食事会
本日6話目の投稿です
……そんな訳でやって来た街。
ちょうど出かける前にお父様が帰って来たので、シュレーさんクロイツさんは各々お父様に報告をして、私もこれからシュレーさんたちと出かける旨を伝えた。
『まあ……シュレーとクロイツの目があれば、お前も変な真似をしないだろう』と、無事了承をいただけたから良かったのだけれども……。
それにしてもお父様の心配する点が、何か騒動を『私が』引き起こさないかとは如何なものだろうかと、思わず言いそうになった。
とはいえ、何分前科があるので口を噤んだ。
鳴かぬ雉は撃たれまい。私は賢い雉となることを選んだのだ。
それはさておき、夜ながら人で賑わう繁華街。
あちらこちらの店で、多くの人が飲み食いをしている。
私たちはその中でも比較的落ち着いた、少し高そうなお店の中に入った。
実はここに来るのは二度目。前はクロイツさん達に連れられて来た。
「おや、シュレーさん。久しぶりじゃないか。暫く王都に?」
席に着いた途端、奥から一人の女性がやってきてシュレーさんに挨拶をする。
この店の店主であるマダム・カリュイだ。
「さあなあ。正直分からん」
「はっは。まあ、仕事があるってことは良いことさ。一生懸命仕事をして、そんで稼いでここでのんびり羽休めしてちょうだいな」
「ちゃんとちょくちょく来ているだろう、マダム」
シュレーさんは苦笑いを浮かべつつ応える。
そんな反応に、マダムは艶やかな笑みを浮かべていた。
私はそんな二人のやり取りから視線を外して、店内を見る。
店内には、美しく着飾った女性たちが場を彩っていた。
今日もなかなか繁盛しているようだ。
「あら……!今日はメルちゃんも一緒なのね」
「ご無沙汰しています、マダム」
「まあ……相変わらず、何て礼儀の正しい子!それに、本当に可愛らしいわねえ」
マダムがキラキラと輝く目で私を見つめ、頭を撫でてくれる。
前回来た時に、何故かマダムに気に入ってもらえたらしい。
こんな綺麗な人に純粋な好意を向けられて、とても良い気分だ。
……前後左右の面々からの視線がチクチクと刺さる心地がするが、気にしない。
「今日はメルちゃん、何を飲む?メルちゃんのために、色んな種類の果実を仕入れておいたよ」
「本当ですか?……ありがとうございます、マダム」
「さっ、一緒に席まで行きましょうね」
マダムに手を引かれて、席まで歩く。
マダムとの会話に夢中になっていて、私はそのとき気づかなかった。
「……なあ、クロイツ。何でマダムとメルはあんなに親しいんだ?」
「何でも……マダムがひったくりにあったときに、盗られた荷物を奪い返したのがメルだったらしいんだ。颯爽と現れ、犯人の行く手を阻み、それで激昂した奴らを見事に成敗。見返りを求めず、オマケに帰りはそのまま護衛までしたらしい。あの可愛さに、男よりも男らしい言動で惚れるわ!っていうのがマダムの言葉だ。ちなみにメル本人は、そのことをすっかり忘れていたらしいが」
「百戦錬磨のマダムを骨抜きに……末恐ろしいな」
「ああ。本当に、色んな意味でな」
……後ろで、そんな会話が繰り広げられていたことを。
席につくと、何人かの女の人たちが共に席に座った。
私の横にはマダムがいて、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
皆は会話を楽しみつつ、共にいる女の人たちが更にその会話を膨らまして花を添えていた。
「この果汁、美味しいです。マダム、ありがとうございます」
「メルちゃんにお礼を言って貰えるなんて嬉しいねえ。準備しておいた甲斐があるってもんさ」
マダムの笑顔が、眩しい。
席にいた女の人たちにとってマダムのその笑顔は珍しいものなのか、目をパチクリとさせてマダムを見ていた。
「マダム、本当にメルちゃんが好きね。そういえば、前回クロイツさんたちと共に来ていたし、今回はシュレーさんたちとも来ているし……メルちゃんと皆は一体どういう繋がりなのかしら?」
その中の一人の女性が、そう問いかけてくる。
「こいつは、俺たちと一緒に訓練しているんだ」
それに対して答えたのは、クロイツさんだった。
「ええっ!?この歳で?皆さん、お強いんでしょう?……なのに、一緒に訓練をできるの?」
「ああ、そりゃあな。でなきゃ俺たちとココに来てねえよ」
更なる言及に、クロイツさんは苦笑いを浮かべている。
否……クロイツさんだけじゃない。
この場にいる誰もが同じ表情を浮かべていた。
「でも、相当厳しい訓練だと聞いているけれども……メルちゃん、大丈夫なの?」
「私はシュレーさんたちと同じく護衛の役目をいただいています。主のために強くならねばならないので」
一応、表の設定を伝えておく。
私の説明に、更に驚くやら納得するやら……皆の反応はとても面白かった。
これで本当の身分を言ったらどうなるのだろうかと、少し気になる。
……まあ、言うことはないけど。
「そっかあ……こんなに小さいのに、頑張っているのね」
「いえ、そんなこと……」
少し照れくさくて、顔に熱が集まったかのような心地がした。
「……。実はねえ、私には妹がいてね。多分、ちょうどメルちゃんと同じ年ぐらいだと思うのよね」
「へえ……妹さんですか。お姉さんの妹さんなら、きっと可愛いんでしょうね」
実際、目の前にいる彼女は淡い金色のストレートの髪が特徴的な、嫋やかな美しい人だ。
「まあ、メルちゃんったら」
私の言葉に、彼女はクスクスと笑う。
……うん、やっぱり綺麗だ。
シュレーさんの隣にいる男の人……ドゥーラさんが、彼女を見て頰を赤らめているのが良い証拠だ。
ふと、自分の姿に目がいく。
……女の子らしさなんて皆無のこの身なり。
クロイツさんたちやシュレーさんたちからは、男よりも男らしいと言われる始末。
別にそれに不満もないし、今まで気にもしていなかったけれども……こうして綺麗な方たちに囲まれていると、やっぱり気になるものだ。
「どうしたの、メルちゃん」
表情に出ていたのかそれとも彼女が鋭いのか、彼女はそう問う。
「皆さんが、綺麗だなっと思って」
「ふふふ……ありがとう。でも、メルちゃんも十分可愛らしいわよ?」
「……そう、でしょうか」
「そうよ?焦らなくても、女の子はなりたい自分になれるの。メルちゃんが望むのであればもう少し大きくなったら、きっと誰もが振り返るような美人さんになるわ」
誰もが振り返る……というのは正直想像がつかないけれども、彼女の言葉に慰められた。
「メルちゃん。何か相談があったら、いつでも言ってね。……メルちゃんの周りにはメルちゃんの味方になってくれる人がたくさんいるのかもしれないけれども、やっぱり同性に聞きたいことというのも、きっとこれからたくさん出てくると思うの」
「ありがとうございます。ええっと……」
「私の名前はルルリアというの」
「ルルリアさん。これからもよろしくお願いします」
その夜はルルリアさんを始め、マダムのお店のお姉さまたちと仲良くなりつつ楽しいひと時を過ごし、店を出た。




