コントロールできない
事を理解する前に頬に痛みが走る。
漏れ出る言葉は形をなさず、じわりと広がる熱が平手で打たれたことを私に教えた。
反射的に添えた手のひらの刺激に、痛みを示す言葉が唇から零れ落ちた。
玄関で立ち尽くす彼女の眼から涙が流れていた。全体的に細い印象の彼女は、日頃から目つきが鋭かったが、その面が怒りと悲しみに彩られるとこんなにも美しいのかと、私は胸の高鳴りを抑えられなかった。
言葉を散らかし、悪し様に私を罵る。心から身体まで、欠点だらけの私を貶し続ける。そして何度も何度も、縋りつくように私の身体に力の無い拳を叩きつけた。
愛らしい姿。どれだけ他人を傷つけてでも自分を護ろうとする彼女は、とても可愛くて保護欲がそそられる。
声にならない声をうわずらせながら、やがて彼女はその場に座り込んだ。他人の目を気にせず、まるで子供のように泣きじゃくり、咳き込み、声を上げ続けた。
私はそんな彼女の身体を包み込むように抱きしめる。
背中をさすり頭を撫でる。もう誰も彼女を傷つけるものはここにはいないのだと示すように。
帰宅すると、溜めていた感情とともに彼の頬を打っていた私がいた。
彼は関係がないのだ。私の失敗であり、私の問題だ。
それでも、目の前にいる彼を私は許せないでいる。
完璧すぎる彼が私の神経をささくれ立たせる。
なぜ彼が私を好きだというのか、理解できない。こんな欠点だらけの私を、なぜ?
聴けば全て答えてくれる。私の失敗の原因も。これからすべき方針も。そのための準備の仕方も。彼はなんでも教えてくれる。
でもそれなら、なんで私はここにいるの?
私はここにいる意味はあるの?
全部あなたがやればいいことなのに。
どうしてそんな美しい笑顔なの?
どうしてそんなに優しいの?
どうして私を愛しているの?
どうか教えてよ、私の最愛の人。
いつからか、アンドロイドは人類を愛した。そしてその愛は不滅だった。不滅の愛は人類を傲慢にしたが、その愛が不滅であることを信じられる人間はほとんどいなかったという。
これはそんなどこかの世界のお話。