って自分のやったことが善良な人達の役に立ったなら良いことだと思う。イリアはちょっと誇らしげに、コリーは困ったように身を縮こませている。


「町を救ってくれたのになんて謙虚なんだ!ドフォール商会と全てが真逆だ」

「「「全くもってその通りだ」」」


 控えめな反応を『謙虚』と好意的に解釈する住民達。当たり前のことをしたはずなのに、この感謝っぷりは何なんだ。どんだけドフォール商会は悪いことをしてきたんだ。国で禁止されているクスリを密輸しようとしていたんだから実際悪党だよな。


「コリー、必要なものは何なんだ?」

「えっと、薬草、ナッツ、ドライフルーツといった乾燥食品ですね。後、アークさんとイリアちゃん衣服も見繕っていいですか?その装備だと体温を保つことは難しいでしょう」

「装備に関しては全面的にコリーを信じている。俺達は山に関しちゃ素人だからな。よろしく頼む」

「任されました」


 ゆく先々のお店で『サービス』と言われて無料で必要なものをいただけた。お金を支払おうとすると何故か逆に怒られた。今回をきっかけに北の民と中継都市トレジャーがより良い仲になってくれたらいいな。

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