25.初、バイト日
学校帰り、初めてのバイト日である。天気はあいにくの雨で、店長さんから事前に送られていた建物に向かうまでに、結構濡れてしまった。風も強くて、傘じゃなくてレインコートを着てくるべきだったと若干後悔する。
まぁ傘で来てしまった以上は仕方ないので、濡れながら何とか建物に入る。中には店長さんが待っていて、タオルを渡してくれた。濡れたところを拭いて、ひとまず着替えることに。
髪の毛もべたべたの状態では、風邪を引くとのことでドライヤーを貸してもらって乾かす。どうも、ここは撮影スタジオみたい。着替えるスペースもあるから、普段から利用する人がいるんだろう。
髪も乾いたので、店長さんが商品化を考えている服をどんどん着ていく。着替えては確認してもらう、をひたすら繰り返す。大体小学校中学年から高学年向けの服を着たけど、悲しいかな似合ってしまう。
とは言え、ブランドものとして作られた服だから、長袖は袖が長すぎたりとわたしの幼児体型がとにかく悲しかった。落ち込んでいる暇はないけどね。これも仕事、仕事。
着せ替え人形と化してから……三時間は経つ。最初こそ、気合いも入っていたし可愛い服を何着も着られて嬉しさと興奮で一杯だったけど、流石にもういいですって感じ。
休憩は挟んでいるもの、ぐったり。三時間、ひたすら着替えを繰り返すのがこんなにハードだったとは、思ってもいなかった。でも、これは仕事。着せ替え人形やってお金をもらうのだから、引き受けた以上責任をもってやり遂げねば。
「じゃあ、次ポーズ決めていこうか」
「ポ!? わたし、ド素人ですよ」
一眼レフと思われるゴツいカメラを構えて、店長さんがさらりと言うので驚く。ファッション雑誌のようなモデルが頭をよぎるけど、すぐに無理だと考える。
「大丈夫よ。指示はこちらが出すし、六花ちゃんは笑顔を見せてくれればオッケー」
「は、はい」
言われた通りのポーズを決めて、最初は口元がひきつっていたけど、段々慣れてきたのか撮影? が楽しくなってきた。何枚か撮っては一緒に確認をする。ひきつっていた口元が、ほぐれていくのがわかる。ポーズも、緊張してぎこちないものから自然なものへ。
水分補給をしっかりして、着替えてまた撮影。この繰り返し。基本立っているから、かなり疲れた。でも、終わる頃にはすごい達成感。店長さんから「お疲れ様!」と声をかけられ初バイトが終わった。
一気に緊張が解けた。何だかんだと、不安もあったけど無事一日目をやり遂げることが出来たことに、安堵する。よかった~、あとは、雨の中帰るだけ。家につく頃にはびしょ濡れだろうな。
バイトのことは親に話してあるし、店長さんのことも紹介済み。今日も「頑張って」と、わたしの少し不安な気持ちを吹き飛ばすように、お母さんが出掛ける前に声をかけてくれた。
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとう。外、雨ひどいしよかつまたら送っていこうか」
「いえ、駅までちょっとですし」
「そう? じゃあ、気を付けて帰ってね」
「はい」
ぺこりと頭を下げて、建物を出る。傘を差していてもほとんど無意味ってぐらい、雨が体を濡らす。強風も相俟って、体が吹き飛ばされそう。何とか駅までたどり着き、電車に揺られて家へ帰る。
裸足で玄関からあがって、タオルを取って濡れたところを拭く。髪は……自然乾燥でいいか。とりあえず服だけ着替えて、濡れた服やタオルを洗濯機に放り込む。
「ふわー、疲れた……」
うとうとして、ソファに座ったまま寝てしまう。お母さんがパートから帰ってきた音で起きて、疲れた体を引きずって自室で勉強をする。あくびが止まらなかったけど、重たいまぶたをこじ開けて何とか済ませる。
最近、あまり真理夏と連絡とってないかも。どうしてるかな。久しぶりに連絡してみようかなー。ベッドで寝転がりながら、ごろごろと転がって携帯をいじる。久しぶりに連絡しても、変わらない様子だった。
楽しくて、ついつい晩ご飯を食べたあともやり取りを続けて、結局夜中まで終わらなかった。家に帰った直後はあんなに眠かったのに、今は眠気が飛んでしまってテンションが高い。
真理夏がそろそろ寝るというので、わたしも携帯の電源を落として眠ることにした。中々寝付けず、寝たり起きたりを繰り返してしまった。窓に打ち付ける雨の音がうるさかったせいもある。
それにしても、一日目でこんなに疲れちゃったけど……大丈夫かな。少し心配になるけど、まぁ短期間って言っていたし、大丈夫か。そう考えて、明日の学校も頑張ろうと気合いを入れて眠りにつく。