私とお茶会と
本日3話目の更新です
舞踏会からあっと言う間に時が過ぎ、ついに学園への入学まで残り一ヶ月を切った。
舞踏会後はそこで知り合った方々の家への訪問で、随分と忙しい毎日を送っていた。
ドランバルド伯爵を始め、カルディナ伯爵、ダナス伯爵それからマエリア侯爵やダングレー侯爵家やフィリス侯爵家、ルドルフ侯爵家そしてテルローズ伯爵家等々……どこかのグループに偏ることなく、あの日ご挨拶をさせていただいた方々から招待いただいたので、その全てにお伺いをした。
実際回ってみると利害関係や力関係を目で見ることができて、また、各家の事業や財政の具合等々を噂話として聞くことができるので大変為になる。
勿論噂話については真偽の程が分からないので、話半分ぐらいにしか聞いていないけれども。
それはともかく、こうしてご婦人方は情報に敏感になるのだということを身を以って知ったのだった。
やはりお茶会やパーティーはそうした情報を得るためにも重要な場だ、とも。
……せっかく繋いだ縁を途切れさせないように、学園入学前にもう一度親交を深めた方々にお会いしておきたい、
そんな思惑から、今度は私の方から皆を一斉に招待して我が家で催し物を開こうと企画している。
ただ、催し物を企画することには非常に神経を使う。
各家の主催の催し物は、その主催者のセンスが最も問われる場。
つまらない会であれば席を立たれることもあるし、それが続いて『センスの無い人』という烙印を押されてしまうと、そもそも出席者すら集められなくなる始末。
……そのため、どのような会を開こうかと頭を悩ませているところだった。
舞踏会……この前別の家で行なっていた。
晩餐会……面白味に欠ける選択だが、それが一番無難で良いかもしれない。
そんなことを考えつつ、準備のために決めなければならないことを忘れないようにつらつらとメモをしていた。
メモ紙が切れて、何か書くものはないかと机を開けて中の紙切れを取り出す。
……開くと、連絡先が書かれていた。
それは、あのあの名も知らぬ街で助けたブリトニーという歌い手から受け取ったもの。
そう言えば彼女は今頃どうしているのだろうか……そんなことを考えていた時だった。
扉よりノック音がして、部屋にアンナが入室する。
そして手慣れた手つきでお茶を淹れると、私の机の端に置いた。
「ありがとう、アンナ。……そう言えば、ねえアンナ。貴女、ブリトニーという歌手を覚えているかしら?」
「はい、勿論。……そう言えば、メルリス様。この前街に買い物に出かけた際に、偶然彼女が所属する劇団を見かけましたよ」
「へえ……」
「確か、エトワール座という名前でした」
「エトワール座!」
思わず立ち上がって、叫んだ。
私のその反応に、アンナは目をパチクリとさせて驚いていた。
「有名な歌劇団よ!確か新作劇は、かなり評判が良いのよね」
王都でも一二を争う、有名な歌劇団……それがエトワール座だ。
新作劇については、あまりの人気っぷりに席が中々取れないとも聞いている。
「そうよ! そうじゃない! ……ブリトニーに、催し物に花を添えてもらえるか打診をしてみましょう。ありがとう、アンナ」
実は個人宅での催し物の場合、歌劇団を招いて一幕演じて貰うことや話題の音楽家を招いて演奏して貰うことがある。
同じような会ばかりだと皆飽きるので、どのようなイベントがあるのかと言うことも大事なポイントなのだ。
……私が純粋にエトワール座の歌劇が見たいということもあって、すぐさまブリトニー宛に手紙を書き始めた。
そうして全ての手配を進め、招待状を送り、準備を進めていく内にあっという間にパーティー当日がやってきた。
私はマダム・クレージュの服に身を包みお客様をお出迎えする。
流石に私一人がホストとなるのもどうかと考えたが、今回は淑女の会ということでアンダーソン侯爵家からは私だけが参加だ。
一応このお出迎えの挨拶だけと、お父様を引っ張り出して来ているが。
「ようこそ、カルディナ伯爵夫人」
早速現れた招待客に挨拶をする。
「まあ……ガゼル将軍、ご機嫌よう。……メルリス様、本日はお招きいただきまして誠にありがとうございます。私、早く着き過ぎてしまったかしら? 本日をとても楽しみにしていたので、つい……」
「いえ、そのようなことございませんわ。ご期待に沿えるかは分かりませんが、皆さまがお楽しみいただけるよう頑張りますわ」
「ふふ、ご謙遜を。……それにしても、凄いわね。まさか、エトワール座のブリトニーを招くなんて! 流石は、メルリス様」
ドランバルド伯爵夫人は興奮したように言っていた。
「偶々ですわ。私も、彼女の舞台をとても楽しみにしておりますの」
連絡を取り合って知ったのだが、ブリトニーが何とエトワール座の看板歌手だったのだ。
やはり呼ぶのは無理かな……と半ば諦めていたのだが、『アンダーソン侯爵家のお招きを受けることで、メル様のお役に立てるのであれば』と、意外なことに二つ返事でブリトニーは了承してくれたのだった。
そして迎えた今日、既にブリトニーはスタンバイしてくれている。
楽しみだなと自身でも彼女の歌に想いを馳せつつ、私はそれから引っ切り無しに来る招待客への挨拶を続けた。
そうして招待した皆が揃った頃、パーティーは始まった。
お父様より挨拶いただき、そのままホールでブリトニーの声に酔い痴れる。
話題の劇の一幕を彼女は熱演してくれたいた。
その細い身体のどこから声を出しているのかと聞きたくなるような、そんな圧倒的な声量と艶やかな声色。
そして何より情感たっぷりに歌い上げる様は、劇全体の一部しか見ていないと言うのに引き込まれて感情移入させられる。
彼女が歌いあげると、皆席を立って拍手を送っていた。
……彼女の歌のおかげで、この催し物の成功を確信する。後は、この後の茶会で私がどう立ち回れるか、だ。
そんなことを考えつつ、皆をサロンに案内する。
「先ほどのブリトニーの歌は圧巻の一言でしたわね」
その話題に、皆が我も我もと言葉を発する。
「ええ、ええ。本当に。私思わず涙ぐんでしまいましたわ」
「彼女、この劇が初めての主役らしいですわね。……堂に入っているので、とてもそうは思えませんが」
そうしてお茶を楽しみつつ、先ほどのブリトニーの歌で話題は盛り上がった。
「……そう言えば、今度メルリス様も学園に入学されるのですよね」
「ええ、そうですわ。ですので、中々皆様にもお目にかかれないかもしれません」
「まあ……それは残念ね」
「そう言っていただけて、何よりですわ」
「学園と言えば、今年はエドガー王子も入学ですわね」
「ええ、そうですわね。……ですので今年は皆さま学園の動向に興味深々ですわ」
「特にエドガー王子は婚約されている方がいらっしゃらないですから……自分が見染められるのではないかと、胸をときめかせているのだとか」
「まあ、そうなのですか。私、存じ上げませんでしたわ」
私はあえて戯けたように、相槌を打つ。
「無理もありませんわ。メルリス様にはステキな婚約者がいらっしゃいますもの」
「そうですわね。ルイ様が婚約者だなんて、私が若ければ羨ましくて仕方ないと思ったでしょう」
「まあ……」
ほほほ、と皆が笑い合う。
そんな感じで終始和やかに会話が繰り広げられ、帰る頃には皆満足そうな笑みを浮かべていた。
こうして私が初めて主催者となったお茶会は、成功したのだった。




