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武家の嗜み  作者: 澪亜
20/144

私の挫折

内容を第6部より場面を追加しております。

また、それまでの部分につきましても細かな部分を編集しております。(12/3編集)

大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。

※ダイジェスト化はありません。

カンカン……と、剣を撃ち合う音が響く。


「そこまで!勝者、ダス!」


審判が、高らかに相手の名を呼んだ。

私は溜息を吐きつつ模擬戦用の剣を収めると、闘技場から離れる。


いつもの練習メニュー。

けれども、目に映る光景はいつものそれじゃない。

ここは、王都のアンダーソン侯爵家別邸。

あの野盗騒ぎの後、私は密かにこの王都の別邸に来ていた。


……何故か、私は護衛兼影武者の設定のまま。


本物の私は、野盗騒ぎのショックが大き過ぎて倒れ、アンダーソン侯爵領の片田舎で療養中ということになっているらしい。

……まあ、貴族の子女である私が大手を振って剣を振るっているのも問題なのだろう。


まあ、それは別に良い。

王都では、護衛隊だけでなく国軍や騎士団の面々もお父様の訓練に参加するから、相手のバリエーションが増えるのだから。

中々新たな発見があって、楽しい。


お嬢様……じゃなかった、本来の私の部屋が使えずに客室に滞在しなければならなくても。

おかげで、身の回りのことは基本自分でやる習慣がついた。

……何だか、ますます侯爵令嬢から程遠い生活を送っているような気もするが。


それはともかく、お父様の真意が分からない。

……このタイミングで、何故王都に来させたのか。


分からないといえば、お父様の様子もだ。

何故か知らないけれども、私の野盗騒ぎがあってから、お父様は生き生きとされているような気がする。


肩の力が抜けて、本来のお父様に戻ったような……。

まあ……変わったと言っても、何だか良い方に向かっているような気がするから良いのだけど。

声をあげて部下の方々と笑いあうところを、久しぶりに見た。


それに、変わったのはお父様だけではない。

私も、だ。


あの日あの時、私は初めて戦った。

今のような、模擬戦じゃない。


人の生き死にがかかった、本当の戦い。

私は、あの瞬間瞬間を決して忘れないだろう。

しばらくご飯が食べられなかった。

ふいに苦しくなって、眠れない夜もたくさんあった。


けれども、あの瞬間ほど自らの生を実感したことはない。

血が沸騰しそうなほど熱くなって、けれども意識は自分の深いところで酷く冷めていて、そしてこれ以上ないほどの緊張感に身体は震えていて。


あの感覚が、私の身体の奥底にこびりついて離れない。


……だというのに。いや、だからなのか。

ここ最近の私は、不調だ。

さっきの試合もそうだったけれども、全く勝ち星を上げられなくなっている。

自分のイメージに、身体がついていっていない。

そのせいで、つい、イライラしてしまう。


……いけない。


私が、まだまだ弱いだけ。

自らのイメージに身体がついていけないなど、何を弱気なことを宣っているのだか。

自らを戒めるように、グッと拳を握った。


「おい、メル!集まれだと」


「はい!」


先輩に呼ばれて、後をついていく。

ずっとその名で呼ばれているため、すっかり染み付いていた。


歩いている間、同じように集まっている面々からの視線が突き刺さって痛かった。

その状況に、私は内心溜息を吐く。


……アンダーソン侯爵領で、訓練に参加させてもらい始めた頃もこんな感じだった。

けれども前よりも今の方が状況は悪化しているように思える。


私が人一倍小さいというのもあるのだろう。

何故こんな少女が、こんな弱い者が、誰もが切望する将軍の訓練に参加しているのだ……という心の声が、手に取るように分かる。


けれども何より、貴族である騎士様がたの反応……というか視線が痛い。


私は一応護衛兼影武者なので、対外的には平民ということになっている。

平民と共に過ごすことなんて今までなかった騎士様がたは、平民たちへの対応がすこぶる悪い。


国軍の方々も内心それに不満を持っているようだし、かく言う私もそうだ。

軍の方々の中でも、お父様の側近とかには、それなりの態度をとっているみたいだけど。


郷に入っては、郷に従え……と思うのは、私だけじゃないはずだ。



訓練を終えると、私は屋敷の中に入った。


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