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武家の嗜み  作者: 澪亜
25/144

先輩の質問

内容を第6部より場面を追加しております。

また、それまでの部分につきましても細かな部分を編集しております。(12/3編集)

大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。

※ダイジェスト化はありません。

(1/8更新2話目)

「お、早いじゃねえか」


「おはようございます、クロイツさん」


私に声をかけてくれたのは、クロイツさん。

面倒見の良い方で、何かと気にかけてくださっている。

お父様の右腕で、強い。

ガタイの良い体つきで、少し厳つい顔だけれども、気さくで優しい方だ。


「ん、良い目だ。昨日は随分酷い顔をしていたが、この分じゃあ今日は大丈夫そうだな」


「……ご心配をおかけしてしまって、申し訳ありません」


「こっちが勝手に心配したってだけだ。気にすんな」


ポンポン、と彼は私の頭を撫でる。

その仕草はとても自然で、大きな手はとても温かく感じた。


それから間も無くして、基礎訓練が始まった。

基礎訓練は、単純に準備運動として身体をほぐしたり体力向上のために動いたりすることだ。

騎士様たちはこの運動は基本的に不参加なので、集まっている人は少ない。


訓練の内容を言い渡された最初の頃、同じ内容なのに私は全くこなすことができなかった。

それでも喰らいついて、今では当たり前のようにできる。


昨日よりも、今日。

今日よりも、明日。

一つ一つ、身につけてきた。

一つ一つ、できなかったことをできるようにしてきた。

それはつまり、今までの時は決して無駄ではなかったということ。


……なんて前向きに考えられるのは、きっと昨日出会った、あのルイという少年のおかげだろう。

基礎訓練が終わると、そのまま模擬戦が始まった。


ここから騎士様たちは参加するのだが、今日はドナルティの姿が見当たらない。

……まあ、良い。いずれ、彼とはここで相見えることがあるだろう。

その時までに、私は成長していれば良いだけの話だ。


今よりも、もっと。

そんなことを考えつつ、自分の心が躍っていることに気がついて苦笑した。


……どこまで成長すれば、あの男を地につけることができる?

……その先に、私はどれだけ強くなっている?


考えれば考えるほど、心が躍る。

そんな楽しい気持ちのまま、名前を呼ばれたので闘技場に登った。


そこから、模擬戦が始まる。

身体が、軽い。

思考が、とてもクリアだ。

自分の思った通りに、身体が動く。

それは、いつかの野盗騒ぎの時のような。


「勝者、メル!」


気がついた時には、審判の声が響いていた。

思ったよりも早く終わってしまい、少し物足りなさを感じつつも剣を収めて闘技場から降りた。


「よう、嬢ちゃん」


汗を拭いつつ歩いていると、通りがけクロイツさんが声をかけてくれた。


「……今日は、すごかったな」


「ありがとうございます。クロイツさんにそう言っていただけると嬉しいです」


私は笑顔で礼を言った。

けれども、クロイツさんは眉間に皺を寄せて厳しい顔をしている。

私と彼の温度差がすごい、と思わず苦笑してしまいそうになった。


「よせよ。……顔見て大丈夫だとは思っていたが、今日の剣筋は冴え渡っていたな。いや、あれは冴え渡っていたというより……」


そう言っているうちに、クロイツさんの表情が段々と真剣に厳しいそれになっていく。


「……なあ、嬢ちゃん。一つ聞いても良いか? 嬢ちゃんにとっては答え難いかもしれないが」


「お答えできることと、できないことがありますが」

「嬢ちゃんは、どうして剣を取った?」


「……私、クロイツさんの剣を盗ったことはないですけど?」


「その『とった』じゃない! どうして、剣を学ぶことを決めたんだ?」


何故、そんなことを聞くのだろうか。

そんな疑問が湧いたけれども、特段答え難い質問という訳ではない。


「……母を、殺されたからです」


だから、淡々と事実を答えた。

聞かれたから答えたというだけなのに、何故かクロイツさんは、驚いたような表情を一瞬浮かべていた。


「何か、おかしなことを言いましたか?」


「いや……」


 一瞬、言葉に詰まるかのように間があいた。


「嬢ちゃんみたいな小さな女の子が、どうして剣を取ったのか聞いてみたかったんだ。……悪かった」


「クロイツさんが責任を感じる必要は、ありませんよ」


私はあえて軽い調子で言葉を発する。


「いいや、そうはいかないんだ。国軍のくせに、国の民を守れなかったっていうことを突きつけられるとな。嬢ちゃんがそう言ってくれても、自分で自分が許せない。……自分が全てを守ることは現実問題、できないと分かっていても。……悪かったな、引き止めてしまって」


 ちょうどお父様の集合という声が聞こえてきた。どうやら、模擬戦も一通り終わったらしい。


「いいえ」



そして私とクロイツさんはお父様の方へと向かった。


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