私の誓い
本日8話目の投稿です
私は今まで……自分がこの世で最も不幸だと思い上がっていたのだ、と。
大切な人を奪われた、それは確かに不幸でこの世を呪うには十分な動機だろう。
けれども、私以外にもそんな人がいるなんて……思い浮かばなかった。
身近に、いたのに。
お兄様やお父様だとて……大切な人を喪った人たちなのだ。
それなのに、私は……彼らの気持ちなんて、考えなかった。
ただただこの世の理不尽を呪い、自らの無力さを恥じ、そしてお母様が亡くなる契機となった自分の存在を疎んでいたのだ。
復讐だけに目を向け、同時に私はそこを自分の終着点に見据えていたのだ。
『私は……今この手にある大切なモノから目を背けて、それで後から後悔したくない』
同じ苦しみを味わったお兄様は、私のためにそんな優しい願いをしてくれていたというのに。
その翌日、私は訓練を終えると塔に向かった。
夕暮れ時の景色は、どこか寂しくてけれどもそれ故に温かい。
『あそこにいる彼には大切な人たちがいて、その人たちにも大切な人がいる。あっちの者も、あっちにいる者も同じ。……そうして、たくさんの人が集まって国ができる。彼ら一人一人の話に耳を傾けることは難しいが、彼ら一人一人が安心して暮らせるような国を守っていきたい。この日常の風景を壊さないように、自分の頭を役立てたい。犠牲になった方々への敬意を忘れず、意志を継ぎたい。そう、思った』
思い出すのは、やっぱりルイの言葉。
たくさんの人たちだが、街を行き交う。
名前も知らない、私にとってはただの有象無象の存在。
守りたい、そんな気持ちは事ここに来ても全く思わない。
……けれども。
あの絶望を、味わなければ良いと思う。
あんな苦しみを、味わって欲しくないと。
……私がそれを、知っているからこそ。
眼下にいる見も知らない人の、その大切な人たち。
その大切な人たちには、更に別の大切な人たちがいて。
親兄弟、友人、恋人……関係性は何だって良い。
喪うと心がポッカリと穴が空くような、そんな大切な人たちが彼らにもいる。
もしかしたら、辿れば私の知っている人たちがどこかで繋がっているかもしれなくて。
……ううん、きっと、どこかで繋がる。
この街が……世界がどれだけ広くとも、人と人との繋がりは、まるでそうして蜘蛛の糸のように複雑に絡み合って形成されているのだろうから。
つまり顔の知らない誰かだとしても、それはもしかしたら私と関わり合いのある人たちの大切な人かもしれないということだ。
思い浮かぶのは、お父様やお兄様、アンダーソン侯爵家で働く使用人たちや護衛隊の隊員たち、そして国軍の人たちや……それからルイ。
彼らが、あの時の私のような苦しみを味わうことを、私は許せるか。
あの笑顔が曇る姿を見ることに耐えられるだろうか。
……私は、そう自身の心に問いかける。
答えは、否だ。
幸せであって、欲しいと願う。
生きて、生きて……できれば、笑って。
そうであって欲しいと、思う。
そのために、私は私の剣を握ることができるというのであれば……それは、とても意味のあることじゃないだろうか。
守るなんて、崇高な思い……私には、分からない。
けれども、私は……私のために。
誰かが……私の周りにいる人たちが、私のような苦しみを味わうことがないように。
私は私の積み上げてきた剣の腕を、振るおう。
そう、心に決めた。




