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10.高校デビュー

 月日が過ぎるのは早い。いよいよ高校の受験日である。緊張もしているけと、その倍以上に楽しみが勝っている。通信制の高校は中学生の勉強がある程度出来れば入学するのはそこまで難しくないらしい。



 わたしの選んだ高校は、週に五日通う全日制か、週に一日通う単位制が選べることが出来た。全日制には制服があるので、わたしは迷うことなく全日制を選んだ。だって、高校の制服は小さい頃からの憧れだもの。絶対着るって決めてたんだから!



 受験自体は、ずいぶんとあっさりとしたものだった。数学と国語からいくつか問題が出たけど、簡単なものだったし、あとは作文と面接。作文は自己PRとか将来の夢とか、何でもいいみたい。とりあえず四百字埋めればオッケーオッケーって感じ。面接も、家族構成とか簡単なことを聞かれたあとに、頑張ってくださいと言われて終わった。



 後日、合格したとの知らせがきてささやかだけど、家族でお祝いした。あまり受験らしい受験をしなかったけど、お母さんはわたしが高校に行くために勉強に励んでいたことを知っていたようでその日の食卓にはわたしの好物が並んだ。



 そして、入学式がやって来た。初めて袖を通した制服、ぶかぶか感は否めないけど、まぁサイズがあってよかった。寸法の時メジャーを持ったお姉さんが険しい顔してたから、サイズがないかと思った。



 憧れの制服は紺色のブレザーに赤のネクタイ、赤チェックのスカートと可愛い。靴下と靴は特に指定ナシ。髪の毛染めてオッケーピアスオッケーアクセサリー全然オッケーと、かなりゆるい感じの学校。



 入学式は、いつもより少しだけ早めに起きてしまった。何となく、髪の毛のセットにも気合いが入る。綺麗にブローして、邪魔にならないように、リボンのついたシュシュで耳の後ろ辺りで、一つのお団子にしてまとめる。



 アクセサリーオッケーとのことで、お守り代わりに真理夏からもらった花のネックレスをつける。首もとで揺れるモチーフを見て、気合いを入れる。



「行ってきます」



 洗濯物を干していたお母さんに挨拶してから家を出る。慌てたようにパタパタとスリッパの音に振り返ると、お母さんが元気よく「行ってらっしゃい、気を付けて!」と送り出してくれた。笑顔で手を振って、駅に向かう。



 混んだ電車の中で、何とか席を確保できた。座って落ち着こうとするも、緊張と興奮でそわそわする。朝からこんな調子だったので、真理夏とそーちゃんに高校デビュー……デビューと言っても、別に髪を染めたわけでもピアス開けたわけでもないけど。



 連絡するの忘れてた、と思いまずは真理夏に送る。今から学校だと伝えると、応援のスタンプが送られてくる。それに口元をほころばせながら、次はそーちゃんに学校頑張りますと書いて、力こぶの絵文字をプラスして送信。



 そんな風にしている間に、学校の最寄りの駅についた。携帯を鞄に仕舞い、何とか人混みをかき分けて出ようとするも、慣れない人の流れに転びそうになっていると、ガシッと誰かに肩を後ろから支えられて転ぶのは避けられた。ただし、ぐきっと右の足首が嫌な音を立てて痛みが走る。



「大丈夫?」

「はいい……。だ、大丈夫です!」



 満員電車って大変だ~と目を回していると、声をかけてくれたのは茶髪にピアスを両耳で合わせて5つも開けているザ・チャラ男。周りには同じように派手に制服を崩して着ている女子たちがいる。



 でも、転びそうになったわたしを助けてくれた人だ。お礼を口にしようとしたところで、先にチャラ男さんが口を開く。わたしのブレザーの胸元につけらるた校章を見て、「あ」と呟く。



「何だ、学校同じじゃん。どうせだし、一緒に行こう」

「えと、あの……」



 どうしよう、足首の痛みは増す一方で、青ざめるのがわかる。せっかく高校デビューなのに、いきなり遅刻? いや、それよりもまずはお礼を言って、チャラ男さんには学校にに行ってもらわねば。



 何とかホームにはおりれたし、あとは自力でくじいた右足首を庇いながら学校まで歩くか、学校に連絡するか。迷惑をかけてしまいそうだから、自力で頑張るかなぁ。



 チャラ男さんを囲むようにくっついている派手派手女子の視線も痛いし。わたしは、何とかたどたどしく説明をする。さっき転びそうになったことで、足首をくじいてしまったことと、入学式には間に合いそうにないから先に行ってくださいと伝える。



 すると、チャラ男さんはニカッと白い歯を見せて爽やかに笑った。そして、背中を向けたかと思うと、「田中樹号のお通りだよー」とふざけたように言いながらわたしをおんぶした。



「わぁ!? え? え?」

「ほら、急ぐぞー。しっかり掴まれよ、後輩!」



 走り出したのがわかって、ぎゅっとしがみつく。後ろから、田中先輩の鞄と、わたしの鞄を持って追いかけてくる派手女子のグループ。田中先輩は、わたしをおんぶしているというのに、あっという間に学校についた。



 派手女子グループも、意外なことに足が速い速い。田中先輩にキチンと追い付いてきていた。しかも、全員息一つ切らしていない。す、すごい……。てっきり、派手女子グループに何か言われるかと思ったら、普通に心配してくれた。



 女子の一人が先生に知らせて、田中先輩からおろしてもらって、女の先生に支えてもらいながら保健室に向かう。お礼を言おうと振り返ると、すでに田中先輩も女子グループの姿もなかった。



 田中、樹先輩……。何年生だろう? 聞いておけばよかった。キチンとお礼が言いたい。まさか、電車で偶然助けてくれた人が同じ高校の人で、おまけに全然知らないわたしにここまで親切してくれるとか、何。菩薩なの。



 結局、軽い捻挫ということだった。入学式にも何とか出られた。捻挫のことをそーちゃんや真理夏に知らせると色々言われそうだから、黙っておいた。そんなこんなで、高校生活一日目を終えたのである。

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