星游ver
星游ver
台所を覗くと、士學が主婦顔負けの包丁さばきで夕飯を作っていた。
食事担当は交代制。月曜は俺、火曜は叔玄、今日は水曜だから士學、木金土は青祥、日曜は全員で。そして少春が時々手伝いにくる。
陵は下手なわけではないけど、士學に言わせると材料の無駄や市販のタレに頼りすぎらしい。
野菜の皮まで無駄にしない士學の節約モットーが、レベル高すぎると思うんだが。
「居間で何を騒いでたんだ、また陵なのか?」
「そう、小テストで赤点とって隠蔽したのを確保した。ったく、あれだけ俺が教えたのに」
「やれやれ、何かまた破壊したのかと思ったぞ」
「あ、それはいい感じにボロだした。バスケゴールを壊したのと、野球で捕手をダウンさせたらしい」
ひよこ柄のエプロンで、鍋に蓋をした士學がため息をつく。
これは家庭科の授業で作ったときのらしいが、何故ひよこ柄なのかは俺も知らない。
「そういや青祥が騒いでたけど、士學なんかやらせてるのか?」
「ん?青祥はバイトの面接にいったんじゃないのか?」
バイトの面接?だからスーツだったのか。俺はてっきり合コンでも行こうとしてるのかと。
やたらにモテ男がどうとか言うから、そういうネタなのかと思ってた。
「青祥といえばーーーん?」
プリンの話をしようとすると、男子寮のインタフォンが鳴る。
少春たちなら鳴らさないから、誰か通販でも頼んだのか?
士學の方は圧力鍋が高らかに鳴ったので、台所は任せて俺が玄関を開けた。
「やあ、星游!遊びにきーーー」
「早く帰れ、二度とくるな、そして消えろ。この世から爆発しろ、以上」
「閉めることないだろう、最愛の兄さんだぞっ☆」
「てめーなんかしらねーよ!この世から細胞レベルで崩壊して溶けて消えろよ」
孤児だった俺になんと身内がいた。
それを知ったのは最近で、そんでもって自称兄というこの龍星は、ウザいこと極まる。
何かと尋ねてくるのを忘れてた。多分脳細胞が全力でこいつを嫌っているからだろう。
「そう無下にすることないだろう、たまには兄さんと呼んでくれてもいいだろー星游」
「閉めようとしている玄関に足ねじ込んでくるんじゃねーよ!そしてたまもなにも一度もそんな呼び方したことねーわ!」
迷惑訪問ばりに足をねじ込んでくる龍星のつま先を全力で蹴って、そのかかとに攻撃すると悲鳴があがってドアがようやく閉まった。
ああ、この世からうざいものナンバーワンが消えたな、サッパリした。
向こう側からは未だなにか戯言が聞こえる。警察、呼ぼうかな。
「なにがあった、星游」
「なんでもない、粗大ごみに捨て忘れた人間が居た。また来たら通報するわ」
「ああ、アイツか。変なものに好かれるな、おまえも」
名前をだすこともなく士學にも誰がきたか通じたらしい。
青祥がよろめきながら廊下をさまよっているのを見て、俺は本題を思い出した。
「そうだ、士學。青祥が探してるプリンだけど」
「あぁ」
「昨日の夜、冷蔵庫あけてコッソリ喰ってたの士學だろ」
お玉で味噌汁をかき混ぜていた士學は少し考えて、「おお」と手をあげる。
「そういえば、夜中に腹が減って何か食べにいった記憶はあるがーーあれはプリンだったのか。四等分する約束だったのに悪かったな」
「いや、俺はいい。陵には叔玄が作ってやるからそれでいいんじゃないか」
いきなりゾンビのごとく床を這ってこっちに突撃してきた青祥にヒく。
妖怪か、お前は。
ホラー映画並に動きがヤバイ。
「士學様、まさかの自分でフラグ回収とか!!俺に事件だとか言っといて、犯人あんたじゃないですかーーー!!」
「忘れていた、すまん」
「一言!!??俺はずっと一人一人に聞いて回ってですね!?無駄な情報ばっか掴んでーー」
「いやー、有意義だったと思うぞ。陵の隠してるものがお陰でバレたしな」
うん、めでたいな。これがハッピーエンドってやつか。
ん?なんか忘れてることがあったような。
「青祥、バイトの面接は?」
俺の一言で、青祥が発狂したのはいうまでもなく。
忘れていたのは士學だけじゃなかったってことだな。
面接に駆け抜けていく青祥を見送って、未だうざいストーカーがその勢いで吹っ飛ばれされたのを楽しく見送って、俺は気がついてしまった。
居間に置きっぱなしの履歴書を。
グッバイ、青祥。
END
たまにまた無駄になにか浮かんだら書くかも。星游はあまりしゃべらないので、一人称は珍しいというか。素朴ですね。オチは云いだした本人っていう。青祥、乙!龍星までゲストで出張ってきました。現代だとブラコンでストーカーでやばさ極まってますね。残念美形とは龍星のことでしょう。いっそ星游と叔玄と陵は兄弟設定にしとこうかと思いましたが、やめたら出てきてしまいました。




