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第一話 はじまり、はじまり


 『人類最強伝説』――これはこの世界で生きていれば絶対に知っている話だ。

 俺が生まれる数前年も前から伝えられているという、最古のおとぎ話。

 おとぎ話の主人公は剣、武道、魔法、呪術、すべてのジャンルにおいて全世界一位の実力を持っていた言われ、現代までその記録を超えるものはまだ現れていない。

 何故か?

 それはおとぎ話が年を経るにつれ主人公の伝説が徐々に誇張されて行くからである。

 そもそもここで言う人類とは、人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、竜人族、吸血人族、鬼人族の七つすべてに当てはまっており、それぞれ得意な魔法や武術がハッキリ分かれている。

 最も得著が無いのは人族で、使えない魔法は無いがこれと言って特出した魔法や武芸の才は無く、他族からは器用貧乏などと揶揄されている。

 その人族の英雄がおとぎ話の主人公であるアスランという人であった――。





「はぁー、アスランかぁー」


 俺は途中まで旅芸人の語りを聞いていたが、大英雄アスランの話になった途端踵を返した。

 俺はアスランが好きではない。

 人族の希望としてもてはやされているが、本当にそんなに強かったのかは怪しいところがあると思っている。

 それに俺がアスランが苦手な理由がもう一つあった。

 それは――


「よお、アスラン。久々だな、調子どうだ?」


「いまいちだよ」


 俺がアスランと同じ名前だからだ。

 両親が大英雄アスランにあやかって、一ひねりもせずにアスランと名付けやがった。

 そのせいで幼い頃からアスランと比べられ、からかわれて生きてきたんだ。


「なんだよ、大英雄様がその調子じゃあ人族の立場は落ちるばかりだぞー?」


 こんな風にな。


「うるせえんだよ、おめーはどうなんだよオスカル」


「俺か? いやあ実は俺も最近からっきしでさあ。さっきもゴブリン三体に追っかけまわされて、エルフの人が助けてくれなかったらやばい所だった」


 苦笑いでオスカルは話す。

 このオスカルと言う男と俺は冒険者をやっていて、最近新しく発掘されたダンジョンを目当てにこの町へやって来たところ、意気投合してすれ違えば軽く世間話をするような仲だ。


「ゴブリン三匹に殺されかけるって冒険者としてどうなんだよ……」


「ははは、俺はトラップ系の呪文が得意だからさ……」


「ゴブリン相手じゃ言い訳にならねえな……」


 オスカルが殺されかけたゴブリンという魔物はめちゃくちゃ弱い。

 大勢で集まると弓や盾、剣などで汚い隊列を組んで襲ってくるので面倒くさいが、五匹までなら大した戦略も立ててこないし、立てたところで一人でも瓦解できるので難なく倒せる魔物である。


「いやあ、武術はやってこなかったからなあ」


「お前、トラップの腕は確かなのに武術とか剣の扱いに関してはまるっきり素人だもんな」


 そう、オスカルは武術などはからっきしだがトラップの腕前はピカイチだ。

 しかしオスカルの職業である『罠師』はパーティーにいないと上手く発揮できない上に、トラップを仕掛けないといけないほど強い敵は更に深い階層にしか出ないので、ソロで格闘が出来ないオスカルは罠師として死んでいるというわけだ。


「俺も冒険者卒業かなあ」


「おいおい、辛気臭いのはやめてくれよ」


 いくら罠師として死んでいたとしても、仲のいい同期が辞めていくのは心が痛む。


「あ、そー言えばエルフに助けられたって、さっき言ったよな」


 しかし当のオスカルは冗談だと言わんばかりに再び先程のエルフの話をはじめた。

 誤魔化しているだけかもしれないが、俺もそんな話は続けたくなかったのでエルフの話に耳を傾けた。


「うん、そのエルフがどうかしたか?」


「そのエルフ、どうやら『魔法の巫女』っぽい」


「えええ!? 嘘つけ!」


「いやいやいやいや、これマジ! 本当なんだって!」


「嘘つけよ、そもそも『魔法の巫女』なんてこの世に存在してるかも怪しい」


 『魔法の巫女』とは大英雄アスランの仲間のうちの一人、スワンと言うエルフが持っていた二つ名だ。

 アスランとの冒険が終わった後、エルフの森に帰ったスワンが魔法の才のある子孫に自分の魔法を全て受け継がせ、それがエルフの森で代々行われているらしい。

 しかし、それもすべて噂で本当のところはエルフの中でも相当位の高い人間しか知らないらしい。


「でもさ、無詠唱だったんだよ。魔法を唱える時!」


「お前が聞き逃したとかではなく?」


「そんな訳無いだろ、だって俺エルフさんの後ろで縮こまってたもん」


「全くお前ってやつは……」

 

 それにしても無詠唱か……。

 今現在魔法を無詠唱で発現させるというのは不可能とされている。

 何故できないのかとか、そこら辺の原理はあまりよく分かっていないが何をどうしても不可能なのだ。

 そして、絶対に不可能とされる無詠唱を唯一可能とする者、それが『魔法の巫女』である。


「まあ、お前も明日ダンジョン行くなら探してみろよ、この町にはエルフが少ないし、意外とすぐ見つかるかもしれないぜ! じゃあな」


 そういって足早にオスカルは去って行った。


「魔法の巫女か。探してみるのもいいかもな」


 オスカルと別れた俺は宿に戻って剣の手入れを行うのだった。



「さて、今日もダンジョン日和だな」


 翌日、ダンジョンの入り口にやって来た俺は入り口で手続きを済ませ暗い洞窟に入って行った。

 このダンジョンに潜るのも、もう数回目だが三階層から先に進めたことが無い。

 俺の武器は主に剣。

 職業で言えば剣士になる。

 魔法の才能が無かった俺は幼い頃から剣術の練習ばかり行ってきた。

 たった一つだけ使える魔法が、いや術があるがそれを使うことは一人で潜る以上一生ないだろう。

 昔駆け出しの頃に一度だけ使ったことがあるが、それが原因でパーティを脱退されられたのは今でも苦い思い出だ。

 そんなことを考えながら、なるべく先に入った冒険者たちと同じルートを進みながらに階層へと向かっていく。

 前の冒険者たちの轍を踏むことによって、モンスターと出会う確率はかなり下がるからだ。


「できればこのまま魔物と出会いたくはないんだが……」


 三階層まではなるべく武器や体力の消耗は押さえておきたい。

 しかしそう思った矢先、


「グギャアアア!」


 ゴブリンが棍棒を携えて現れた。

 緑色の皮膚に口からよだれを垂らして、浮き出るあばら、ポッコリ出た腹をしていて不健康そうな体つきをしている。

 

「ゴブリンくらいなら大したことないな」


 俺はゴブリンに向かって勢いよく走っていく。

 たいしたスピードではないが、筋力の少ないゴブリンに振り遅れるわけがない。

 そのまますれ違いざまに一閃。

 ゴブリンも棍棒を振ろうとしていたが、案の定俺の攻撃が先に当たり耳障りな叫び声を残して息絶えた。

 俺は紫色の血を払い帯刀する。


「さて、何かいいもの持ってないか?」


 死んだばかりのゴブリンの持ち物を漁る。

 こいつらは冒険者の死体を漁ることが多く、時たまにかなりレアな装備を所持していたりするのだ。

 まあほとんどの装備が人間用に作られているし、ゴブリンが使えることはほぼ無いんだけどな。

 そして冒険者がゴブリンの死体を漁り、再び人間の世界に装備が帰ってくるというわけだ。

 何という残酷なサイクル……。


「ん? なんだこの指輪」


 ゴブリンの手に指輪がはまっていることに気が付く。

 指ごと切り落として指輪を取ると緑色に輝く何かしらの鉱石がはまっていて、怪しい光が反射する。


「なんかレアっぽいな、貰っていくか」


 どうせ街に帰ったら二束三文で売るし、どうせなら付けて行こう。

 そう思い俺はためらいなく指輪をはめた。

 その瞬間、体が熱くなり魔力が吸われていくような感覚が俺を襲った。


「ちっ! 『呪い』つきか! 最悪だ!」


 呪い付き装備は文字通り呪われていて、その装備を付けると呪いの種類にもよるが最悪身体異常で死んだりすることもある。さらに呪いの装備には一定の確率で起こる事象があって……。

 

「クソ! 外れない! なんだよ、このまま死ぬのか!?」


 そう、一定の確率で呪いの装備は外れなくなる。

 それこそ指を切り落とさない限りは。


「くッ、よりによって利き手に着けるなんて、俺はどうしようもない馬鹿だな……」


 指輪がはまっているのは利き手の中指。

 この指を切り落とせば俺はもう二度と右手で剣を振るうことができないだろう。

 ポシェットから取り出したナイフを片手にどうすべきか悩む。

 だが、そうしている間に魔力を吸われる感覚が徐々に薄らいでいきやがて止まった。


「止まった? どういうことだ、これは呪いの装備じゃないのか?」


 どういうことかは全く分からない。でも一つだけ分かったことがある、それは――


「助かった……」


 俺は安堵のため息を吐く。

 とりあえずは街に戻って調べよう、こんな精神状態じゃダンジョンで死んじまう。

 精神的ダメージを癒すために俺はおおよそ三十分でダンジョンから出たのだった。

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