21.Wデート
快晴なり! もうじき梅雨に差し掛かろうとしているけど、この日は爽やかな晴れ間が見えていた。最近は、どんよりとした曇り空が多くて天気の心配もあったけど、よかった。
せっかくのWデートなのに、雨だったら悲しいもんね。何より、雨の日はしめじめしていてセットした髪の毛が、湿気にやられてしまう。わたしの髪の毛はストレートではあるけど、雨の日なんかは湿気でうねる。
うねると、セットしづらいから困る。これから梅雨に入るから、梅雨の間髪型をどうするか……悩みどころである。と、まぁそれはおいておこう。今日は晴れたんだから、可愛くセットしていこう。
小学生の頃、どうしてもやりたくて滅茶苦茶練習した記憶のある編み込みをしていく。まとめたあとに、花のモチーフのついたピンを挿して、出来上がり。もちろん、真理夏からもらったネックレスもつけていく。
凛と先に合流したあと、待ち合わせ場所に向かう。オシャレをしてきた凛は、いつもより更に美人度が上がっている。でも、その顔はどこか優れない。こんなに美人でスタイルもいいのに、恋をすると心配性な乙女になってしまうのか。
「――あ、犬飼さん!」
「そーちゃ……爽弥、君?」
何やら男同士が睨み合っているのが見えて、気になって駆け寄る。凛は真っ直ぐ、嬉しそうな顔をして想い人の元へ。そーちゃんが睨んでいる相手は、情報屋。…………んん? 情報屋? ちょ、待って。
そーちゃんを何と呼ぶか迷っている暇はない。なぜここに情報屋がいるのか、考える間もなく、犬飼さん、と呼んで凛が駆け寄った相手が情報屋だったことによって、状況が理解できた。
中学生の頃、しつこいナンパに困っていた凛を助けた相手が、情報屋だった。つまりそういうわけだ。凛に声をかけられるまで、情報屋とそーちゃんは険悪な雰囲気を醸し出していたけど、こちらを見て二人とも固まる。
これ、は……どうするのが一番いいのか。凛が情報屋の取り巻きに加わるのを想像して、いややっぱりダメでしょ、とわたしは厳しい表情になる。でも、凛の嬉しそうな顔を見ると、何とも言えなくなってしまう。
本当に、好きなんだなぁ。中学生の頃からずっと片想いしてるって言っていたもんね。……ん? 待てよ。わたしが情報屋の部屋に行ったとき、中学生から社会人までと、幅広い女の人……たまに男の人もいたけど。が、出入りしている。
もし情報屋が凛を取り巻きに加えるつもりなら、中学生の頃にとっくに入れてるだろう。じゃあ、どうして今の今までこんな状態なのか。わからない。人の気持ちを汲み取るのは、苦手。情報屋みたいな、何考えてるのかわけわからない人間だと、特に。
「犬飼さん、この子友達の六花と、その彼氏の目車先輩」
情報屋と目があったけど、サッと逸らされた。あの情報屋が気まずそうな顔をしているのは中々見られない。知り合いなのは、黙っておいたほうがいいよね……よし、この間の借りを返すってことで。このWデートが終わったらそう言ってやろう。
彼氏の、と紹介されたそーちゃんはなぜかむせていた。Wデートなんだから、そういう風に紹介されるのはまぁ当然だよね。とはいっても、わたしはそういう目で見ていないし、そーちゃんもただの幼馴染みとしてしか見てないだろうからね。
とりあえず、移動することに。ここら辺では有名な、割りと大きめの遊園地。絶叫マシンから可愛らしいメリーゴーランドまで、大人から子供まで楽しめる場所。遊園地に来るなんて、何年ぶりだろう!
情報屋はわたしやそーちゃんと目が合わないように、視線をさ迷わせていて明らかに挙動不審。心配そうに凛に顔を覗き込まれるといつもの胡散臭い笑顔で「大丈夫」と言っているけど、様子がおかしいのはすぐにわかる。
わたしとそーちゃんは顔を見合わせて、何か気をそらせるような乗り物がないか探す。見つけたものは、真っ昼間からどうかと思うけど、ひとまず気を紛れさせそうだと判断して、提案する。あそこなら、目があうこともないし。
建物の中から、割りとガチな悲鳴が聞こえてくる場所を指差す。リタイヤ用出口から次々と泣きながら出てくる女の子が視界に入るけど、あれだけ強烈だったら気まずさも吹っ飛ぶだろうと思う。
「お化け屋敷! 楽しそう。入ろうよ」
「面白そう。いいですか? 犬飼さん」
「い、いいよ」
一瞬情報屋の顔がひきつって見えたのは、気のせいか。お化け屋敷に入る前に、カップル限定割引きがあったので、ありがたく割り引きしてもらう。そーちゃんが小さく「カップル……」と呻く声が聞こえたけど、さっきから一体どうしたんだろう?
列に並んでいる間に、軽く説明を受ける。お化け屋敷の中には、スタンプを押す場所があって、すべてのスタンプを押し終えたら最後に、スタッフから渡されたお札を出口付近のお化けに向かって貼り付けて、出口から出てきておしまい。
半分ぐらいまで行ったところに、リタイヤ用の出口があるからあまりに怖かったら、そこから出てもオッケーとのこと。説明を聞き終えて、順番が来たので、いざお化け屋敷へ。