4:魔の紋章と結束の力
手の甲に浮かんだ謎の紋様。
光すら飲み込むほどに黒く、地獄に生えた茨のごとく禍々しい。
その中央には数字でも表しているのか、『I』のような形が刻まれていた。
コレが何なのかまったくわからないが――本能で、使い方がわかる。
「魔の紋章よ、我が同胞に力を与えよッ!」
そう叫んだ瞬間、シルバーウルフたちの身体に変化が起きる。
彼女たちの腹部がわずかに輝き、『奴隷化の魔法紋』とも違う赤い紋様が現れたのだ……!
『なっ、なんだこれは!? 力が……湧いてくる!?』
戸惑いの声を上げるシルバーウルフたち。
――身体能力の増強。それが紋様の効果の一つらしい。
さらにこれだけではないようだ。俺は仲間たちに、心の中で問いかけた。
“……なぁみんな、聞こえるか?”
“むむっ、なんだこれは!? 頭の中にエレンの声が直接!?”
俺の脳内に驚く声が返ってくる。
――意思の伝達。絆を結んだ仲間に対し、テレパシーとも呼ばれる現象を起こせるようになるらしい。
たしか風の魔術に特化した『魔術師』は離れた相手にまで声が届けられるというが、コイツはそれ以上の性能だ。
「風に声を乗せる必要がないなら、遮蔽物に囲まれた空間や、屋内にいる相手とだってやり取りできるはず……!」
地味だがとても強力だ。
身体能力の強化といい、極めて戦争に特化した能力といえるだろう。
『な、なぁエレン。なにが起きているのかまったくわからないが、だが……!』
「ああ、これは使えるぞ!」
ギルドの連中がこちらに来るまでわずかに時間がある。
息の合った俺たちなら、迎撃準備を整えるには十分だ。
「さぁ、見せてやろうぜ。俺たちの絆の力ってやつを……!」
◆ ◇ ◆
「――激しき炎よ、邪魔する全てを焼き払えーッ!」
邪悪な業火が銀狼の森を焼き払っていく。
ギルドマスターにして『炎の魔術師』であるベルトは、森の前までついて早々、邪魔な木々を燃やし始めた。
「わははははッ! どうだ、悔しいかぁ魔物ども!? お前たちの住処が焼けていくぞー!?」
炎弾を放ちながら高笑いをあげるベルト。手のひらを突き出し、豊かな自然を灰へと変えていく。
森をそのまま手に入れたい領主からしたら頭を抱える光景だが、残虐なベルトには躊躇など一切なかった。
――要は全焼さえしなければいいのだ。
たとえギルドが落ちぶれようが、魔術師であるベルトは国でも貴重な人材だ。
森の一割程度を焼いたくらいなら、領主もそこまで糾弾してこないだろうと彼は考えていた。
「フン、あのケダモノどもは森での戦闘に慣れておる。流石のワシもそこに飛び込むのは遠慮したいからなぁ。――だがそれならば、邪魔な木々を焼き払い、激怒した狼どもを目の前に引きずり出せばいい話よ!」
魔物の思考など単純だ。
こうして住処を炙っていけば、そのうち怒り狂いながら飛び出してくるだろう。
そこにギルドメンバーたちが矢を放って弱らせ、手下である魔物たちに抑え込ませている間に『奴隷の魔法紋』を刻み込めばおしまいだ。
困難な依頼を達成し、さらに新たな戦力も大量に手に入る。
まさに一石二鳥の策だ。これでギルドの汚名を晴らせるだろうとベルトはほくそ笑んでいた。
そうしてギルメンバーを引き連れながら、木々を何本も焼いていったのだが……、
「……お、おかしい。どうして奴らは飛び出してこんのだ!?」
困惑の声を上げるベルト。
いつまで経っても敵が姿を現さないことに戸惑う。
シルバーウルフたちは縄張り意識が強く、森に踏み込んだ時点で襲い掛かってくると聞いていただけに、無反応など予想外だった。
「まさか奴ら、森を捨てて逃げたのか……?」
それならそれで別にいい。森を確保せよという領主の依頼は達成できる。
だが、もしも奥地で息を潜めているのなら大変だ。一応は確認しておく必要があるだろう。
「うぅむ、流石にこれ以上森を焼くにはいかんからな。仕方がない……魔物たちよ、森を突き進んでいけ!」
『キ、キシャー……ッ!』
要するに死地に向かえという命令である。
もしもシルバーウルフたちが健在ならば、先兵である魔物たちは真っ先に群がられて死んでしまうだろう。
しかし魔物を道具扱いしている人間たちに、躊躇なんてものは一切なかった。
「ギルドマスターの命令だ! オラッ、いけよゴミどもッ!」
「鞭で打つぞゴラァ!」
魔物の背を蹴るテイマーギルドの者たち。
魔法紋の効果で反逆できないことをいいことに、罵倒も暴力もやりたい放題だ。
これが、今の人類が魔物たちに対して取る一般的な態度だった。
『キシャァ……』
『グゴォ……』
かくして、大小さまざまな魔物たちは弱々しく鳴きながら森を突き進んでいく。
そんな彼らをニヤニヤと笑いながら見送るギルドメンバーたち。
“さぁ、シルバーウルフたちはあのエサどもに食いつくだろうか?”、“何匹が生き残ると思う?”
などと、まるで遊び感覚で魔物たちの末路を楽しんでいた。
――だが、その時。
『グッ、グガーッ!?』
ある程度進んだところで、魔物たちが悲鳴を上げた!
しかしそれは銀狼たちに噛み付かれたからではない。
突如として足元がへこみ、その場に倒れ込んでしまったからだ――!
「なっ、落とし穴だとぉ!?」
ベルトは驚愕の声を上げた。
どうしてそんな罠が仕掛けられていたのかと戸惑う。
動物よりも賢いとされる魔物たちだが、それでも落とし穴なんて『人間じみた』罠を作れるなんて聞いたことがない。
そうしてベルトたちが固まっている間に、
『ワォオオオオオーーーーーーーーーーンッ!』
「う、うわぁっ出たッ!? シルバーウルフたちだー!?」
周辺の茂みから銀狼の群れが姿を現した!
彼らはギルドメンバーたちが戸惑っている一瞬の隙を突いてきたのだ。
「あっ、や、やめっ、噛まないでッ、ギャーーーーーーーーッ!?」
抵抗する暇すらなかった。
シルバーウルフたちの足は非常に素早く、飛び出してきたと思った瞬間にはギルドメンバーたちの首筋に噛み付いていたのだ。
血の泡を吹きながら瞬く間に彼らは絶命していく。
「なっ、何なのだこれはァッ!? 罠を使い、さらには激情に突き動かされることなくこちらの隙を突いてくるだと!?」
意味が分からないッとベルトは吠えた。
周囲にギルドメンバーたちを立たせていたおかげで無事だったが、ほっと息を吐く余裕すらない。
ああ、自分たちは本当に魔物の群れと戦っているのだろうか?
まるで訓練された軍隊を相手にしているようだ。
実際にベルトがギルドメンバーに噛み付いた銀狼に炎弾を放とうとすると、その銀狼は指揮官から指示でも出されたかのように走り去ってしまう。
ならば別の相手にと標準を合わせた瞬間、そのシルバーウルフも一瞬で離脱してしまうのだ。
「ちょ、ちょこまかと動くなぁッ!」
あちこちに手のひらを向けるベルト。
しかし相手はすぐに逃げてしまい、彼はその場で右往左往することとなる。
「このワシが完全に弄ばれているだとぉ!? このゴミどもがっ、生意気なぁーッ!」
そうして次々と手下が倒れていく中、ベルトが怒りの叫びを上げた瞬間――、
「俺の仲間を、ゴミだと言うなぁああああーーッ!」
「なぁっ!?」
凄まじい拳がベルトの顔面に炸裂した――!
「ぐぎゃひぃいいいいいーーーー!?」
ごろごろと地面を転がっていくベルト。彼の口から汚らしい悲鳴が上がる。
ああ、全ては一瞬のことだった。
森が焼けていく中、銀狼ばかりを目で追いかけていたためベルトは気付かなかったのだ。
野垂れ死んだと思っていた黒髪の男――エレン・ペルセフォネが駆け寄っていたことに……!
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