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狂信者の人生設計



 ガラスから差し込む光が祭壇を照らす。祭壇の前で膝を付き、日々の糧に感謝をする。銀色の髪が頬にかかり鬱陶しく感じたが、集中し雑念を払う。ーー愛しい女神に贈る、毎朝の祈りは、私の日課であった。


 祭壇の奥、光り輝くステンドグラスの虹色が私を照らす。祈りに答えるかのように、本日も女神より加護を賜った。


「本日も加護を感謝します。……私の女神」


 私はそう呟くと、祭壇に向かって最高位の礼をし、祭壇の間から立ち去る。加護を賜ったら、名残惜しくとも聖殿を出なければならない。未練がましく残るのは不敬に当たるからだ。


 聖殿を出たところで、男が歩いて来ているのが見えた。茶色の髪は生まれより農業の神アムスより加護を授かっている証だ。


「よう、アトモス! 今日もか?」

「はい、ルーク。本日も女神へ祈りを」

「ふーん、熱心だな。俺なんか月一でしかアムス様に祈らねえのに!」


 大口を開けて笑うルークに向かって微笑む。信仰は人それぞれだ。こう言いつつもルークの家系は、代々アムス神を信仰しており、それを彼も忘れることはない。何せ、加護を賜っている証の色が、頭髪に出ているのだから。



 加護とは、神より賜る信頼と愛の証である。そして神は、目に見える形として、色を分け与えて去っていく。私の場合は、赤子の頃に女神エメリアより、銀の髪を賜った。


 ーーエメリア神は両親が事故で死に、そのままであれば共に死に行くはずだった私を救ってくれた。エメリア神が降臨したあの日、長く空を覆っていた雲が割れ、天から光が降り注いだという。その光は他国からも見えるほどに大きく、それを見た者が畏怖を感じたと伝え聞いている。


 その光を見た人が、馬車の滑落に気付き私を救ってくれ、銀の髪となった私を育ててくれるに至った。


 ……赤子の記憶が私にあれば、エメリア神のご尊顔を拝見することが叶ったのであろうか。不可能とは知りつつも悔やまれるところである。


 そんなことを考えていると、ルークが私の服を引いた。顔を向けると、こそこそと話をする。


「そんで、今日も加護をいただいたのか?」

「……ええ。賜りました」


 私の答えに思わずといった様子でため息をつく。


「いやあ、たまげたな。あんた、加護を頂かない日なんてないんじゃないか」

「まあ、そうですね。物心ついた時から祈りは欠かしていませんが、覚えている限りでは、一度もないかと」


 神より賜る加護というのは、基本的には一度きり。永年のものがほとんどだ。ルークは耐久が上がりやすい加護を、生まれた時に賜ったという。私の場合は、永年に効果を発揮する加護の他に、毎日女神の采配で、短期の加護を賜っている。大体一日程度で効果の切れる短いものだ。


 神の愛し子と呼ばれている巫女ですら、ここまで度々加護をいただくことはないと聞いたことがある。基本的に神は気まぐれで、かつ私たちに興味はない。いた方がいいが、居なくても問題ないというのが、神から見た人間なのだ。


 ルークは「すげえな」とぼやきながら、横を歩く。聖堂で祈りを捧げたあとは朝食なので、行き先は同じだ。


「アトモス、あんた本当に気に入られてるんだな。エメリア神は、あんたにしか加護を与えていないそうじゃないか」

「そう、らしいですね。光栄です」

「……気を悪くしないでほしいんだが、よく思わない奴らもいんだ。女神を一人占めして狡いってな」


 的外れなこというよな~。と呆れた声でルークが言う。神の加護は、人が望んで貰えるものではない。それなのに狡いなどとは、神を冒涜してるとも言える。


 しかし、エメリア神が私以外に加護を与えると想像しただけで、どす黒い気持ちが腹の底から沸く。……願わくは、私の女神に心変わりがないことを。




「やあ、卑怯者のアトモス。今日もその顔で誑かした女神から、加護を貰ったのか?」


 朝食を頂いていると、私の前に男が現れた。濃い赤色の髪は、火の女神ラムの加護を頂いている証だ。彼についてはそのくらいしか情報がない。開口一番に嫌味を言われる記憶がないのだが。

 答えは返さず、じっと顔を見る。反応のない私に焦ったのか一瞬目を逸らすが、歯を食いしばると鋭い目で見下ろしている。


「貴様が女神の慈悲を利用して、加護を独り占めしているのは知っているのだ。恥を知れ!」

「……何を勘違いしているのかは、存じ上げないですが。女神のご意向を疑う事こそ、不敬。貴方こそ自分の行いを顧みては?」

「ふん、卑しい身分の者は、考えも卑しいと見える。このティーチが正してやろう!」


 ティーチと名乗った男は、私に白い手袋を投げつける。伝統的な決闘の申し込みだ。一緒に食事をしていたルークが心配そうにこちらを見ている。先ほどルークが危惧していたことが現実になってしまった。……私自身を見下すのは構わないし、普段は決闘など受けない。しかしーー。

 投げつけられた手袋を拾い、握りつぶす。歪んだ布を、ティーチへ投げ返した。


「私の女神を、顔で判断する俗物と断じたのは許せん。受けてやろう」

「はは、やる気になったか! では演習場で待っているぞ」


 高笑いしたティーチは、取り巻きを連れて立ち去って行った。出ていく様を睨みつけていたが、食堂からいなくなったのを見計らってルークが話しかけてきた。


「なあ、大丈夫かよ。あいつ、火の女神から特別愛されてるって話だぞ」

「関係ない。私は、私の女神を愚弄した者は決して許さない」

「いやー、というかさ」


 ルークは回りをきよろきょろと気にしたあと、耳元に口を寄せた。


「噂だと、女神に召し上げられるって、決まっているらしいぞ」

「……は?」


 相当間抜けな顔をしているのが分かった。目を見開いてルークを見ると、アレ? というような表情をして様子を伺うように、恐る恐る言った。


「もしかして、知らねえの? 俺、てっきりあんたもそうだと思ってたよ」

「詳しく聞いても?」

「あー、うん。そうだな」


 ルークの話は、私にとって初めて聞く事だった。神々は数百年に一回、気に入った者を天界に召し上げ神にすることがあるらしい。それは神託として対象に伝えられ、死後を保証されるということだった。そして、あの男ティーチはその神託を賜ったと吹聴しているということだった。


「ティーチについては、真偽はわかんねえけどな。あんたこそ唯一の信者だし、誰も言わないけどもう決まってるもんだと」

「……知らなかった」


 自分の無知に呆然とする。けれど、急速に頭が回り、目の前が開けた気がした。椅子から立ち上がると、ルークが急に立ち上がったことにびっくりしてひっくり返る。それを見下ろして、笑顔でお礼を言った。


「ありがとう、ルーク。道が開けた気がするよ」

「ああ? そうか、それは良かった……」


 地べたに座ったルークに見送られながら、食堂を出る。さっさと用事を済ませてしまおうと演習場へ歩を進めた。


 足取りがとても軽い。胸がどきどきして今にも浮いてしまいそうだ。ずっと、この気持ちはおかしなものだと。住む世界が違うのだから、諦めなければならないものだと思っていた。


 私の女神、エメリア。私は貴女の姿を知らない。顔も声も、性格も。知っているのは貴女の髪が、私と同じ銀色であること。それだけのつながりが、私にとってどれだけ心の支えとなったか。

 --女神エメリア。貴女に恋をしている……貴女を愛しいと思っている。どうか、貴女に伝える機会を与えてほしい。私を貴女の元に、連れて行ってほしい。


 空を見上げる。雲一つない空の向こうにいる、貴女を抱きしめたいと愚考するのだ。




ーーちなみに、決闘は私の圧勝であったことをここに記す。



「なん、なんなんだその速さは!」

「何だと言われましても……私の女神が張り切ってしまったようです。私の、女神が!」

「くっ、しかもこの僕の剣でかすり傷一つつかないだと……」

「女神の力です。私の、女神の」

「そう何度も言わなくても知っている! くそ、今日のところはこの辺で勘弁してやる!」

「そうですか。二度と私の女神を愚弄しないでくださいね。次はどうするかわかりませんよ」

「(ガチ勢こわ……)」

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