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武家の嗜み  作者: 澪亜
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英雄の軌跡 弐

問題だったのは、侯爵家の方だ。

結局勘当はなかったが、廃嫡され次男へと侯爵家は継承されることとなった。


父は地位に固辞していなかったため、それもすんなりと受け入れたらしいけれども。


お祖父様の判断は、正しい。


国軍に所属していれば、いつその命が散るか分からないのだから。

それに幾ら武門の家とはいえ、騎士団ではなく国軍に入軍した父を後継者としておくのは他の貴族たちに対して外聞が悪い。


……ただそれは、お父様ほどの力がなければの話だった。


お父様は旧セズン領の奪還を僅か一部隊で成し遂げ、後についてきた別部隊に守護を任せるとそのまま東へ。


押されていたモンロー伯爵領私兵とそちらに派遣されていた国軍と合流し、これを撃退するという偉業を成し遂げた。


刈り取った敵将の首は数知れず。

築いた武功は、英雄と讃えられるに然るものだった。


国軍内では勿論、貴族ながら戦地で挙げた武功と元来の将としてのカリスマ性から、騎士団ですら父は憧れの的となった……とは伝え聞いた話だ。

さて、そんなお父様を武門の一門であるアンダーソン侯爵家が立てない訳にはいかず。


お父様は再び次期領主として立つこととなった。

そこで一悶着があるかと思えば、英雄の名は重く、すんなりと受け入れられたらしい。



逆に大変だったのが、お母様との婚姻だったらしい。


お母様は、男爵家の娘。


知り合った経緯は教えてくれなかったが、大恋愛の末に結婚する約束を交わしたらしい。


廃嫡されていたままなら問題なかったのであろうが、稀代の英雄にして侯爵家の次期当主。


家格が、釣り合わない。

英雄の名の重さが、そこでは逆に働いてしまった。

国中から、お父様との婚姻による繋がりを求める貴族の家は数知れず。

アンダーソン侯爵家の中でも、随分反対の声が上がったそうだ。


結局、お父様の『メリルダと結婚できないのであれば、国軍を辞す』という鶴の一声で騒ぎは治ったらしい。


今となっては、お父様がどれだけお母様に惚れていたのかが分かる、心温まるというかこそばゆいエピソードだ。


そんな大恋愛の末に結ばれた二人だ……当然お兄様が生まれても私が生まれても、お兄様と私が目を背けてしまいたくなるほど二人はラブラブだった。



あの無骨なお父様が、お母様の前だけでは可愛らしくなるのだ……軍内でのお父様との違いに、我が家にきたお父様の腹心の部下であるメッシー男爵が明後日の方を見るほどだった。



お母様は、本当に素敵な女性だった。

穏やかで、優しくて。

侯爵家に嫁いで苦労も多かっただろうに、いつも柔らかな笑顔を浮かべていて。

それでいて、流石お父様の妻を務めているだけあって、肝が座っていて。


返り血とはいえ血だらけのお父様を見て怪我がないと知ると、「あらあら、まあ。すぐにお湯の支度を」と笑って受け入れてしまったのだ。

あれには、お兄様も私も驚いた。


いやいや、お父様も軍の施設で返り血を落としてくれば良かったのに……というのはお兄様と私のツッコミだ。


結婚記念日だったその日、お母様と過ごしたいからとお父様は休暇を取っていた。


けれども国軍の面々に泣きつかれ、仕方なく出て……任務が終わったら即帰るべく報告を部下に任せて直帰したらしいのだけど……どこの世界に、結婚記念日に血だらけで帰ってくる夫がいるというのか。


まあ、それが我が家の当たり前だったのだが。


お父様がいて、お母様がいて、お兄様がいて……とても幸せな家だった。



……あの日までは。


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