ぷわふわ浮いて、きらきらを見つめて 2
月曜日の三時間目の『数学』
勉強嫌いな俺が一番好きな時間。
「…で、この式に代入…て、次に…」
柔らかくて、体に染み込んでくる低い声に、
窓際の、前から3番目の席に座りながら、耳を澄ます。
左手で頬杖をついて、窓外の晴れやかな夏空を眺めながら、
(「…やっぱ、きれーなこえ。」)
なんて、わかりきったことを再認識する。
ちらり、と声の発生源を見やると、俺の想い人―数学教師の木田政義せんせーは、こちらに背を向けて黒板に数式をかきこんでいた。
きら、きら、と窓からの光が、生まれつきらしい金髪っぽい髪にあたり、優しく反射している。
教室内は涼しくても、7月下旬の太陽は地上を焼こうと試みて、廊下は異常な暑さだ。そんな中、几帳面に長袖のワイシャツにネクタイまでしめている先生は、マゾヒストなのではないのだろうか。
「だけど、そこがいいんだよなぁ」
ふい、と視線を窓の外に戻しながらぽつりと呟く。
木田先生は、どこか浮世離れしている。
なんというか、例えるなら漫画から出てきた王子や、『孤児の女の子を支えた紳士』みたいだ。
だから、
(「…安心して、好きになれる」)
無駄な期待を、しなくてすむから。
叶うかもしれないと、思えないから。
「×××××××××××」
ぽつり、と声を出さずに呟いた。
わーっ、と窓の外から歓声が聞こえた。
どうやら、体育で行われていたソフトボールの試合が、2組の吉川のホームランで終わったらしい。
キーンコーンカーンコーン
と、チャイムが鳴って、木田先生の声を掻き消した。
(「…次の授業は明日の五時間目。」)
休み時間の騒々しさの中、俺は机に突っ伏した。