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彼とわたしの風変わりな日常  作者: 赤オニ
プロローグ
1/50

幼い約束

 初めて彼と出会ったのは、小学校の入学式でのこと。幼稚園、保育園、知らない子ばかりの中で彼は、特別目立っていた。入学式と言うこともあっておめかししているけど、せっかくの服はよれよれ、手足のあちこちに擦り傷が出来ている。



 すぐ横には泣いている男子がいて、さっきまで取っ組みあいの喧嘩をしていたのだとわかった。泣かされた男子の母親が彼の元へ駆け寄ったかと思うと、なぜか頭を下げてそさくさと立ち去った。



 彼は、ポツンと独りで服についた砂ぼこりを払う。親らしき人は近くにいない。迷子なのかな……不思議に思いながらも、自然とわたしの足は独りでいる彼の元へ向かっていた。近付いてきたわたしを威嚇するように、鋭い目つきで睨むけど、それよりもつねられたのか、赤い頬が気になってポシェットから絆創膏を一枚、渡す。



 わたしの行動にぽかん、と呆けたあと乱暴な手つきで絆創膏を受け取ってくれた。それが嬉しくて、ニコニコしながらそばにいると、ゴニョゴニョと何か言うのが聞こえる。周りが騒がしいからよく聞こえないけど、聞き取れたのは「そばにいると、友達がいなくなる」と言う寂しい言葉。



「じゃあさ、これからは二人でいればいいよ。約束! そしたら、さみしくないでしょ?」



 今思えば言っていることが支離滅裂だし、彼の言う友達がいなくなるってのは確かにその通りになったんけだけど、後悔はしていない。だって、初対面のわたしの滅茶苦茶な約束を、彼は泣きそうな顔でしっかりとうなずいてくれたのだから。……その時は、そう思っていたんだ。



 小学校になると、わたしは彼と行動を共にするようになった。他の男子と女子が一緒にいると男子がからかうのに、なぜかわたしと彼はそういったことは一度たりともなかった。何でだろうねと素朴な疑問をぶつけてみれば、素っ気なくさぁ、とだけ返ってきた。



 彼は、毎日のように喧嘩を繰り返した。クラスのヤンチャな男子と、取っ組みあいの喧嘩。その度に、わたしは入学式と同じように、可愛いキャラクターがプリントされた絆創膏を渡す。



 小学二年生になって、女子と遊びたいと思うようになった。入学式での約束は、幼いわたしの頭から綺麗に消えていた。彼はいつもわたしのやりたいことに付き合ってくれるけど、やっぱり同じ女子とも遊びたい。いつものように一緒に登校したあと、わたしは彼と別れてクラスメイトの女子に話し掛ける。



「わたしも遊びに入れて」



 声を掛けた女子の一人が、よほど怖かったのか泣き叫ぶように「六花ちゃんは入れてあげない!」と言った。どうしてダメなのかわからず、ただ遊びに入れてもらえないと言う事実にショックを受けて立ち尽くした。次の日から、わたしが声を掛けた女子は学校に来なくなって、少し経って引っ越したと聞いた。



 小学三年生になったわたしは、二年生での出来事を引きずっていて、クラスメイトと距離を置くようになった。声を掛けて、またあんな風に拒絶されたら……そう考えると、怖かった。相変わらず、彼と行動する日々が続いた。彼の喧嘩の日々も、続いていた。



 ある日、下校途中教室に忘れ物をしたことに気付き彼に一声かけて、取りに戻った。教室にはまだ数人男子が残っていて、わたしに気付くと彼がいないことをいいことに色々言われた。曰く、彼の家はヤのつく怖いお家だとか、彼は将来そういう道に進むんだとか、だから今から喧嘩ばかりして鍛えているとか。



 わたしは、いつも彼と喧嘩をしている男子が意地悪で言っているのだと思って、次の日彼に聞いた。何も、返ってこなかった。否定しない……それは、男子の言っていたことが事実だと示していた。



 怖くて、彼と一緒に行動することを止めた。あの約束は、いつまで彼の中に残っていたのか、わたしの中ではとうに消えたあの約束を、彼は多分真実を知られるまで貫き通すつもりだったんだろう。



 小学四年生に上がって、わたしは今まで避けていたクラスメイトと少しずつではあるけど、接するようになった。独りぼっちになった彼は、益々喧嘩が酷くなったと聞いてはいたけれど、極力視界に入れないようにした。見たくなかった、幼稚で怖がりなわたしは、どこまでも愚かだったと今でも思う。



 クラスにもようやく馴染めた頃、季節は夏を迎えていた。もうすぐ夏休みということで、浮き足立っていたのがいけなかったのかもしれない。仲の良い友達と一緒に下校して、途中で友達とわかれて一人で家路を急ぐ。



 前方に、彼の背中を見付けた。学校ではなるべく視界に入れないようにしているのに、その時はなぜか目が離せなかった。何となく、ある程度の距離を保って歩いていると、歩道を歩く彼のほうへ車が突っ込むのが見えた。



 気が付くと走り出していて、彼の背中を突き飛ばす。驚いたように振り返った彼の目と視線がかち合う。衝撃と、悲鳴、雲一つない夏の青空。ぐるぐる回って、最後に見えたのは、泣きそうな顔で駆け寄ろうとする彼の顔。そこで、わたしの意識は途切れる。

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