18.友達なんだから
キッと睨むように、目を真っ直ぐ見る。ビックリしたのか、目を丸くして固まっているのをいいことに、わたしは思いの丈をぶつける。後ろで、そーちゃんのお父さんが笑っているのが聞こえた。
「いい? そーちゃんが家を継ごうが継ぐまいが、わたしはそーちゃんの友達なの。真理夏も、きっと同じことを言うと思う。――約束、したでしょう。これからは、二人でいればいいよ、そしたら、寂しくないでしょ? って。言っておくけど、勝手に離れるなんて、許さないからね。もっと相談してほしかったし、頼ってほしかったよ」
「……それって全部、友達だから?」
「え? 当たり前でしょ」
そーちゃんが、絞り出したような言葉に首をかしげ、即答すると、なぜかガクッと肩を落としてうなだれた。え、何で? わたし、何か落ち込ませるようなこと、言ったかな。心当たりがまるでない。
後ろではなぜか、そーちゃんのお父さんがお腹を抱えて笑い、そばにいた木櫻さんがそーちゃんをあわれむような視線を向けていた。ちょっと、一体わたしが何をした! 何で? 考えても考えてもまったくわからず、首をひねるばかり。
不思議そうにうなたれているそーちゃんを見ていると、ポンポン、と肩を叩かれた。見ると、いつの間にか情報屋が立っていた。くく、と笑いを押し殺すようにしている。そーちゃんに睨まれて、大袈裟に怯えたフリをしてわたしのほうへ寄ってくる。
にやりと愉しそうな笑みを浮かべて、わたしとそーちゃんを交互に見る。それから、まるで街頭で演説している人みたいに、恭しく腰を折ってわたしに向かって頭を下げる。
「いやぁ、実に素晴らしいものを見せてもらったよ。僕に危険な道を選ばせるだけあるね。君の見せてくれた友情は、とても熱いものだったよ、感動した」
ぺらぺらとよく回る舌で、思ってもいない言葉を並べる。何が友情に感動した、だ。あんたに人並みの心が存在するとはとても思えないけどね。感動するなんて、嘘臭いことこの上ない。
とは言え、情報屋がいなければそーちゃんのお父さんとも直接話せなかったわけで、そこら辺は感謝している。感謝の気持ちをどれだけ述べても、こいつには無駄なことはわかっているから、謝礼金という実にわかりやすい形で示させてもらうつもり。
そーちゃんも、呆れた様子で情報屋のことを見ている。わたしも、嘘臭い言葉に思わず半目になってしまう。しかし、呆れていたら、予想外のことを言い出した。
「珍しく面白いものが見物できたからね、依頼料は免除してあげるよ」
「え……。いや、払うよ。何か怖いし」
「失礼だなぁ、こんなの貸しにも入りはしないよ。君のような一学生にあの依頼料は大金だろう?」
うっ。それは確かに、その通りだけども。かといって、何も払わずに済ませるのは相手が相手なだけに、怖い。疑うようにじろじろと見ていると、やれやれとまたも大袈裟に肩をすくめると、仕方ないと言った様子。
「それでは、貸し一つということで。さぁ、これで僕は君に貸しが一つ出来たわけだ。何をしてもらおうか、よく考えておくよ」
む、だからお金払うって言ってるのに。何で貸しにするかな。文句を言う前に、あっという間に立ち去ったしまった。やれやれと肩をすくめたいのは、わたしのほうだ。
……何だかそーちゃんからの視線が痛いし、木櫻さんには生暖かい目で見られている。何なの、言いたいことあるなら言えばいいじゃないか! 内心憤慨していると、バタバタと廊下を走る音と共に、真理夏が姿を現した。
わたしを見るなり、思いっきり抱きついてきて勢いによろける。あー、そうだった。情報屋のマンションを訪れる前に、一応ってことで真理夏に連絡しておいたんだった。
おまけに、連絡してすぐにスマホの電源を落としたから、この数時間繋がらない状態だったわけだ。自分の軽率な行動と一緒に、心配をかけてしまったことを申し訳なく思う。
「わたしに何かあったらよろしく、なんて物騒なこと残すから、あたしすごい心配で……連絡もつかないし。無事だった?」
「うん、ごめん。ありがとう」
ペタペタと怪我の確認? で体を触られまくるけど、それだけ心配させてしまったのだと改めて思った。真理夏はわたしが無事なことを確認したあと、そーちゃんのほうに向き直ってフルスイングして頬をビンタ。
パァン! とものすごくいい音がした。ビックリしたのと、いたそー、と自分がやったことを棚にあげまくって見ていると真理夏のぱっちりお目目から、涙がボロボロあふれる。
「そ、そうの……馬鹿! こんなにも心配かけてっ、あたしや六花のこと、どうでもよかった、わけ!? ふざけんじゃ、ないっわよ!」
えぐえぐと、化粧が崩れるのもお構いなしに泣きじゃくる姿は、普段の気の強い真理夏からはとても想像ができない。それだけ、心配したんだろう。……というか、そーちゃんもだけど、わたしもだよね。
ごめんね、と呟いて泣きじゃくる真理夏に抱きついてきて、背中をさする。抱き締めるには、身長が足りなかったのである。色んな人に、助けてもらったり心配かけたりしてしまった。真理夏が泣き止むまで、背中をさすり続けた。




