一斉検挙-覆面捜査官-
「きっ、貴様らこんなことをしてタダで済むと思っているのか?」
慌てふためく悪徳商人ヤーマン。
「何も証拠が上がらなかったら俺達が悪人だな。証拠が出るまで静かにしてくれ。安心しろ、お前に疚しいことがなければ何も出ないさ」
内心ヒヤヒヤしながら啖呵をきってみる。証拠がなんも上がらなければ逮捕されるのは俺達の方だ。
とりあえず、倉庫内にいた関係者は全員縛り上げた。
「どう調べる?」
「とりあえず、虱潰しにやってくしかないだろうな。クスリは見た目は乾燥させた茶葉と同じで、匂いはモモのような甘い香りがする。それらしきものを見つけたら教えてくれ」
「分かった。探してみる。―――イリアは、倉庫内で不審な点がないかチェックしてくれないか。木箱開封、力仕事は俺とバッカスでやるから」
「わかった」
役割分担が決まったら探索開始する。手当たり次第探してみるが見当たらない。穀類や酒と一般的な食料品しか出てこない。後石炭も出てきた。これも北の民から巻き上げたものなのだろうか・・・。
「フンッ、やっぱり何も出てこないではないか、一体どっちが悪党なんだろうなぁ」
「安心しろ。悪党は絶対に見逃さないぜ」
ヤーマンの売り言葉を買うバッカス氏。バッカス氏もスキンヘッドでガタイがいいから人相悪い。
まだ倉庫内全てを探したわけじゃないから分からないが、本当にあるのだろうか?何か俺達は見逃していないか?
そんなことを考えていると、イリアが倉庫中央あたりを行ったり来たりウロウロしている。
ヤーマンもイリアに奇行に気付いたと思ったらギョッとしたように凝視している。―――あれは何かあるな。
「イリア、何かあったのか?」
「ん、音がちょっと違う」
真ん中の床を踏むと音が少し違う。何と言うか音が響くような具合だ。
床を注意深く見ると継ぎ目がある。これってもしかすると―――次にガッと手を突っ込むとヤーマンの顔が露骨に震える。
そのまま引っ張り上げると床が外れる。すると床下に人が入れる程のスペースがある。何やら書類の類とか木箱が多数置かれている。そして仄かにモモのような香りもしてくる。ヤーマンの顔が真っ青になる。
「バッカス、来てくれ」
「ん?何か見つかったか?」
「これを見てくれ」
「こいつは―――お手柄だ!ヘッヘッヘ、ヤーマンさんよぉ、俺はあんたが悪党ではないと勿論信じてるぜ?あんたの身の潔白を証明するために床下調べてやるから是非寛いでいてくれや」
ニタニタと笑みを浮かべるバッカス。どっちが悪党なのかよく分からん。
「お手柄だな。イリア」
「ん、アークの判断が良かった」
これでもう一件落着だろうと楽観する俺。
そう思っていた所で揉め事が発生する。
「貴様達はなんだ! ふっ、不法侵入で逮捕する!」
細身の丸眼鏡をかけた神経質な男と、衛兵の格好をした人物が入ってきた。
想定外の人物に驚くが、どうも向こうにとっても想定外だったためか酷く驚いている。あー、これは権力に嵩に懸かってきている。まずいな、証拠物件が見つかっても俺達も逮捕される恐れが出てきた。とりあえず駄目元で自分達の正当性を訴えてみるか。
「市民の通報で、この商人が国が禁止しているクスリを所持していると連絡があり、調査中でございます。もし貴方が役人なら是非見聞いただきたい」
「それは我々の仕事であり、貴様の仕事ではない!調査は我々が後日行う。全員大人しくお縄につけぃ!」
聞く耳をもたない役人。自分達のやり方も乱暴だったかも知れないが、もう少し人の話を聞いてもいいんじゃないのか?
話が平行線になった所でバッカス氏がニョキリと顔を出す。
「アーク、どうしたんだ?随分と騒がしいが」
「こんな時間に役人がきた。仕事熱心な役人がな」
「まだいたか。お前も逮捕だ!」
役人は半ばやけくそ気味になっている。
バッカス氏は何かを察する。
「お前さんは・・・、やぁやぁアリ君、こんな時間に勤勉だな」
「平民風情が馴れ馴れしくするな!」
「話をする気がないということなんだな?」
「当たり前だ。黙って逮捕されるがいい」
「そうだな。全員逮捕だな」
バッカス氏は胸元から紋章を取り出す。
「お前ら全員逮捕だ」




