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彼とわたしの風変わりな日常  作者: 赤オニ
これからの時間
4/50

3.二度目の拒絶

 季節はすっかり冬。秋が過ぎ、外へ出るにもダウンが欠かせない。わたしが目を覚ましてから、二ヶ月が経つ。医者もリハビリの先生も驚く驚異的な回復力を見せたわたしは、もう杖なしで歩けるようになっていた。



 まだふらつくこともあるから、歩くときは見守りが必須だけど。それでもずいぶん良くなった。わたしが病院のリハビリを受けているとき、そーちゃんはなぜか離れたところで待っている。



 走れるようになるのも、リハビリを続けていれば問題ないだろうとのこと。入院期間も、当初半年の予定だったのが来月には退院してもいいかもしれない、なんて話が出ているぐらい。



 そーちゃんから勉強を教わるようになって、ようやく中学生の勉強に入った。一気に教科が増えて難しさもアップした。それでも何とか続けていられるのは、そーちゃんの教え方がうまいから、これに尽きる。



 おかげで、わたしは小学校の分の勉強は終えて、中学校の勉強もやっていて苦にならない。思えば、小学生の頃から常に満点を取っていたのを見た記憶しかない。喧嘩ばっかしているのに、勉強まで出来るとはなんてやつだと思った記憶が残っている。



 昔から、頭のいい人だったと言うわけか。強面だけどイケメンだし、天は二物を与えずなんていけしゃあしゃあと言ったもんである。与えまくっとるぞ、天よ。



 ご飯を食べるようになってから、カリカリの枯れ木みたいな体にも肉がついてきて、リハビリをして汗をかくから太りすぎもなく、程よく肉付きがよくなってきた。まだまだ痩せている感はするけど……特に、胸元。



 ここはやっぱり、女として気にすべきところなんじゃないかなぁ! 意識がない間はずっと食事が取れていなかったから、一番成長しなければいけない時期に成長出来なかった。背も低いし、胸も絶壁とまでは言わないけど、ギりAかなって感じだからキチンと計ったらAもないかもしれない。



 そーちゃんと一緒にいると、兄妹を見ているような微笑ましい笑みを向けられるのが、気になる。小学生の頃描いていた高校生象は、ほとんど大人に近いお姉さんだった。それだけに、現実とのギャップがつらい。



 一応、心の整理はついた。わたしはあの日から六年間眠り続けていた……十五歳なんだと。しかし、見た目も全体的にちっこいので某探偵君のようなセリフはとてもじゃないけど言えない。身長百四十センチもない女子高生……見えるのか? 制服を着たらそれっぽくはなるかもしれない。



「ぼんやりして、どうした?」

「あ、ううん。何でもない」



 いつものように、リハビリ後のお勉強タイムである。時々、えんぴつが止まるわたしの顔を心配そうに覗き込んでくる。大丈夫、と伝えるも思考は止まらない。男の人……そーちゃんは、胸の大きい人が好きなのかな。



 って何で基準がそーちゃんなの。身近な男の人と言えば、お父さんかそーちゃんぐらいなものだから、比べようがないんだよね。うん、きっとそうに違いない。



 そーちゃんがわたしの面倒をこうして見てくれるのも、全部自責の念からじゃないのかな。最近覚えた自責の念、と言う言葉を使って考える。でも、だったら小学校の頃一緒にいてくれたのは、何で?



 入学式の日に交わしたあの約束があったから? 幼いわたしの軽い気持ちの約束が、今もそーちゃんを縛り付けているとしたら? ……違う、よね。わたしがそーちゃんを庇って六年間も眠り続けていたから、きっと責任を感じているんだ。



 だったら、もういいのに。責任を感じているからなんて理由で、同情とかでそばにいてくれるなら、それはいらない。なぜか、不思議とそう考え出すと止まらなくなった。すぅ、と心が冷えていくのを感じる。



「そー……。目車君、もうお見舞いに来なくてもいいよ。勉強も、今まで教えてくれてありがとう。これからは、自分でやるから」

「どう、したんだ? 六花――」

「同情とか、責任とか、いらないから。わたしが車に轢かれたのも、自業自得なんだし。……帰って」



 まだ何か言いたげなそーちゃんの背中をぐいぐい押して、部屋から強引に出す。扉を閉めて、その場に座り込む。しばらくの間、身動きが出来なかった。十分ほど経って、よろよろと立ち上がって車椅子に座る。



 オーバーテーブルの上には、勉強道具が広がっている。わたしの勉強用のノートには、そーちゃんが分かりやすく解説してくれた紙の切れ端がのりで貼ってある。おかげでノートを閉じるとずいぶん膨らんでしまうけど、しっかり勉強した証だと思えるから誇らしかった。



 ノートの上に、透明な斑点が出来る。いつのまにか、涙が頬を伝っていた。自分で拒絶したくせに、何をやっているんだろう……わたしは。ただ純粋に、友達としてそばにいてくれるんだと思っていた。でも、事故に合う前にわたしはそーちゃんから逃げている。



 ヤクザの息子だって聞いて、怖くなった。そばにいたら、何かされるんじゃないかって。どこまでも優しくて不器用なそーちゃんが、そんなことするわけがないってわかっていたのに。わたしが幼稚で浅はかだった。



 それでもまだわたしのそばに居続けてくれたのに、馬鹿だよね。本当にーー馬鹿だ。今さら後悔しても遅いのに、そーちゃんが戻ってこないかな、なんて甘い期待をする自分がいる。



 その日以降、そーちゃんが病室を訪れることはなくなった。一人で勉強をしていても、ついえんぴつが止まってしまう。世間はもうすぐクリスマスムードに入る。病院でも、小児科に入院している子供のために早めのクリスマス会みたいなものをやるらしい。



 十二月に入ったはかりで、もうクリスマスムードとか、日本人生き急いでないか。早すぎでしょう、いくらなんでも。とか思うけど、小学生の頃は確かに自分もこのぐらいの時期にははしゃいでた。人のことは言えまい。



 ふと窓に視線を向けると、大粒の雪がちらついていた。風に吹かれ窓に貼り付いては溶けて水滴になる雪。それは、夜にかけて激しさを増した。小学生の、思い出がよみがえる。



 そーちゃんが丁度クリスマスイヴ生まれで、その日はクリスマスイヴで有名なイルミネーションが綺麗なところに遊びにきていた。イルミネーションに興奮していると大粒の雪が空からちらほらと降ってきた。



 そーちゃん、ホワイトクリスマスだよー! と叫ぶとすかさず今日はイヴだから、と突っ込みが入ったけど、普段しかめっ面が多いそーちゃんが珍しく笑っていたから、サンタさんからそーちゃんへのプレゼントだと思った。



「……懐かしいや」



 思い出しただけで、泣きそうになる。涙腺が緩くて緩くて……決壊しそう。ポロっと一粒の涙がこぼれ落ちた瞬間、扉がノックされた。

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