私の軌跡 肆
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、これまでの部分についても細かいところを変えています。大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。(12月3日更新三話目です)
※ダイジェスト化は、ございません。
何度もボロボロになりながら、それでも必至に剣を振るい続けた。
そうしてお父様から五本に一本取れるようになった頃。
「……よし。明日から護衛隊の訓練に参加しろ」
「……はあ」
突然のお父様の指示に、私はつい気の抜けた返事をしてしまった。
アンダーソン侯爵家私兵……別名、護衛隊。
武の誉れ高きアンダーソン侯爵家当主に付き随う、戦士。
そもそもで、アンダーソン侯爵家の歴代男子はその名に恥じぬよう、己の武を磨き続けてきた。
彼らに付き従うため、護衛隊の面々もそれなりの練度が求められる。
当然、その実力は他の領の私兵のそれよりも圧倒的に強い。
それ故アンダーソン侯爵家の護衛隊の門は狭く、入れた後も日夜訓練を欠かさない。
それでも……否、だからか。
彼らは己の武と、そしてその護衛隊に所属していることを、誇りにしているのだ。
アンダーソン侯爵家男子と彼らが訓練をするために、アンダーソン侯爵家本邸には、それはそれは広い訓練場がある。
……これは余談だが、身体が鈍ると仰ってお父様の代になって王都の屋敷にも中庭を潰して訓練場ができた。
それはさておき、その訓練に私が参加する?
……楽しみで仕方がない。
今までの訓練の相手は、お兄様かお父様だった。
それはそれで良かったけれども、やはり色んな人と戦ってみたい。
何より、自分の力を試したい。
きっと様々な人がいて、その経験は私の血肉となって……また、強くなれる。
そう考えたら、楽しみに思うのも仕方のないことだ。
私のその表情に、言い出したお父様が苦笑いを浮かべていた。
そうして、その翌日。
私は意気揚々と訓練場に向かった。
到着すると、周りは私よりも一回りも二回りも大きい男たち。
当然、目立つ。
「……おい、なんであんな子どもがここに?」
「さ、さあ。おい、お前声かけてこいよ」
「え、嫌だよ。俺、すぐに子どもに泣かれちまうし」
……確かに人相が悪いと言ったら言い方が悪いが……まあ、でも普通に子どもが見たらその雰囲気も相成って怖いでしょうよと、私は最後に言葉を発した人に向かって心の中で呟く。
「お嬢ちゃん、どうしてここに?ここは、危ないから、早く出て行った方が良い」
「……初めまして。メルと申します。本日よりここの訓練に参加することになりました。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
始めが肝心だと、私はしっかりと挨拶をした。
名乗った名前が本名でも普段呼ばれる愛称でもないのは、お父様の指示だ。
流石に侯爵家の令嬢が参加するのは、憚られるということで。
けれども私のその言葉に、ますます護衛隊の隊員たちからは微妙な雰囲気が漂う。
「……皆、気をつけ!」
そのタイミングで、隊員の一人が声を張り上げた。
ビリビリと鼓膜が痺れるような声に、私は一瞬呆ける。
隊員たちは慣れたもので、その声に反応してすぐさま隊列を成し、そしてピンと背筋を伸ばした美しい姿勢で立っていた。
「当主様が、起こしだ」
準備が整って、お父様が現れる。
チラリと隊員たちの顔を見れば、まるで私と同世代の男の子のようにその瞳をキラキラと輝かせている。
「皆、本日も元気そうでなによりだ」
そう言って、お父様は豪快に笑った。
けれども次の瞬間にはその笑みを引っ込めて、厳しい表情を浮かべる。
「……さて、先程自ら自己紹介していたようだが、そこのメルが本日より訓練に参加する。ここに来る前に、儂がある程度鍛えた故に遠慮はいらん。皆の強さをその身に叩き込んでやれ」
その低い声に、私は一瞬ぶるりと身体が震えた。
……怖い? いいや、違う。
これは、武者震いだ。
お父様の本気が、私に伝わってきて。
そして、これから先の訓練が、戦いが楽しみすぎて。
「……よろしくお願いします!」
私がそう腹の底から声を出して言えば、お父様は僅かに笑っていた。
「では、訓練を開始する!」




