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サレンの過去

「お兄ちゃんの言う通りだ! 私でも少し感じることができたよ、椋木 朧を!」

 

 天蓋が付いた、女の子らしい、可愛いフリルのベッドで横になっていた金髪少女は、ふかふかであるベットで横になっていた。

 金髪の美少女。

 それだけならば、ピンクの、無駄に豪華なベットを使っていようとも、おかしなことはないだろう。むしろ、絵になっている、と朧なら言うのかも知れない。

 だが、その少女は神様。

 ベットの弾力を利用して起き上がる。ピョンピョンと可愛く跳ねて兄へと大きな声を上げる神様。金髪少女の神は、兄が言いつけた通りサレンを監視していた。

 もふもふのベットで横になりながら。

 世界に関与する能力は無くとも――自分が生活するに困らない力は残されていた。ベットや異下界の物質を創造する能力程度だが。

 神様は、朧の気配を感じて、大きく喜んだ。自分の作戦はまだ続いている事に。世界の管理も出来ず、世界を救うと言う課題も実行に移した時点で失敗した。

 それがバレたら――。

 そこまで考えた所で、少女は首を振る。


「あれ、お兄ちゃん?」


 いつもならば、呼べばすぐ来るのに、むしろ呼ばなくても現れるのに、一向に待てども、少女の兄は現れない。


「むむ、どこ行ったのかな」


 じゃあ、どうしようかなー。

 監視するように言われてはいるが、それ以上は特に言われていない。勝手な行動をしてまた、失敗するのは嫌だ。

 少女はもう一度、ベットで横になった。


「お兄ちゃんも忙しいのか」


 でも、見ているだけじゃツマラナイなー。と、天街についている鏡を見上げた。鏡と言うよりあ楕円の形をした液晶に、サレンとクウカが映し出されていた。

 なにやら、クウカと盛り上がっているサレンを見ているが、いまいち、面白くない。二人は話しているのを聞くだけなんてつまらない。

 できれば、騎士団と戦ったようにしてほしいなー。そうすれば、また、朧を感じることが出来るかもしれない。

 止めを刺す時に感じた朧の魂を。


「うーん。だけど、私って、基本見てるしか出来ないんだよねー」


 実態を移動させることは出来ないし、下界に行くことも出来ないし。

 今の金髪少女は神様というには――全知全能ではなかった。


「全く、他の皆もこんな目に合えば、私の気持ちが分かるのになー」


 神様だから人の気も知らないのかなー。


「ふん? でも、それじゃあ、神様が人間らしくなってしまうのかな?」


 少女は、くっと、横になったままに伸びをする。


「もう、人間は神の想像力を超えてるのかな」


 神は人や獣しかできなかったけど、そこからの派生は人間の努力って事だもんね。

 私も考えなきゃとは思うのだが、


「ま、難しいこと考えると眠くなるね……」


 金髪少女は目を閉じ、すこしだけ眠り突こうとする。

 神様の少しの眠りで、人の一生が終わってしまう事は、十分理解したはずではあるが――少女は眠りに入った。

 呼んでも現れなかった兄が、自分のために危険を冒して動いているとも知らずに……。





「やっほー、眠ったところでおはよー!」


 眠った相手に声を掛けるとは思えない、底抜けに明るい声で朧は言った。


「……また貴様か」


「おはよー! 寝てた? って、まだ寝ている最中なんだろうけどさー」


 床で横になったサレンは、クウカと喋ってすぐに眠ってしまったらしい。

 常日頃から、サレンは完全に眠ることはない。わずかな音や気配でも目を開けることが可能である。だから、「やっほー」と、起こしてきたのも、クウカがまた、なにやら話に来たのかと思ったのだが、いざ、目を開けてみると――そこに居たのは朧であり、より顔を険しくさせた。


「そんな露骨に嫌がらないでよー、君と僕の関係だろ?」


 どんな関係だともサレンは思うが、


「……なんのようだ? ついさっき別れたばかりだろう」


 そういうに留めた。話の流れを朧に譲りたくはない。

 サレンと朧が別れてから数時間しか立っていない。また会おうと言ってはいたが、こんなすぐに会いに来るとは思わなかったサレン。それに――今回、朧が現れた空間は、炎に包まれた家だった。

 神様に見せられた光景と全く同じ。これが夢だとしたら悪夢だな。とサレンは口の端を歪めて笑ってしまう。


「そうだけどさー。話聞いてたら気になっちゃうじゃない」


「なんの話だ?」


「とぼけないでよ、君の心にある復讐心だよ」


「また……見てたのか」


 クウカとの話を……。


「だから、見たくて見てるんじゃないんだって……」


 朧に日常を見られようと構わない、が……、その都度、こうして出てこられたらたまったものではない。


「で、なんで復讐しようとしてるのかな?」


「復讐? 残念ながら、俺の生き方はそんなものではない」


 復讐なんて言葉で片づける気はない。

 言葉で表せることのない感情を抱え込んでサレンは生きていた。


「ま、どっちでもいいけどさ。だけど、君のその感情は――ここが関係しているのかな? 僕、火事って初めて見たよ」


 映像と自分の眼でみるのじゃ全然違うと、朧は驚いて見せるが、そんな、人を呼び出したとは思えない態度を取る朧に、


「貴様も神も。俺にこの場所を見せるのが好きなようだ」


 サレンがランスを引き抜いた。魂だろうと朧を殺せるはずで、ここで朧を殺せば、完全に消せるとサレンは考えた。


「見せてるんじゃない。君が見てるんだよ?」


 だが、いつの間に移動してきたのか。現実でならば、至って平和な日本で暮らしていた朧に、争いに身を置いてきたサレンに、気付かれずに近距離へと移動することどころか、近づくことすらできないだろうが、ここは意識の中であり、朧の方が慣れているからなのかも知れない。

 サレンの武器であるランスを左手で軽く押さえていた。


「貴様……」


 全く気づけなかった朧の動きにサレンは目を細める。

 だが、サレンは細めた目を大きく見開くことになった。朧を殺そうとしていたランスが、サレンの拳から消えていたのだった。

 最初からそこにはなかったかのように。

 空を握っていた手を見る。先ほどまで、自分が握っていたランスはどこへといったのか。


「ここで、君に何が起きたのか教えてくれないかな?」


 困惑するサレンへと、にこやかに話す朧は、有無を言わさぬ迫力を持っていた。


「……貴様に語る必要はない」


 サレンはそう言いながらも、意識を引き締める。朧は明らかに変化しつつある。神様から貰った力の影響なのか、どちらにして、ここまで、朧に力を使われている自分の弱さが情けない。

 これ以上、好き勝手を指せるわけにはいかない。


「えー、そんなこと言わないでよ。教えてくれるくらいいいじゃん!」


 力を見せつけて嬉しい。と、いう訳ではないのだろうが、あくまでも笑顔は絶やさない朧に対し、サレンの表情は硬い。


「……」


「ま。人には言えないことあるよね」


 僕もあるし。と、今までよりなお一層明るく笑う。


「なら、聞くな」


 人には言えないこともあれば言いたくないこともある。それを土足で踏み込もうとするなんて、人間として在り得ないと、朧にしたってそう思うが、


「いやー、でも君は特別じゃん?」


 サレンに対しては例外らしい。


「なぜだ?」


「僕をこんなところに閉じ込めてるんだもん」


 閉じ込めているのだから、自由を奪ってるのだから、これくらいの簡単な要求は答えるべきだと、朧は思っていた。


「貴様はそれしか言わないのか?」


「それしか言えないんだよー」


 それが、閉じ込めた君と閉じ込められた僕の差だよ。才能ある人間と才能のない人間が決して交われない様に、僕と君は相いれない。


「……」


 黙るサレンに分かったよと、朧はようやく笑顔を消して向き合った。


「いや、分かった。本当の事をいうよ」


 雰囲気を変えて朧は言う。


「本当の事?」


「うん」


 朧が本当に知りたいのは復讐の理由ではない。

 サレンも感じたのか、「言ってみろ」と、続きを聞く意志を示した。


「……僕は君を知りたいのかもしれない。復讐という、遥かなる道を登っている君の事を」


 朧はそう切り出した。生きる目的なんて持てなかった自分とは違う、明確でありながらも途方もない道を選んだサレンを――理解してみたかったのかも知れない。


「俺を知りたい……?」


「うん。僕は毎日を生きてる意味が分からなかった。いや、生きてることはしょうがない。これは揺せないから良いんだけどさ」


「良いならいいだろ?」


「いや、そこでどうしようもない、揺るがしようのない《妥協》をしてしまってるのだから、皆大人しく、何も思わず、何も目指さず生きていけばいいと、僕は常々思ってたわけだよ」


 夢とか、優劣とかそういうものを思考しなければいい。無能の人間が、それでも、どうしても目指したいというのならば、目指すべきは《歯車》だ。

 意味なんてない。

 周りが動くからそれに合わせて動くだけ。

 朧はそう思って生きてきた。


「……そうか」


「それなのに、『折角生まれてきたんだから』とか、『人生は一度キリ』とか言っちゃう人間が理解できなかった。生まれてきたら楽しまなきゃいけないのか? 一度きりだからこそ、慎重になるべきだろ!」


 今までの朧からは考えられない程に荒れた口調。込められているのは怒りの感情なのか……。


「……」


「それでいて《妥協》に《妥協》を重ねて、好きでもない人間と結婚して、残しておく価値もない自分の遺伝子を残そうとする。てめえらは馬鹿か? てめえらの遺伝子を残さなきゃ、これからの時代はもっと良くなんだろ馬鹿が! 《妥協》した子孫を残してなんになんだよ!」


 豹変した朧に対し、


「落ち着け……」


 とサレンは声を掛ける。

 無垢な子供の如く、喜々とした表情しか見せてこなかった朧。しかし、今までため込んでいた不満を吐き出した朧は止まらないようである。


「価値のない人間が大きな声を上げるのが許せないんだよ。負け犬には負け犬の誇りがあるだろう! 黙って勝者を見届けろよ!」


 負け犬で在るにも関わらずに、人の文句を言える人間が朧は嫌いだった。大体の場合、ほとんどの人間は《敗者》である。それなのに、その中で魔でも優劣をつけ、そして勘違いは肥大していき、『勝者』である人間にまで批判が及ぶのだ。朧にはそれが許せなかった。


「……そこは否定しないがな」


 その意見にはサレンも同意だった。弱者が弱者の中で争うなんて何たる無駄な事だと。強者からすれば、どちらも『肉』にしか見えないのだから。

 それが弱肉強食なのだと、サレンが同意したことでようやく落ち着いたのか、


「あ、ああ。ごめん」


 ヒートアップしちゃった。

 はぁと、息を吐き出し、罰の悪そうな顔をする朧。


「いやね、僕はそんな後ろ向きに生きているから」


 人間の後ろしか見えないのは悪い癖だと、自分でも思ってはいるが直せない朧。しかし、一通り吐き出し少しは楽になったのか、すぐに、今まで通りに笑う。

 ヘラヘラと、自分を笑うかのように……。


「ふん。だが、『勘違いした弱者〈そいつら〉』からすればお前は更に弱く見えるのだろう」

 負け犬としての自覚を持っていない人間は同類だと思うかと言われば、思っていない。最終的に弱きものは群れを作る。自らその群れに入れない人間は――底辺だと思われてしまうのだから。


「そうなんだよね」


 朧はやるげなさそうに頷く。自分の感情を吐き出したことで、話が変わりかけていることに気付いたのか、


「いや、でも、僕の人生で始めて、強い意志ってのを感じたんだ」


 と、サレンのことを知りたい理由を述べた。


「君こそ、僕が会いたかった人間じゃないのかって思い始めたよ。だから改めて、こうして姿を現したのだと。


 今まで、この18年間――自分を変えてくれる人間がいつか、現れるのではないのかと朧を待ち続けていた。

 最初は金髪少女なのかと思ったのだが――その相手はサレンなのかもしれない。そう思い始めていた。


「だから――君の事を知りたいのかもね」


 朧の情熱的な視線に、「貴様……」と頬を引きつらせる。


「ああ、別にそういう意味ではないよ。僕には好きな人もいたしね」


 誤解を解こうとする朧だが、サレンの表情が引きつっていたのは、自分で何もせずに、居るかもわからない人間に救いを求める朧の甘い考えだった。

しかし、世界が違う影響か、朧は違う事を思ったようだ。朧のそんな返答にも真面目に答えるサレン。


「俺はいない」


「だろうねー。自分にしか興味がないみたいだもん」


「かもな」


 しかし、好きな人がいるという朧は、自分が言っていた『優秀でもない人間』が、子孫を残していること、同義なのではないだろうか。

 あれだけ激高しながら、やっていることが同じならば、それこそ、生きている意味も負け犬としての誇りもあったのもではない。


「違うよー。『好き』と『遺伝子を残したい』って思いは同じじゃないよ」


 朧はそういうが――戦いにしか興味のないサレンには伝わらない。

 好きと言う気持ちも、自分の子を残したいという気持ちも。


「俺には……分からないがな」


「ははははっ。だろうねー」

 あれだけ分かりやすく好意を寄せられているのにと、朧は言いたくもなるが、ここで自分が言ってしまったら、これまでの頑張りが無駄になってしまう。余計な手出しは無用だと、自分の口を両手で押さえる。


「……良く分からないな。貴様は」


 一人で起こったと思えば楽しそうにする朧。


「どう、僕の事も知りたくなった」


「別に」


「うう……うう」


 冷たくあしなわれたのが悲しいのか、朧は泣いたフリをした。

 本当に一人でも楽しそうで、別にサレンの精神へと閉じ込められていても、問題はない気がするのだが……。


「用がないのなら俺を帰らせろ」


 こんな場所で、朧と話をするだけなんて無駄な時間。サレンは、翌日、《カオズ王国》に向かうために、少しでも休息が必要なのだが、朧は話を聞くまで帰す気がないのか。


「なら、君の過去を離してよ」


「……」


 無言を貫くサレン。


「まあ。言わないなら、君の記憶の中に飛び込んでみようかなー」


「そんなことが……出来るのか?」


 朧は相当に力を付けている。

 精神の中とは言えど、サレンの武器を消失させた。そして、今度は人の記憶まで見れるのか――、


「いや、できないんだけど……」


「なら言うな」


「ま、《意思》では君が強いけど、忘れないでほしい。僕は神様から力を貰っているという事を」


 朧の警告。

 異世界で、異世界の人間に転移する際に起こる現象を――朧は手にしているのだ。その力がどんなものか……。


「まま、そんな事はいいからさ――教えてよ」


 サレンは考える。

 別に自分の過去をどうされようと問題はない。だが、相手は朧であり、『体を求めている敵』であるこの男に、余計な事を話したくはなかったが――、


「いいだろう」


 と自分の過去を朧に話すことを決めた、別に朧の持つ力に怯んだわけではない。


「いいの?」


「ああ。貴様の心が少し聞けたからな」


 朧が吐き出した感情に免じて、自身の過去を離す気になったのだ。


「へへへへ」


 照れた様にはにかむ朧。


「褒めてはないがな」


「それで、ここで、何があったの?」


 赤く激しく燃える炎。それはまるでサレンの心の様に燃える。

 サレンと朧は二人並んでしばらく炎を見つめていたが、サレンが口を開く。


「貴様は俺を力を持っていると言ったが、俺は力など持っていなかった」


「ふん?」


「俺はとある《魔法使い》の子として生まれた」


 《魔法使い》の技術が今よりも活発ではなかったとはいえ、それでも貴重な人間であることには変わりはない。

 サレンの両親も随分と良い生活をしていたのだと言う。


「そうなんだ」


「ああ。そして、《魔法使い》は《魔法使い》の子供から生まれる可能性が高い――貴様の言う優秀な遺伝子だ」


「あれ、でも……」


 サレンは《魔法》使ってなかったよね?

 朧がそう聞こうとするが、聞かれる前に、「だが、俺には《魔法》は使えない……」と、自身が《魔法使い》ではないことを告げた。


「え、あれだけ復讐とか言いながら落ちこぼれだったの? 僕と同じじゃん」


 仲間仲間と、握手を求める朧。


「……話すのをやめてもいいんだぞ?」


 急に馴れ馴れしく肩までくもうとしてきたのを制して言った。


「ごめん」


「まだ、発展途上の王国だったとはいえ、俺たちが今いるこの村よりも、はるかにましな街だった」


 発展途上だったが故に格差がさほど広くはなかったのだと。


「ふむふむ」


「だが、俺が成長するにつれ、周りの人間たちの目が冷たくなった」


 《魔法》の発展も関係していたのだろう。子供のサレンにはそんな理解が出来る訳もなかったが。


「まあ劣ってる人間がそんな性格ではね」


 しかし、異世界の成長など知る余地もない朧は冷たい態度はサレンの正確にあるのだと思い込んでいた。


「……」


 無言の圧力。


「どうぞ、続けて」


「……中でも、その《王国》にいた《騎士団》が、俺を責めた《魔法》も使えないくせに、守ってもらおうなんてふざけるな。と」


 王国を守るのが役目の《騎士団》。だが、王国の役にも立たない無能なるサレンを――親が《魔法使い》と言うだけでは、守りたくないと、そう責められたのだ。

 両親とも《魔法使い》のくせに無能だと、虐げられた。


「気持ちはわかるけどね」


 《騎士団》も大変なんだろうから。


「そして、その怒りは次第に《騎士団》に所属していた俺の親にも向けられていった」


 子供もろくに産めない人間が、いつまで《騎士団》の中にいるのだど。


「きついねー」


「だが、それでも親は俺を愛した」


「いい親だね」


「しかし、《騎士団》かの暴力や差別にその愛にも限界がきた」


 それが辛かった。

 愛していたが、次第に憎憎しみを持ってしまったことが、サレンの両親にはつらかった。その結果――。


「ご自慢の《魔法》で家を燃やしたのさ」


「それがこの光景?」


 サレンの両親は、愛する子を愛せるうちに死のうとした――美しい親子のままで終わりたかった。それは、『親』と言う力を持った二人の選択。

 だが、『力』はより巨大な『力』の前には無力だ。二人の《魔法使い》による決死の炎は骨も残さずに、三人を世界から抹消させるはずだった。

しかし、サレンは燃えているこの家を、両親からの束縛を振り切り、燃える炎から抜け出した。


「それがここで起こった事だ。よくある事だ」


「《騎士団》を憎んでるのは一家心中まで追い込まれたから……」


 確かにそれは《騎士団》も憎みたくなると共感する。


「それは違う」


 だが、サレンが憎んでいるのは《騎士団》ではない。


「へ?」


「俺は弱き親から生まれた自分が憎いし、その親を救えなかった自分が情けない」


 だから、俺は自身の強さを証明し、《騎士団》倒す。そうすれば――あの時の弱い自分と決別ができる。


「そのために《騎士団》を滅ぼす。弱い自分を消すために」


 俺の中には弱い頃の俺が残り続けている。

 自身の胸に手を当てて、サレンは言った。


「なるほどねぇ……」


 サレンが何故、《騎士団》と戦うのか理由が分かったところで、朧の体が透けていく。


「あれ、もうちょっと話したいんだけどまたも……時間切れだ」


 サレンの意識へとコンタクトを取るのには時間制限があるのか、朧は残念そうに首を横に振る。


「うん。でも、いっか」


 知りたいことは知れたし。


「じゃあ、頑張ってハコちゃんのお姉ちゃん取り戻してね」


 目を覚ましたら《カオズ王国》へ向かうサレンを激励する。


「だから、俺の目的は違う」


 《騎士団》を倒すために向かうのだ。その理由を朧が自ら聞いてきたのに、この男はこれまでの話を何だと思って聞いていたのか。

 サレンの冷たい視線も意に欠かさず、


「そっ。じゃあ、僕のお願いって事で」


 よろしくねー、と気軽にお願いをするのであった。


「なんで俺が貴様の願いを!」


 文句を言おうとした所で朧の姿が消え、次第にサレンの意識も薄れていくのであった。

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