8.ラッピング選び
雑貨屋であるものを買ったあと、百円ショップにきていた。今の百円ショップって、すごい。色々揃っている。お菓子作りの材料から可愛いラッピングまで、全部揃うんじゃないかってぐらい、すごく商品が充実している。
クリスマスの季節と言うこともあって、店内もクリスマスムード。入り口には、ツリーが置いてあった。サンタさんの帽子が沢山売ってあって、仮装グッズのコーナーにはトナカイのツノのカチューシャとか、色々ある。
もうすぐそーちゃんの誕生日だから、クッキーを入れるラッピングを買いに来たんだけど、どれも可愛くて目移りしてしまう。前見せてもらったご飯の量を考えて、ここはやはり可愛くて少ない量が入るものではなく、シンプルだけど量が入るほうがいいか。
迷いに迷った末、シンプルだけど量が入るほうに決めた。あと、仮装グッズのコーナーからサンタさんの帽子を一つ取って、レジで会計を済ませる。百円ショップのレジ袋を持って店を出ると、迷いすぎていたせいか、外はもう日が落ちている。
慌ててお母さんにスマホで、少し帰りが遅れることを伝える。今日は近所の店ではなく、少し街に出た大きい店舗のほうに来ていたから、これから電車に乗って帰っていたら多分夕飯ギリギリになってしまう。急がないと。スマホを鞄に仕舞ったところで、お巡りさんに見つかってしまった。
「君、親御さんは?」
当然、声をかけられる。手にはレジ袋をぶら下げているから、塾帰りですという言い訳も使えない。さぁどうしよう。補導とかされて、お母さんに心配かけたくないし、困った。いや、時間を気にしなかった自分が悪いんだけど。
返事に困っていると、お巡りさんが今度は連絡先を聞いてくる。これはもう、完全に補導コースまっしぐらである。ゴニョゴニョと言い訳を何とか絞り出そうと脳をフル回転させていると、突然後ろから空いているほうの手を握られる。
ビックリして振り返ると、入院していたとき、病室にそーちゃんからの手紙を届けに来てくれた一番偉い人が立っていた。ポカン、と呆けていると頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「すみませんねぇ。うちの娘、すぐ迷子になるもので……」
「いえ、小学生が一人でいるのは危険ですから。お父さんがいらしたんですね」
わたしの頭を軽く押さえたまま、お巡りさんと言葉を交わす。顔をあげるな、と言うことか。よくわかんないけど、何となくそう感じて大人しくしていると、お巡りさんは去っていった。
それにしても、小学生かぁ……。わたし、小学生に見えるのね。思わず、幼児体型の自分の体をまじまじと見てしまう。平らな胸が、憎らしい。
「困りますよ、六花様。若がずいぶんと心配していました」
「――あ、スマホ」
「ええ、送っても返事が来ないから、探しにいってくれと頼まれまして」
困ったように笑う偉い人の言葉に、トーク画面を開くと、そーちゃんから十件もきていた。ラッピングを選ぶのに真剣になりすぎて、全然気が付かなかった。わたしはペコリと頭を下げる。
「ご迷惑をかけました。助けてくれて、ありがとうございます。つい、ラッピング選びに夢中で……」
「もう暗いですし、送りますよ。ああ、ご安心を、普通車ですので」
家の事情から、ついフルスモークの車を想像してしまったけど、そんな失礼な考えを見透かすように、笑われてしまう。確かにもう暗い、ここは素直に送ってもらったほうが、いいかもしれない。
お言葉に甘えて、車で送ってもらうことにした。偉い人は、運転席ではなく後部座席に座る。なんと、専属の運転手さんがいた。後部座席の扉を開けてもらって、ペコペコしながら乗り込む。
偉い人は、車に乗り込むなりスマホを取りだし、迷いなく誰かに電話を掛ける。相手はどうやら、そーちゃんみたいで、一言二言言葉を交わすとわたしにスマホを向けたので見ると、ビデオ通話になっていた。心配かけてごめん、ありがとうと伝えると安堵した顔になった。
電話が切れると、車内には静寂が訪れる。運転手さんの顔を見ると、緊張したようにややひきつったように見えるのは気のせいか。いや、多分気のせい。むしろ気のせいであってほしい。
「ラッピング、と言うのは?」
沈黙で気まずい空気になると予想していたら、思ったよりも軽い口調で尋ねられる。驚いて偉い人をガン見してしまった。ごほんごほんとわざとらしい咳をして、ガン見したことはなかったことにして答える。
「そーちゃ……爽弥君への、プレゼントを包むためのものです。今の百円ショップって、すごいですね、色んな商品があって……つい色々目移りしたゃって、気が付いたらこんな時間に」
あはは、と笑うと偉い人もふっと口元を緩めた。おお! 笑った。……ん。あれ、わたし、未だにこの人の名前知らないぞ。ここは聞いたほうがいいのか。……いいのか? いや、でもあれだよ。お礼言うときに名前知らないとなんか失礼だし。
「あの、お名前を……」
「ああ、これは失礼しました。木櫻、と申します」
「木櫻さん、ありがとうございました」
改めてお礼を口にすると、木櫻さんはふふ、と小さく笑った。それから、懐かしむような目をして、遠くを見ながら呟くように言葉をもらした。
「若は、一途ですね。ねぇ、君もそう思うだろう?」
「う、うス! 自分も、そう思います!」
突然声をかけられた運転手さんは、元気よく返事をした。あれ、なんか思っていたより気合いの入った感じの人だった。返事も気合いが入っている。木櫻さんは、ニコニコしながら窓の外を眺めていた。