戦の覚悟
本日8話目の投稿です
お兄様を、襲う集団が突如として現れたのだ。
一旦、身を隠して様子を伺う。
……一体、奴らは何者だ?
野盗にしては、装備している物が実用的過ぎる。
貴族を狙ったそれというよりも、そもそもアンダーソン侯爵家そのものを狙って襲っているのではないかという懸念が浮かんだ。
国軍と護衛隊は各々連携を取りながら闘っているが……その連携は遠目から見て拙い。
けれどもそれも仕方のないことだ……何せ、属する集団が違うのだから。
ただそのせいで、彼ら個々の技量が活かしきれていない。
普段の訓練を見て彼らの技量を知っているから、余計にそう思うのかもしれないが。
敵は数に物を言わせて、お兄様に徐々に迫っていた。
その光景に、私は手綱を操り馬の走るスピードを上げた。
同時に、沸々と私の中で怒りが燃え上がる。
よくも、お兄様を狙ったな……と。
「……メル!?」
交戦していたシュレーさんが、一番に私の存在に気がつく。
「護衛隊!パークス様を守れ!」
そう言いつつ、敵の一人を屠った。
「……っ!? 恩に着る!」
すぐさまシュレーさんは、護衛隊を引き連れお兄様の守りを固める。
そうして、後ろからお兄様を狙っていた敵たちと交戦し始めた。
……間に合った。
ホッと、安堵の息を短く吐く。
そして私は、目の前の敵たちを見定めた。
突如乱入してきた私という存在に、目の前の敵たちはどうやら困惑しているようだ。
けれども、すぐに彼らは薄ら笑いを浮かべる。
「お前のようなガキが来るところじゃねえ!引っ込んでいろ!」
そう喚きつつ近づいてきた一人の敵を、私は一刀のもと首を刈った。
私の中の血が沸騰するかのように、熱を持ち出した。
けれどもそれに対して、頭は冷水を浴びたかのようにクリアだ。
まるで頭も体も、私を構成する全てが戦いのみに集中するために、構築し直されているかのようだった。
「……ガキの私に殺られるとは、ガキ以下ということだ」
淡々と、私はそれを見下ろして呟く。
先ほどの奇襲のような形ではなく真正面から私が敵をねじ伏せたことで、時が止まったかのように静まり返った。
「軽いな……。覚悟や信念のないお前たちの剣は、軽過ぎる」
そんな最中、私は言葉を続ける。
「はっ、覚悟?信念?そんなものが、何になる!?」
続いて、数人が一斉に私に挑んできた。
けれどもその状況とは裏腹に、心は落ち着き感覚が研ぎ澄まされる。
「ガゼル将軍に鍛えられたた兵どもよ、こいつらに刻みつけてみせろ!信念の伴った、本当の強さを!本物の戦いというやつを!」
後ろにいる、国軍に向けて叫んだ。
ドッと、後ろから雄叫びが聞こえだす。
「私について来い!」
そう言いつつ、敵に向かって私は前へと進む。
彼らは私の後に続いて馬を走らせていた。
それを目の端で確認しつつ、敵の集団に突っ込んだ。
そしてすれ違いざま、一人一人と次々と屠って行く。
狙いは、敵の集団の奥にいる司令官らしき人物だ。
彼が司令官なのを何故わかるかと問われれば……それは、勘としかいいようがない。
どんどん奥に進み、そんな私を狙う敵を味方が迎撃する。
そうしてどんどん進み、続けた。
「……貴様ら、アンダーソン侯爵家を狙って、生きて帰れると思うな!」
手近にいた敵全てを斬りつけたところで、そう怒りをぶつけるように叫んだ。
ビリリ、と空気が震えたような気がする。
敵がそれにたじろいでいる間にも、私は馬を駆けさせる。
そうして、司令官を屠った。
……その瞬間、敵方に動揺が走ったのが見て取れる。
「一人、必殺!」
そう叫びつつ、私は手近の者を屠る。
一人一人、目の前に立ち塞がる敵を『必ず殺せ』……その指示通り、皆は私の後に続いて敵を屠っていた。
予想通り、一気に敵方は烏合の集と成り果てている。
ここからの掃討戦は、そこまで厳しいものではないだろう。
骨肉を裂く生々しい音と共に、懐かしい鉄の臭いが鼻をかすめた。
私を含む国軍の兵士たちも次々と敵を屠りつつ、彼らを取り囲むようにしてできた円を徐々に小さくしていった。
そうして残るは、片手で数えられる人数のみとなっていた。
「……ヒッ」
数人は、震えながら私を見上げていた。
疾うに馬から引きずり降ろされ、私を見上げるように腰を抜かしている。
いつかと同じ光景に、私は場違いにも笑った。
「本当に、脆い覚悟だな」
「覚悟、覚悟って……一体なんだよ!?」
敵は虚勢を張るように、私に叫び返す。
「殺す覚悟と、殺される覚悟だ」
それに、私は淡々と応えた。
その言葉に、敵だけではなく味方までもが驚いているようだった。
「……殺される覚悟?」
「別に、死の願望がある訳じゃない」
国軍の一人に問われ、私は苦笑いを浮かべてそう弁明する。
「戦いに出れば、絶対などない。どんなに身体を鍛えようが、どんなに技を磨こうが……敗れ、死ぬときは死ぬ」
それは、お父様から小さい頃からずっと言い聞かされていた言葉だった。
私が幼い頃から朧げながら死を理解する元となった、それ。
「何故なら、戦場に強者など存在しないのだから。あるのは、どのようにして敵を倒すか……それを突き詰め、突き詰めた者かそうではない者か。それだけなのだから」
私は敵の一人に目線を合わせるように、しゃがみ込む。
「お前たちはその覚悟がなかった。だから自分たちが不利になった途端、ああも簡単に崩れ出したんだ。本当にその覚悟を持っているのであれば……そもそもその可能性に恐れ、安易な行動などせずにもっと考えて動いていた筈だ」
「……メル。お前は、何故そんな覚悟を持つに至った?」
上から、クロイツさんの問いかける声が降ってきた。
その真剣な声は、むしろこの場の空気も相まって恐ろしく響く。
「始めから。剣を持つ時には、その覚悟はあった」
お父様に言い聞かされていたというのもあったけれども。
当時は何より、復讐を叶えた先を見ていなかったからだ。
とはいえ、復讐という目的が叶えば道連れでも良いというその考えは死ぬ覚悟というよりは死の願望に近かった。
「……けど、うん。今はただ、その恐れ以上に貫きたい信念があるから。だから、私は覚悟を持ち続けていられる」
誰にも私のような思いをさせたくない……そのために、命を賭けることは厭わない。
そしてそれと同時に、私を大切に思ってくれている人のために、私は何があっても生き残らなければならない……だからこそ、死を恐れる。
死ぬことを恐れ、だからこそ死ぬことを覚悟する。そんな相反するものが、私の言う死ぬ覚悟なのだ。
「……そうか」
「話が長くなったけど、誰か!こいつらを縛れ!国軍は、それを連行! 護衛隊たちはパークス様をこのまま護衛し、無事にアンダーソン侯爵家までお連れしろ!」
戦いが終わってから少し時間が経っていたものの、未だ気持ちを切り替えることができずに、ついつい荒い言葉遣いで指示を出した。
けれども国軍の面々はキビキビとした動きで、私の指示通りに動きだす。
……というか今更だけど、よく戦っている時に国軍の皆は私の指示に従ってくれたな。
対外的には侯爵家と関係ないただの護衛兼影武者という立ち位置だし、そもそも侯爵家令嬢だとしても、国軍に所属していない私の指示に従う謂れはないというのに。
「……ま、良いか」
「……何か言ったか?メル」
「いいえ、何も。それじゃ、そいつらのことをよろしく!」
そうして私は結局、お兄様と共に久しぶりの領地に足を踏み入れた。




