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彼とわたしの風変わりな日常  作者: 赤オニ
これからの時間
10/50

9.一日早いクリスマス

「いえーい! メリークリスマス!」



 サンタさんの帽子を被り、ジュースの蓋を開けながら声をあげると、真理夏とそーちゃんの二人から、「一日早い」とすばやい突っ込みを入れられる。一日ぐらい気にしない気にしない! とグラスにジュースを注ぐ。



 今日は十二月二十四日。クリスマスイブであり、そーちゃんの誕生日なのである。クリスマス会を開こうと真理夏に相談したら、そーちゃんの家でやる流れになぜかなってしまった。初めて訪れたけど、まさに日本のお屋敷って感じ。



 例の気合いの入った運転手さんが迎えに来てくれて、先に車の中にいた真理夏と一緒に屋敷まで送ってもらった。そーちゃんの部屋は離れにあるらしく、少し歩くと立派な離れが。



 そこで今、こうしてパーティーを開いているわけである。テーブルには彩りのいい豪華な料理が並んでいて、真ん中にはイチゴがこれでもかと敷き詰められたケーキ。どれも美味しそう。


 

 一日早いけど、三人ともプレゼントは用意してきたようで、わたしはいそいそと鞄から取り出す。クッキー、実は今日のために焼いたやつ……ちょっと焦がしちゃったんだよね。だから何となく渡しづらかったからもう一つのプレゼントからにしようとしたら、真理夏が目配せで、はよ渡さんかいと言ってきたのでええいと覚悟を決めて袋を取り出す。



 透明な袋に、少し焦げ目のついたクッキーが入っていて、口はピンクのリボンで縛ってある。不器用だからか、どうも綺麗にリボンが横になってくれず、やや傾いているのはご愛嬌ってことで。



「はい、これ。ちょ、ちょーっと焦げちゃったけど、噛みごたえがあって美味しいと思う。そーちゃん、誕生日……おめでとう」



 焦げたことに関して自分でフォローを入れつつ、えへへと笑って渡すと、そっと受け取ってくれる。懐かしむように袋に詰められたクッキーを見つめ、「食べていいか?」と言うのでうなずくとリボンをほどきクッキーを一枚取り出して口に入れる。



 見たことないぐらい、そーちゃんは優しい顔でゆっくりとクッキーを噛む。飲み込んでから、強面イケメンが珍しく笑う。それも、小さい子供みたいに、無邪気な様子で。



「美味しい。ありがとう」

「ちょーっといいかしら? 二人でラブラブしてあたしを置いていかないでちょうだいな」



 茶化すように割り込んできた真理夏に、思わず噴き出してしまう。そーちゃんも、笑ってる。こんな風に笑うようになったんだなぁ、としみじみ見ていると真理夏がポツリと小さくもらした。



「笑えるのね」



 ……? 不思議に思って聞こうか迷ったけど、テキパキと真理夏が料理を皿に盛ってくれたので、いただくことにする。わたし一人、両手を合わせて「いたたきます」と言ったら、二人がポカンとしていた。



 あれ、二人とももう食べ始めてる。いただきますしたのかな、と見ていると慌てたように姿勢を正していただきますをしていた。そっか、家によってはやる習慣がないところもあるのか。



 何だか強制してしまったようで、申し訳なくなる。しかし、反応は予想外のものだった。感心したように、バシバシと背中を叩いてくる真理夏。ちょ、普通に痛いんですけど。



「六花って、礼儀正しいのね。家でもそうなの?」

「うん、親がそういうのに厳しい人だから」

「なんか、偉いわねー。あたし、中学に入る頃にはしなくなってたわ」

「確かに、俺も」



 食べながら喋るのは行儀が悪いと、小学生の頃に教えられた習慣があって、話すにもワンテンポ遅れるけど、二人ともそのことに対して文句どころか、感心してくれる。



 料理は、滅茶苦茶美味しかった。作ったのが誰か気になっていると、真理夏が教えてくれた。なんと、あの気合いの入った運転手さんがすべて作ったそうな。……人って、見かけによらない。



 ケーキは、真理夏が綺麗に切り分けてくれた。イチゴと生クリームがたっぷりのショートケーキ。生クリームは甘すぎず、イチゴの酸味がいい感じに口の中をさっぱりさせてくれる。ケーキも平らげ、お腹も膨れたところで一息つく。



 鞄の中から、三つの袋を取り出す。そして、二人にそれぞれ一つづつ渡した。真理夏は目を輝かせ、「何これ!?」と大はしゃぎ。この中の誰よりも真理夏が騒いだと思う。楽しかったから、いいけど。



「クリスマスプレゼント。三人とも、お揃いのスノードーム。逆さまにして、戻すと……ほら、雪が降ってるみたいでしょう?」



 まだ小さい頃、おばあちゃんの家にあって、よく逆さまにして戻すのを繰り返して、何度も遊んで(?)いたのを覚えている。スノードームの中には、雪の積もったログハウスがあって、近くにちょこんと小さな雪だるまがいる。



 スノードームを初めて見た時は、真理夏みたいに目を輝かせて眺めていた。二人とも、喜んで受け取ってくれた。そして、真理夏からのクリスマスプレゼントはネックレス。高いものじゃないかと思ったけど、どうやら会社近くの雑貨屋で買ったものらしい。



 花に蔦が巻きついて葉っぱの付いたモチーフのネックレス。すごく可愛い。早速つけてもらって鏡で見ると、少し自分には大人っぽいかと思ったけど大きめの花が可愛らしさを出しているから、そこまで違和感もないか。



 そーちゃんからは、シャーペンと、消ゴム。それからシンプルな写真たて。勉強頑張りなさいってことかな。つい苦笑いが浮かんでしまう。真理夏から「何よこの色気のないプレゼント!」とどやされていたけど、わたしは嬉しい。



 来年の四月から、通信制の高校に通うことを決めた。冬が終わったら、わたしの新しい生活が始まるんだ。今までが楽しくなかったのなら、これから自分の力で楽しくしていけばいい――。



「そーちゃん、ハッピーバースデー!」



 携帯で、三人の映った写真を撮る。今や携帯からデータを送って写真をプリントアウト出来る時代なんだから、すごいよね。プリントアウトしてもらった写真を、早速そーちゃんからもらった写真たてに入れる。



 ぎこちない笑顔で写真の中に収まるそーちゃん。素敵な一年になるといいね……。外に出ると、雪がちらついていた。声をあげて、はしゃいでしまう。



「ホワイトクリスマスだよー!」

「今日はイヴだぞ」



 苦笑いで返され、笑い返してふとテジャヴを感じた。――ああ、そっか。イルミネーションを見に行ったときと、同じ。ふふふ、自然と笑みがこぼれた。

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