21.遊園地はファンシーに
お昼ご飯を食べ終えてお店から出た頃には、お昼の二時を過ぎていた。一番混む時間帯にお店に入ってしまったので、かなり待たされたのが原因。こういうのに一番詳しいであろう情報屋は、お化け屋敷から出てからも魂が抜けたみたいになっているし。
お店から出る頃に、ようやく空いてきたというのが何とも悔しい。何はともあれお昼ご飯も食べ終えたことだし、次は絶叫マシンに片っ端から乗っていくしかない。まずは、定番のジェットコースターから。
待ち時間はあったけど、それでも二十分ぐらい。人生で初めてのジェットコースターに、ドキドキわくわく。ジェットコースターと言えば、楽しそうな悲鳴を上げているのを想像していた。だから、きっとすごく楽しいんだと思っていた。
しかし、おりる頃にはふらふらに。近くのベンチに何とか座って、まだ目の前がぐるぐると回っている感覚に耐える。足取りがおぼつかないので、しばらくベンチに座っているようにそーちゃんから言われる。
凛は多少復活してきた情報屋と一緒に、別の絶叫マシンへ嬉々として向かっていった。絶叫マシン、大好きって言ってたもんな……。ベンチに座って、ゆっくり休む。息を吐き出し、ぐわんぐわんする頭を押さえる。早く治まってと祈りながら。
まさか、ジェットコースターがあんな激しいものだとは思っていなかった……。上っていくまではよかった。わくわくしていたし、悲鳴をあげる準備もバッチリだった。しかし、コースターがスピードを上げて一回転したあたりで、脳みそを滅茶苦茶に回されたみたいになって悲鳴をあげるどころじゃなかった。
もう、放心状態。それこそ情報屋じゃないけど、魂が抜けたみたいに。周りで楽しそうにキャーキャー言ってる声が聞こえたけど、わたしはとてもそんな風に叫ぶ気力はなかったよ……。何で皆あんな元気あるわけ? こっち脳みそぐるんぐるんよ? 内臓が口から飛び出るかと思ったね。
「うう……、絶叫マシン」
「休め。気持ち悪いんだろう」
他のマシンならイケるかも、なんて淡い期待を抱いて、立ち上がろうとするけど止められてしまった。絶叫マシンを楽しめなかったら、遊園地ほぼほぼ楽しめないじゃないか……。この遊園地にやたらと絶叫マシンが多いからそう思うのかもしれないけど。
蓋を開けられたペットボトルを渡される。お礼を言って、ちびちび飲む。別に悲鳴をあげたわけでもないのに、カラカラに乾いていた喉を潤す。少し飲んで、蓋を閉めてベンチに置く。人一人分空けて、そーちゃんが隣に座る。
あー……、凛楽しんでいるといいなぁ。情報屋は、知らん。絶叫マシン乗れないと、あと乗れるものと言ったら、メリーゴーランドとか、ファンシーなものが多い。体調が戻ったらメリーゴーランドにでもそーちゃん連れて乗ろうかな。
「そーちゃん……」
「どうした?」
「――メリーゴーランド、乗る」
「俺は乗らんぞ」
渋い顔で即答されてしまった。ちぇ、乗せようと思ったのになぁ。一人で乗れと言うのか。まぁいいか……わたしは平和にメリーゴーランドでファンシーな曲と共にゆっくり回っているよ。
凛たちとは別行動になってしまったけど、いつでも連絡は取れるからいいか。メリーゴーランドは人もまばらで、すぐに乗れた。馬……ユニコーンかな? に乗って、曲が始まると同時にゆっくりと回り出す。
「わー、すっごく平和……」
思わず、そんな呟きがもれてしまった。何か、遊園地でメリーゴーランドに乗るとか、すごい久しぶり。小さい頃を思い出す。家族で遊園地に行ったときは、必ずメリーゴーランドに乗っていた。あの頃は、やっぱり可愛いものが好きだった。
今でも可愛いものは好きだけどね。あまり自分の成長を感じられない気がする。好きなものに変化はなく、見た目も特に変化はなく、周りの子たちの考えが大人っぽいなーと感心することばかり。
これから成長していけばいいんだろうけど、それでも置いていかれている感じはどうしてもどこかで拭えなくて……それが自分の劣等感に繋がっているのはわかっていても、中々止められない。
事故に合ったことに後悔はない。わたしの代わりにそーちゃんが事故に合っていて、もし意識不明どころか、命の危険さえあったら? そう考えたら、助けてよかったと思う。
だとしたら、この胸のもやもやは一体、何? メリーゴーランドと一緒に思考まで、ぐるぐると回り始めていたようだ。考えるのは止めよう、今は遊園地を思いっきり楽しむんだから。
ゴーカートに乗ったり、遊園地の敷地内の公園の遊具で遊んだりしているうちに、あっという間に時間は過ぎて夕方に。ブランコとか、めっちゃ久しぶりだった。あと一個乗って終わりかなー。
「最後はやっぱり、観覧車だよね!」
割りと空いていたので、早く乗れた。ゆっくりと、上へあがっていく。丁度夕焼けが見えるし、写真を撮ろうと思って立ち上がったところで、突然車体が大きく揺れた。バランスを崩したわたしは、反対側の席に座っていたそーちゃんに抱き止められていた。