叔玄ver
叔玄ver.
「兄さん、また背が伸びたんじゃないですか?制服のズボンの裾は、限界まで出してるから買い替えですね。この上のサイズってありましたっけ?」
「いや、これより上がないから、このままでもいい」
「でも、あと一年は着るわけですから……ボタンとか今日は無事ですか?」
「必死で逃げてる。だいたい、卒業式でもないし、ブレザーのうちの制服のボタンがなんでしょっちゅう消えるんだ」
憮然としている兄さんに、自分がモテている自覚はないみたいだ。
兄さんこと、星游兄さんとは血のつながりがないけど、孤児だった兄さん、僕と陵は小さいときから一緒に育っているので、つい兄さんと呼んでしまう。
空色の髪に琥珀と銀のオッドアイで、学校では何処に居ても目立つ。
士學先輩が、またそんな兄さんと一緒にいるので、時々女子生徒が「萌え~」とか「士×星CP!?」「いや、むしろ星×士もあり!」とか囁いているのも聞こえたり。
兄さんにまさか腐女子に狙われてますよ、と教えたところで、多分気にしないだろうな。
かくいう自分も時々ターゲットになっているらしく、陵に忘れたお弁当を届けたときに「萌えはげるー!」という叫びに何人か女子が保健室行きに。
なんで弟に忘れたお弁当を届けただけでそんな自体になるのか、やっぱり聞かなかったことにしよう。
「なんで男の癖に裁縫スキルまで備えてんだよ!!くそお、神はそんなに俺が嫌いなのか!!」
「はい?青祥さん、どうしたんです?」
ドアは開けっ放しだったから、何故か悶絶する青祥さんが丸見え。
けど、その発言の意味はわからなかった。
「なんだ青祥、どうかしたのか?夕飯の買い出しなら手伝おうか?」
「うるせえ、モテ野郎!そんな優しさとか兼ね備えて、俺をそんなに笑いたいのか!?今欲しいのはそんな優しさインフォじゃないんだよ!どうでもいいけど、プリンインフォ限定なんだよ!!」
「いきなり逆ギレしてどうしたんだ?いつになくヤバそうだな」
「いつだってヤバいよ、ギリギリなんだよ!!」
兄さんと青祥さんの会話がイマイチ噛み合っていない。
青祥さんが追い詰められる原因は士學先輩しか心当たりがないので、使うまでもなかったソーイングセットをしまう。
「青祥さん、プリンがどうかしました?」
「星游だけじゃなく叔玄までもが!!そうだった、ここには俺の味方がいない!!」
「何を言ってんですか……困ってるなら兄さんだけじゃなく僕も手伝いますよ」
事情はわからないけど、プリンくらいなら僕が作れるし。
限定ものでも、多少は寄せられるかも。
「じゃー聞くけど、昨日、プリン余計に食べなかったか、どっちか」
「は?少春のプリンですか?」
「ああ、昨日一個食べたけど、それがどうかしたか?」
新しいコンビニの期間限定ものでも買いにいかされたものの見つからなかったのかという、僕の予想は外れていた。
「星游、そうじゃないんだよ、誰か二個食ったんじゃないかって話!!」
「そういう話なら僕や兄さんより、陵が一番あやしいですけど。そもそも兄さんプリンはあまり得意じゃないですよね?」
「少春の前だから食べたけどな。生クリームが乗ってたし、なければまだしも良かったんだけどな」
「え、生クリーム駄目なの!?って、そのインフォもいらねーし!」
「好きなのはやっぱ肉だな」
「好きなもの聞いてねーよ!!じゃ、どっちもシロか。アリバイなんて、ないよな」
そんな刑事ドラマじゃあるまいし。
多分アリバイなら誰も立証は出来ないような。
そういうことなら、やっぱり陵の可能性が大きいけど、犯人を見つけてどうするんだろう。
たっだいま~!という呑気な声が下から聞こえて、そういえば陵は遊びにいっていたのを思い出す。
「よし!今度こそ犯人だな!!」
ダッシュで階段を下りていく青祥さんを、兄さんと見送る。
「プリンなぁ……そういえば、昨日の夜、冷蔵庫の前に立ってのはもしかして」
「兄さん、何か思い出したんですか?」
兄さんはいたずらっぽく笑って、「いや、なんでもない」といったから、僕は兄さんの袖口にボタンがひとつ足りないのを見つけて、しまったソーイングセットを出した。
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敬語キャラの一人称ってきっつい。呼び捨てだと違和感だったので、さんつけしてもらってよかったね青祥。どんどん壊れていくけど。遊びなので、ポイポイ投稿。叔玄だとマジレスになるのでどうしても星游を挟む。次回もゲストは星游です。さあ、犯人は誰だ。