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15.最初で最後の

 連絡が突然途絶えたかと思えば、実は同じ高校で、お見舞いに来てくれていた時のような、優しい雰囲気はない。それどころか、わたしを睨んでくる。でも、優しさを知っているから、怖くない。そーちゃんに何があったのか、知りたい。



 長い時間にも感じられた数分間の睨み合い。ぽいっと小包を投げられ、反射的に両手でキャッチしたことで緊張した雰囲気が霧散する。わたしの意識が投げられた小包に向く。



「最初で最後の誕生日プレゼント」



 寂しそうな顔で去り際にわたしにそう呟いて、保健室を出ていった。茫然と突っ立っていたけど、ハッとなって追いかけようとしたところで、イツキ先輩に止められる。保健室の先生も、追いかけるのは止めなさいと忠告してくる。



 そんなの――無理に決まってる! だって、そーちゃんがあんな顔をしていたら、どうしたって追いかけるしかないんだよ。わたしは、六年間のそーちゃんを知らない。家の事情も、詳しくはない。だけど、放っておくのは嫌なんだ。



 制止する声を振り払って、走り出す。探し回ったけど、学校の中にはもういなかった。携帯で電話をかけるけど、何度コールしても出ることはない。駅のほうまできたけど、そーちゃんは見つからなかった。



 すごく、寂しそうな顔をしていた。最初で最後の誕生日プレゼント――。どんな思いで、そんな言葉を放ったのか。わたしの誕生日は、三月だから春休み真っ最中で忘れられることも多い。



 走り回って疲れたので、一旦休もうとベンチに腰を下ろした。両手で何とかキャッチすることが出来た小包を、開く。中には、高そうな万年筆の入った箱と、飾り気のない封筒が一枚だけ。



 封はされておらず、手紙を取り出して開く。綺麗な字で、そーちゃんが(したた)めた思いをゆっくりと視線を動かして、読み進めていく。便箋は五枚あって、ビッシリと字が詰まっていたけど、不思議とさらさらと読めた。



<まずは、誕生日おめでとう。悩んだけど、万年筆なら実用性があるし、多少高くてもいいものを買ったほうが長持ちすると思って、決めた。高校も、受かったと聞いて安心した。



 俺は、六花が事故に合ってからも、喧嘩の毎日だった。見舞いに行くのも、最初はためらいがあったよ。だけど、見舞いに行くうちに……神でも仏でも何でもいいから、六花を助けてほしいと祈り続けた。



 ――俺は、家を継ぐことになった。高校を卒業したら、いよいよ六花や真理夏とも気軽に会って話せる立場じゃなくなる。だから、クリスマス会は滅茶苦茶楽しかったし、六花には感謝してる。だからこそ、迷惑をかけないように俺は離れることを決めた>



 手紙を読み終える頃には、静かな怒りが、悲しみが、わたしの中にわいていた。そーちゃんが家を継ぐのは、そーちゃんが納得しているなら反対しないよ。でも、一方的に関係を断ち切ろうなんて、許さないんだから。そんな怒りの感情と同時に、とても悲しくもあった。友達なのに、肝心なときに頼ってはくれない――。



 勝手に決めて、勝手に離れて……本当に、勝手だよ。小学生の頃のわたしも、そーちゃんからしてみればそんな風に映っていたのかな、なんて考えて。それでも、わたしはそばにいたい。



 失った六年間を取り戻せるのなら、そーちゃんのそばがいい。友達と学校行って、勉強して、遊んで、そんな当たり前に、わたしは憧れたんだから。でも、その中にそーちゃんがいないなら、全然楽しくない。



 ――――これからは、二人でいればいいよ。約束!



 そう言って、無理やり小指を絡めて歌った記憶が懐かしい。わたしの、初めての友達。何も言わずに避けていたのは、きっと真理夏と同じように心配させていることをわかっていたから。



 便箋を封筒に仕舞って、小包を鞄に入れて立ち上がる。真理夏に連絡を入れて、携帯の電源を落とす。そっちがその気なら、わたしにだって考えがあるのよ。



 人間性を疑ってしまうほど嫌いな相手だけど、こういう()の事情には、使えるから。使えるものは何でも使う、をモットーってことで。わたしは電車に乗り込む。乗り替えが二回ほど必要な、電車で一時間ちょっとはかかる、とあるマンションへ向かう。



 見上げても先が見えないほど高いマンションのエントランスで、部屋の番号を押す。ワンコールで出る辺り暇だったんだな……と考えながらも、用件を簡潔に伝える。



「話したい相手がいる」



 少し待つと、スーっと静かにエレベーターの扉が開き、十五、十六歳ぐらいの女子が奴の部屋までついてきてくれる。本人は案内のつもりだろうけど、わたし部屋の場所知っているからね。



 こういう演出が好きな奴たから、付き合うけどさ。それに、そーちゃんと会うためにはこいつの手を借りるしか方法がない。悔しいけど、仕事はできるし。



 部屋の前につくと、案内してくれた女子が扉を開けてくれた。これでヒラヒラフリフリのメイド服でも着せていたら、即座にお巡りさんへゴーするんだけど。あいにくそういう趣味はないらしい。



「いらっしゃい。親御さんには僕から伝えておいたよ~。それで? 愛しのそーちゃんに会いたいって?」


 

 相変わらず、癪にさわる言い方をする。こいつとは、インターネットの掲示板で知り合ったんだけど……自称占い師。本業は情報屋。行列の出来る美味しいお店の情報から、風俗嬢のすっぴん顔や個人情報まで、取り扱うものは様々。



 都市伝説みたいな職業だけど、一回お試しでわたしの出身校を尋ねたら、ノートパソコンをカタカタしたかと思えばあっという間に当てられた。しかも、わたしが六年間意識がなかったことまで、ついでのように教えたくれた。



 あの時は滅茶苦茶ビビったものだ。だけど、そこから何度か利用させてもらっている。値段もわたしが学生だからか知らないけど、他の人より安くしてくれてる……らしい。本人曰く「何となく」だそうだけど、取り巻きの女子は「お気に入りだからでは」と噂していた。



 偉そうに足を組んでキャスターつきの椅子に座って、くるくると回りながら尋ねてくる。何が知りたい、という目で。それに応えるように、わたしは目の前にいる男を見て口を開く。

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