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閑話 とある人物との出会い2

 その日は、雪がちらついていた。黒のコートを着ているから、雪が目立つ目立つ。オフ会で会ってからというもの、よくわからないけど何度か太郎さんに一緒に出掛けないかと誘われる。



 用事があったり、何となく忙しくて断っていたのだけど、今日はオフ会で会った例の女子二人もくると聞いて、断り続けるのもあれだし……と考えていたので、丁度いいと了承した。



 わたしの見た目では、どう足掻いても十五歳には見えないということが、オフ会でわかったので、今日は張り切ることなく普段着で行くことに。スニーカーの紐をしっかりと縛って、家を出る。



 待ち合わせ時間ピッタリについて待っていると、太郎さんが両腕に派手系女子二人をくっつけながら、爽やかな笑顔でやってくる。ハーレムなのに嫌な感じがしないのは、童顔なことと人のいい顔をしているからか。



 今日はファミレスではなく、カラオケボックスみたい。最初は皆で勉強会って感じだったけど、段々派手系女子二人は太郎さんにくっついて、分かりやすいアピールをするようになってきた。



 そんな恋愛ムードに気付かないフリをして、わたしは一人黙々と勉強を進める。チラチラと女子二人から、邪魔だよオーラを感じたけど、無視。今日、わたしは恋愛をしにきているわけではない。勉強しにきているのだ。



「僕さ、占い師やってるんだよね」



 唐突に、太郎さんがそんなことを言い出した。その言葉に、女子二人はすごい勢いで食いつく。甘えた声で「占ってくださいよ~」とかなんとか言ってる。勉強はどうした。勉強は。



 とは言え、今の恋愛ムードの中では、なぜか勉強をしているわたしのほうが浮いた存在になっている。真面目に勉強をしているだけなのに……なぜだ、解せぬ。



「私、今気になってる人がいて……」



 ヒール高い女子、ミナミちゃんが上目使いで、太郎さんにアピールしている。聞いてもないのに、というか占い師相手には話しちゃいかんだろと思うぐらい詳しく話し始める。



 ミナミちゃん曰く、その人と知り合ったのは、勉強を教え合うネットの掲示板で。年上で、とても優しくて丁寧な人。オフ会で実際に会ってみたら、すごく素敵な男性で心を奪われてしまった……と。


 

 はい、どう考えても太郎さんのことです。聞くだけ時間が勿体無い。しかし、女子二人の気が済まないと、わからない問題を太郎さんに聞けない。今聞いたら、視線だけで殺されそう。説明してる最中も、太郎さんを見つめているミナミちゃん。



 恋する乙女だねぇ、勉強会でやらずに帰りがけにやってくれたらわたし、勉強に集中出来たんだけどな……。仕方ないので、勉強を一旦止めて携帯をいじる。今のわたし完全に空気だし、いいよね。



 うんうん、とうなずきながら優しくミナミちゃんの言葉を聞く太郎さんは、自分がアピールされていることに気がついていないのか、ニコニコと笑顔で占い師として口を開く。



「残念だけど、その恋は叶いそうにないから諦めるといいよ。なぜなのか教えてあげようか。僕がミナミちゃんの気になる人だったらね、気もない男にこんなに体をくっつけて、勘違いされてもおかしくないような言動を繰り返す女なんか、吐き気がするほど嫌いだからさ。まぁこれはあくまで僕がミナミちゃんの気になる人だったら、という話だから聞き流してくれて全然構わないんだけどね」



 言葉を聞いて、ミナミちゃんの顔は赤くなったり青くなったりと大忙しで、最終的に泣きながら部屋を出ていった。残された愛ちゃんも、真っ青な顔で茫然としている。わたしは気まずすぎて、太郎さんに質問どころではなかった。



 しかし、太郎さんはニッコリと笑ったかと思うと、今度は愛ちゃんのほうへ向き直る。さっきまで人のいい笑顔のまま、女の子を泣かせたとは思えない穏やかな口調で、問いかける。



「愛ちゃんも何か占ってほしかったんだよね?」

「い、いえ! いいです。今日は体調が悪いので、帰ります!」



 真っ青な顔のままそう捲し立てると、ダッシュで出ていってしまった。わたしと太郎さんたけが部屋に残され、気まずいことこの上ない。そろそろと勉強道具を片付けて、声をかけてわたしも帰ろうかと立ち上がったところで、またもや唐突に太郎さんが口を開く。



「占い師っていうのはね、表向きの顔なんだよ、杠六花ちゃん」



 HNしか名乗っていないのに、いきなり本名を呼ばれて驚く。太郎さんは、怖いぐらいずーっと笑ったまま。聞いてもいないのに、自分のことをぺらぺらと話し出す。



 表向きは占い師として活動しているけど、裏の顔は情報屋をやっている。わたしのような一般人の個人情報を調べるぐらいなら、三分とかからないらしい。実年齢も、本名も隠している。山田太郎という名前も、十九歳という歳も、すべてうそ。



「……女の子を泣かすのは、どうかと思いますけど。あと、さっきの占いじゃないですよね」

「え? ……ああ、さっきのことね。別に、彼女が嫌いなわけではないよ。少し鬱陶しかったから。もちろん、ちゃんと占いをするときもあるよ」



 一瞬、本気で何のことかわからなかったようで、キョトンとしてから思い出したように笑う。ついさっきの出来事なのに、もう忘れていたのかという目で見ると、困ったように笑った。この人にとって、笑顔は本心を隠すためのものなんだろうな、と思った。

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