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いつの日かの選択

作者: あっぷる

よく「人生は選択の繰り返し」というけれども、本当にそうだと思う。

あの日自分が出した答えは間違っていなかったのか、素直になれず曖昧な言葉で会話を終わらせてしまったこと、などなど選択に後悔はつきものなのだと彼女は過去を振り返ってふとそんなことを考えていた。


6月20日。この日が後に後悔することになった忘れられない日である。

そろそろ志望校を決めねばと考え始めていた頃、ちょうど申込制のイベントをやることになっていたので申し込んだ。いざ行ってみると、当たり前だが周りは受験生、受験生、受験生だった。予想はしていたものの思っていた以上に同級生というものがいなく、彼女は少し不安になりつつあった。

彼女には特殊な能力があり、その能力を使えば、うまくやれないこともないのだが、なぜかその時の彼女は使いたくないと思っていたのだ。

特殊な能力というのはズバリ、「誰とでも仲良くなれる力」だ。彼女からは他の人間には見えない「友情の糸」が出ていて、その糸は大方彼女の半径1メートル以内にいる人全員とつながっている。そしてその糸を切った人とは仲良くなれないが、糸を切るのはもちろん、彼女本人である。自分の力でこのイベントを終わりたい、そんな決意を胸に秘めながらペアになる人は男か、女か、どっちなのだろうと隣の席に来るだろう人物を待っていた。


隣の席の人は、女だった。女子は女子、男子は男子でペアということだったらしい。二人組のペアを3つ合わせた合計6人で机を合わせてゲームをした。隣の席の人は味方というルールで。

ゲームをしている最中に彼女にたくさん話しかけてくる彼がいた。話しかけてくるというよりは茶々を入れているという方が正しいのかもしれない。でも、とにかくその彼のおかげで彼女のいたテーブルはどこのテーブルよりも盛り上がっていた。

お昼休憩を挟み、ゲームの展開が終わりに差し掛かってきた頃、彼は彼女のことを「マダム」と呼ぶようになっていた。そして彼女もまた、彼のことを「キラー」と呼んでいた。マダムと言われたからキラー、マダムキラーとそんなことを思って彼女は彼のことをキラーと呼んだのだろう。

イベントが終わり、こういう時によくあるアンケートを提出した人から解散、という形になった。解散してバスに乗る前、彼は言った。

「今日は楽しかったね」

「そうですね、ありがとうございました。」と彼女。

「ねえ、」二人の声が重なった。

「いいよ、先に言って」と彼。

「ありがとう」

「次会った時はちゃんと名前で呼んであげるね」

「そっちは?」と彼女。

「メアドでも交換しとく?って言おうとした」と彼。

「どっちでも」

「じゃあしなくていいっか、またいつか会う日まで」

「うん、じゃあね」


その後、彼に会うことはなく3年の時が過ぎた。顔も名前も忘れたが、ふとした瞬間にこの日の出来事を思い出し、あの日素直にメアドを交換していたら今とは違う運命になっていたのかもしれないと彼女は思うようになっていた。


そうして彼女の青春の1ページは文字が現れぬまま幕を閉じた。

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