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武家の嗜み  作者: 澪亜
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本日3話目の投稿です

そうして、寝ずに迎えた翌日。


結局考えが纏まらず、私はいつもと同じように訓練場で剣を振るっていた。


どれだけ考えても、分からなかった。

私の才を惜しむと言った、ルイの心が。

私の幸せを願うと言った、お兄様の心が。


私の才は、私の復讐相手を切り裂くために磨いたもの。

私の幸せは、復讐が叶うこと。

何度考えても、私にはそれ以外なかった。


私たち家族はお母様を失って、皆、心の一部が凍っているのだと思っていた。

けれども、そうじゃない。

私の心こそが凍っていたのだ。

否……凍っているという表現すら、生温いのかもしれない。


もしも心に形があるのだとしたら、私のそれはきっと壊れて、ボロボロで、歪な形だろう。

今だとて、私の視界は真っ赤に染まっているのだから。


剣を振りながらそんな余計なことを考えていたことに気づき、気持ちを切り替える。

難しいことを考えるのは、よそう。

今この時は、剣を磨くことそれのみに集中すべきなのだから。


ああ、心が踊る。楽しい。

楽しくて仕方ない。


目に映る赤に、仄暗い喜びを感じる。

訓練が終わり、私は周りを見回した。

今日はいつもよりも、人が少ない。


クロイツさんも、今日はいなかった。

……何か、あったのかしら?

そんな疑問が浮かぶ。

けれどもクロイツさんもいない以上、聞ける人がいない。


それ以前に何かあったとしても、一般市民の私には何も教えてくれないだろう。

諦めにも似た気持ちで、私は片付けると屋敷に戻った。

屋敷に入ると、お兄様が珍しくバタバタと私のもとへと走って来た。


「メリー………!」


「どうかなさいましたか?」


「今、知らせが………」


お兄様の様子に、ただごとならぬ出来事が起きたのだろうと覚悟を決める。


「……母上を襲った野盗たちを、父上が討伐したと……」


その瞬間、目の前が真っ暗になった。

シンと、世界が一瞬止まったような心地すらする。


「……それは、本当のことですか?」


「ああ、間違いない。国軍の面々に探りを入れた」


「……そう、ですか……」


ふらりと足取りが覚束ないながら、お兄様に言葉を返して歩き出す。


「お、おい……!メリー!」


そんな私を引き止めるように、お兄様が名を呼んだ。


「……部屋に、戻ります」


けれども私は拒絶するようにそう言うと、部屋へと戻った。

……正直なところ、それからどうやって部屋に戻ったのか……分からない。


分からないけれども、気がついたら私は自室にいた。

ぼんやりと、窓から外の景色を見る。

いつの間にか陽は沈み、空は夜の帳に覆われていた。


静かだった。

まるで、この世には私だけしかいないと錯覚してしまいそうになるほどに。


ツウ、と頬に雫が伝う。

……これは、嬉し涙? それとも……。

少なくとも間違いなく私の目的は、達成された。

お母様を襲った野盗たちは、お父様に討伐されたのだから。

お母様を奪った者たちなのだから、お父様もきっと容赦しなかった筈だ。

見事に、地獄に叩き落としてくれたのだろう。

だから、復讐は叶った。


……それは、素直に嬉しい。嬉しいのだけれども……けれども、素直に喜べない。

むしろ、ポッカリと心に穴が開いたような心地がした。


……自分で、決着をつけたかった。

それが、ただの我がままだということは分かっている。


けれどもそれでも己の手で、磨いた技で、今まで培ってきたもの全てを使って決着をつけたかったのだ。


だって私はそのために剣を取り……そのために剣の腕を磨いて。

そのためだけに、生きてきたのだから。



悔しかった。

そして、惨めだった。


私の目的は達した。

……じゃあ、私はどうすれば良い?

この喪失感を抱えて、生きる目的も意味も見出せなくて。


それで私は、どう生きていけば良いの?

心が、空と同じ色に染まる。

私は、その日一日中泣いた。

お母様を失った、あの日のように。


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