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22.お化け屋敷

 中は薄暗く、足下のかすかな明かりとスタッフに持たされた、懐中電灯だけが頼り。普段から気が強い凛は、暗闇もへっちゃらなようで、さりげなく想い人の情報屋にくっつく。しかし、当の本人は話しかけられても「ああ」とか「うん」とか上の空な返事。



 なんか、お化け屋敷に入る前から様子がおかしいような。まぁいいかとすぐに懐中電灯を動かして辺りを捜索する。スタンプ押し場を見つけなければいけないのだ。



 ゆっくりと進みながら懐中電灯を動かしていると、顔半分の皮膚が剥がれた男の人が、呻き声を上げながら近付いてくる。わぁ、すごい! 小さい頃に入ったお化け屋敷では作り物のお化けしか出なかったけど、ここは生の人間がお化け役やるんだ。



「すごいすごい! すごくリアルな怪我だよ!」

「怪我ってレベルじゃないような……」



 横でそーちゃんの突っ込みが聞こえたような気がしたけど、わたしはお化け役の人に近付いてまじまじと見る。特殊メイクってやつかな? 懐中電灯を直接顔に向けると眩しいかなと思って、下から当てる。



 だいぶホラーちっくな演出になったところで、前を歩いていた情報屋が「ひっ」と小さく悲鳴を上げたのを、聞き漏らさなかった。あんな性格していて、意外と怖がりなのね。お化けより、あんたの情報収集能力のほうが怖いって思うけど。



 お化け役の人は、まさか懐中電灯を当てられると思っていなかったのか、ビックリしたように脅かすのも忘れてポカンとしている。近くで見ると、本当にリアル。皮膚のただれ具合とか、すごい。



「あ、スタンプ見付けた」



 凛が懐中電灯を照らす先に、スタンプ押し場があるのを見付けて、わたしとそーちゃんもカードにスタンプを押す。その後も、白装束で頭に刃物が刺さった女の人がしくしく泣いているのを見かけたり、斧を持った血まみれの男に追いかけられたりしながらも、順調にカードにスタンプが集まっていく。



 血まみれの男に追いかけられたときは、楽しさのあまり興奮しすぎて、笑い声を上げたらお化け役の人に、恐ろしいものを見る目で見られてしまった。周りから、恐らく客の泣き声が聞こえたり、叫び声が聞こえる中で、わたしの笑い声は相当目立ってしまったらしい。



 多分、カップルの男のほうかな? が半泣きの声で「このお化け屋敷マジやべえよ! もう無理もう無理」と叫ぶ声が聞こえた。何か、悪いことしちゃったかな? スタンプは全部集まったので、あとはお札をラスボスに貼り付けるのみ!



 ……というか、ここまでお化け役やってるの、生の人間しかいないからラスボスも普通にスタッフが待機しているとか? だとしたら、結構大変だよね。これまで遭遇してきたお化け役の人とかも、喉とか痛めそうな勢いで叫んでたし。



 やっぱり、働くのって大変なんだなぁ。来週から早速、週三日で働くことになっているけど、大変なのかな。基本は店長さんやショップの店員さんがデザインした服を着てみて、どんな感じかリアルにしていくって聞いてるけど。



 わたしはただ着せ替え人形していればいいだけらしい。写真とか撮るけど、個人情報だからしっかりと管理するって聞いているから、大丈夫かな。それに、裏方だけどモデルさんみたいなことが出来るんだもん、楽しみではある。



 そんなことを考えながら懐中電灯でお化け役の人を探していると、明かりのすぐ横で屈伸運動をしていたお化け役の人と、暗闇の中で目が合う。相手が思いっきり「やべっ」みたいな顔をしたから、すぐに見てはいけないものを見てしまったのだと理解し、サッと目をそらす。ついでに、皆の注意を逸らすために懐中電灯をわざと落とす。



「きゃあ! ビックリした。どうしたの?」

「ごめんごめん! 手が滑った!」

「気を付けてよー」

「怪我は」

「大丈夫。ありがとう、爽弥君」



 無事、注意を逸らすことに成功したようでホッとする。ラスボス役の人、脅かす準備出来たかな。さっき屈伸運動をしていた人のところに懐中電灯を向けると、準備バッチリだったようで、中々いい演出をしてくれた。



 お札を貼り終えて、お化け屋敷から出る。スタッフから「お疲れ様ー」と声をかけてもらう。最後までやり遂げて、本当の出口から出てくる人は中々いないんだとか。大体が、リタイヤ用の出口から出てしまうらしい。



 立ちっぱなしだと、疲れたりするんだろうね、うんうん。屈伸運動をしているラスボス役の人を見付けてしまったのは、流石にわたしが悪かったよ……本当にごめんなさい。きっと、脅かすために張り切って準備していただろうに、見てしまったばかりに……。



 お化け屋敷では、下手にお化けを見つけようとしたらダメだね。今回のことでそれが充分にわかったよ。あの人たちは、頑張って脅かそうとしてくれているのに、台無しにするところだった……危なかった。



 心から反省しながら、お化け屋敷を後にした。次はどこに行こうかと話しをしていると、丁度十二時を告げる時報が鳴った。もうこんな時間、お化け屋敷で結構な時間過ごしていたんだなー。



 ひとまず、お昼ご飯にしようと話がまとまったところで、適当なお店に入る。

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