ドルイドの村-実利目的の自然崇拝-
白いフクロウに先導されながら森の中を進むと開けた場所が見えてくる。おっ、建物。
どの建物も平屋で木材や草木で出来ている。金属は使用されていない。
村では子供達が遊んでいるのだが、その遊び方が普通の子供と異なっている。風の精霊と交信し、精霊と戯れながら遊んでいる。
大人は大人で糸車を回し糸を紡ぎ、穏やかな時間が流れていた。
事前を崇拝しているということなので、焚き火を囲んでウホウホいってるのを想像していたが決してそんなことはなく極めて文明的な暮らしが展開されていた。
「オウル無事だったか!」
「ホーホー」
年が俺と近い男が駆け寄ってくる。若草色染め上げられた麻服を着た好青年だ。
フクロウが男を見かけるとバサバサと飛び男の肩に止まる。
男は心底ホッとしたように破顔しながらフクロウを撫でると、フクロウは嬉しそうに目を細める。
「そのフクロウはあんたのペットか?」
「あっ、お恥ずかしいところを。オウルはペットではございません。村の守護者のようなものです。貴方様がオウルを助けてくださったのですか?」
「ああ。たまたま怪我をしたフクロウがいたからな。治療したらこうして村に到着出来たから気にしないでくれ」
「そうですか。村にはどういった要件でいらしたのでしょうか?」
「おたくの村長に荷物の配達に来たんだが、いるか?」
冒険者ギルドより発行された通行手形を掲げると、納得顔になる村人。
「これはこれは、遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。ハリソンと申します。そちらの狼は使役獣ですか?」
「ああ。俺の大切な相棒だ」
「賢そうな狼ですね」
「俺にはもったいない位だ」
少し身を屈めて狼を撫でてやる。狼は嬉しそうに尻尾を振る。
そんな俺達を目を細めながら村人が見ている。
「分かりました。村長宅にご案内いたします」
◇ ◇ ◇ ◇
村長宅の応接室に通されると、少し待つように言われた。
室内は光の精霊で部屋が照らされている。その光をぼーっと眺めている。村に入って感じたことだが、大人から子供まで精霊魔法を行使出来ている。彼らは迷信で自然を敬愛しているのではなく、実益に裏打ちされた信仰なのかもしれない。そんなことを考えていると人の気配を感じて気持ちを改める。足元にいるウルフもドアを見つめる。
部屋の中に2名の男性が入ってきた。先程案内してくれた男性と40後半位の中年の方だ。
中年の男性はやや細身で温厚そうな顔立ち。どことなく案内してくれた男性と似ている。
「御仁よ。お待たせした。私が村長のブライトンだ。倅のハリソンだ」
「先程はどうも」
「どうも。アークだ」
「何でも私宛に荷物の配達があるそうだね?」
「はい、冒険者ギルドより村長宛てに手紙を渡すように依頼を受けました」
「なるほど、では早速手紙を拝見したい」
「どうぞ」
懐から受付嬢ハナさんから預かった長方形の小箱と受領票を村長ブライトンさんに渡す。
村長がサインした受領票を受け取る。よし、依頼達成だ。気持ちが楽になる。
浮かれたのがいけなかったのかも知れない。村長ブライトンさんが小箱の蝋を剥がし手紙を読み始めると表情がみるみる険しくなってゆく。
チラリと小箱の中にあった封筒を盗み見る。送り主は教会。僧侶ペルラが属している教会だ。教会がドルイドに手紙を送ること自体はおかしな話ではない。崇める神こそ異なるが教会とドルイドは友好的な付き合いをしている。森の女神と光の女神は親友同士だからだ。
「アーク殿。申し訳ないが依頼を一つ頼まれてくれんかの」
「どのようなご用件でしょうか」
アフター5の妄想が崩れ去る。
受付嬢ハナさん名指しの依頼がこんな簡単に終わるわけないよね。
何となく断れない雰囲気が漂う。冒険者はクライアントとギルドあっての職業だ。
勝手に断ってギルドと村の関係性悪くすることも出来んがな。
自由度は高いが自由とは限らない。ギルド受付嬢の笑顔がよぎる。
「実はの、儂にはそれはそれは可愛い娘がおるんじゃ。目に入れても痛くない位、それはそれは可愛い可愛い娘なんじゃ」
「ハハっ、世に可愛くない娘さんはおりませんとも」
唐突に始まる娘自慢(親馬鹿)。知り合いの鍛冶屋の親父さんも同じことを言っている。この手の話は親馬鹿補正はかかるもんだ。話半分で聞き流す。
「ちとな、これから来る娘と同行してある場所に向かって欲しいんじゃ。行き先は娘が知っているし危険もない。ただついてゆくだけでいい」
「同行は俺と狼になりますがよいのですか?」
「是非、そうして欲しい」
意図的に言葉足らずにしたが、村の者ではいけないのだろうか?
彼らは優秀な精霊使いだ。俺と狼が頼りにならないとは言わないが、村の者を同行させた方が護衛としては優秀なはずだ。