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彼とわたしの風変わりな日常  作者: 赤オニ
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5.仲直り

 ひとまず、落ち着いて頭を冷やそうと思って喫茶店のある三階でおりる。しかし、三階をぐるぐる歩き回っても、喫茶店のきの字も見付からない。病院内の階数ごとの地図? を見ると、喫茶店は二階だった。おしい、一階勘違いして覚えていたみたい。



 歩き回って疲れたから、エレベーターで二階におりる。喫茶店に入ってアイスココア一杯で三十分ほど休み、一階に移動する。よくそーちゃんが自習トレに付き合ってくれた場所にたどり着く頃には、足が痛くてたまらなかった。



 車椅子だと、押してもらってる分にはそこまで遠いと感じなかったのに、歩いてくるとこんなに遠いなんて。杖も持たずにここまで来たから、足はとうに限界である。



 地面に座り込み、立ち上がれなくなる。幸いなことに、昨日まで積っていた雪は今日の晴天でスッカリ溶けて、地面も濡れていなかった。座り込んだまま、うつむいていると、さっきの光景が頭によみがえる。



 胸を押し付けるように腕を組んでいた綺麗な女の人……誰がどう見ても、彼女だ。仲もすごくよさそうだったし、そーちゃんも嫌がる素振りを見せていなかった。それは、つまりーー。いやいや、何で友達のそーちゃんに彼女がいることでこんなに悩まなくちゃいけないわけ。



 変だよ。わたし、そーちゃんの彼女でも何でもなくて、ただの幼馴染みってだけなのにね。しかも、それだって小学校四年までの話で、そこから先そーちゃんがどんな人生送ってきたかも知らないのに。



「うう~……、そーちゃんのばかぁ」

「六花! け、けけ怪我とか! 何かされたとか、ないか!?」



 足は痛いし全身だるいし、全部そーちゃんと彼女さんの姿を見たせいだ! そう思って、誰もいないと思って半泣きで呟いたら、まさかの本人登場に驚いて、出かけた涙も引っ込む。



 真冬だっていうのに、額に汗を浮かべて真っ青な顔で駆け寄ってくる。心底安堵した表情で、地面に座り込んでいるわたしの顔を覗き込み心配そうに何度も怪我の確認をしてくる。



「そーちゃん……。うええ~」

「り、六花? 急に泣くなよー、何かあったのか?」

「ばかぁ~」


 

 足が痛くて立ち上がらないことを伝えると、ためらいなく横抱き……お姫様だっこをして病院に入っていく。何で、彼女がいるのにこういうことするの。馬鹿じゃないの。いいや、馬鹿だ。阿呆だ。



 お姫様だっこで運ばれながら、ポカポカとそーちゃんを叩く。「痛い痛い」と言いながら、大人しく殴られているあたりがそーちゃんらしい。部屋についたら説教なんだから! とか意気込んでいたのに……。



「こんな真冬に一人で杖もなしに出歩くなんて、何を考えてるんだ。大体、俺が探しに行かなかったら、あんな病院の裏側なんて中々見付けてもらえないぞ。まだ万全じゃないんだから、無理するなよ……心配、したんだからな」



 わたしが説教を受けている。なぜだ。解せぬ……いや、確かに言いたいことはわかるし、自分でもアホだったと自覚してるけどさ。そそもそもの原因作ったのは、そーちゃんだし。膨れっ面で説教を聞いていると、彼女さんが割り込んでくる。



 近くて見ると、ますます美人さんだぁ。肌もつるつるのすべすべ。病人的な色白じゃなくて、健康的な色白って感じで目もぱっちり二重。目鼻立ちがハッキリしていて、まさに正統派美人。



 背も高くて、豊満な胸にきゅっと細いくびれ、プリっとしたお尻。顔もスタイルもどこまでも完璧。こんな人がいてもいいものか、神様は理不尽だと思う。少しでいいから身長と胸の脂肪をわけてほしい。



「まぁまぁ。そうは一旦落ち着きな。えっと、六花ちゃん、だっけ? ちょっといいかな。あ、そうは一人反省会を部屋の外で開いてな」



 シッシッと眉を寄せて虫でも払うかのような表情で、病室から追い出されるそーちゃん。それから、彼女さんがくるりと振り返ってわたしを見て、さっきまでの表情から一転、ニッコリと笑う。



「ごめんね、あたしが原因でしょう? あたし、そうの従姉妹なんだ。真理夏って呼んでちょうだい。彼女とかじゃないから。割りと年が近いってのもあってね、結構そうの面倒見てたのよ。今回も、六花ちゃんに嫌われたーとか何とか、泣きついてきてさ、男らしく一人で行きなって言ったら、部屋の前までついてきてほしいとか言うからさ……」

「腕……」



 ポツリともらした呟きも、真理夏さんは聞き漏らすことなくしっかりと答えてくれた。こちらが安心できるような笑顔を浮かべ、早口でもなくかといってゆっくりすぎず、丁度いい話し方。



「実はあたし、昔の事故で足が悪いの。杖持つほどじゃないけど、一応転ばないように、そうを杖代わりにしてて……。ほんっとうに、ごめん」



 頭を下げて謝る真理夏さんに、気にしないでほしいと首を横に振る。茶髪に巻き髪、ピアスにミニスカートと派手な格好からつい構えてしまったけど、中身は滅茶苦茶いい人だった。いい人過ぎて、わたしのほうが申し訳なくなってくる。



 わたしもぺこりと頭を下げる。行動が軽率過ぎた。そーちゃんにも、真理夏さんにも迷惑をかけてしまった。わたしの、子供のまま成長していない悪いところが出た。



「わたしこそ、ごめんなさい。そーちゃんにも、キチンと謝ります」

「敬語じゃなくていいよー。それにあたし、六花ちゃんと友達になりたいな。ダメかな?」

「……! よろこんで! それ、じゃあ……よろしく、真理夏」



 言ってから、何となく恥ずかしくなってしまう。照れてうつむくと、真理夏が「ぎゃー、可愛い! なにこの子!?」と急にだきついてきて、ビックリした。思わず出た声に、そーちゃんが病室に入ってきて無事か!? と叫んで、もうわちゃわちゃ状態。真理夏とは、連絡先も交換した。



 ちなみに、落ち着いてからしっかりとそーちゃんに謝った。申し訳なさそうな顔でしょんぼりするので、どう声をかけたらいいのか迷っていると、真理夏が思いっきり背中を叩き(すごくいい音が鳴った)気合いを入れていた。



「心配かけてごめんなさい。あのね、そーちゃんへの誕生日プレゼントを考えてて……何が欲しいかなぁって」

「六花の作ってくれたクッキー! あ、いや……ごほん。六花がよければ、でいい」



 思っていたより食い付きがよかったから驚く。しかも、よりによってチョイスが苦手なクッキー……何でまた。確か、そーちゃんに手作りクッキーをあげたことはあるけど。学校での調理実習で作った、固すぎて歯が折れるんじゃないかって感じのクッキーだ。



「手作りのお菓子……もらったの初めてで、すげぇ嬉しかった。だから、また食べたい」


 

照れたようにはにかみながらそう言う姿を見て、わたしも自然と笑みがこぼれる。家に帰ったら、お菓子作りの練習、頑張らなくちゃ。今度こそ、美味しいクッキー食べさせてあげるんだから。



「……オッケ。任せて!」

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