父の出会い 弐
内容を第6部より場面を追加しております。
また、それまでの部分につきましても細かな部分を編集しております。(12/3編集)
大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。
※ダイジェスト化はありません。
12/6 更新二話目です
ほぼ、勘だった。
けれども、気のせいだと流すには明確過ぎる言葉。
ありえない、ただの偶然だと思いつつ……けれども、彼があの酒場にいたというのは、父親に言われて民のことを知るためという理由よりよっぽど納得できる。
現に儂は今、ここにいるのだから。
「普段から、酒場には行くのは本当のことだぜ?さっきも言っただろ。……けど、そうだなあ……」
苦笑しながら呟いた彼の瞳に、怪しい光が灯った。
「『偶然なんて、この世にはない』ってことだ」
一瞬儂は彼に呑まれ、呆然とする。
「ありえない……。私があそこにあの日行ったのは、部下に言われてですよ?完全に、偶然です。まさか、部下に貴方が指示を出して……?」
「お前さんのことを尊敬を通り越して崇拝している奴に、お前さんを連れ出すように言うのは中々骨が折れるだろうよ」
「なら、どうやって……?」
「人がその行動を取るのには、そこに至るまでの内部要因と外部要因があると俺は思うわけよ。内部要因、つまりは考えの過程だな。そいつは、それぞれの性格やら言動を考慮して想像する。んで、外部要因は既に起こったことやこれから起こる出来事だな。それらを勘案して、叩き出した結果ってやつだな」
なんてことはないように言うロメルに、儂は鳥肌がたった。
まだ、偶然と言われた方が納得できる。
「今回の予測は簡単だったぜえ。何せ、前回の奴らとお前飲みに行っただろう?まあ、今回の奴らがそれを聞きつけて、訓練最終日にお前を飲みに連れ出さない訳がないよなあ」
確かに儂は将軍職についてから、たくさんの者たちの訓練を見てきた。
直属の部下たち以外は国に要請されてのことだが……希望人数が多いため、グループを分けて期間ごとに見ている。
彼の言葉通り、前に見ていたグループの最終日、誘われて飲みに行ったのは事実だ。
けれどもそれは、数ヶ月前の話で一回きりのこと。
軍に在籍している者ならばともかく、宰相職のロメルが訓練の日程を正確に把握していることもそうだが、飲みに行ったという事実まで知っていることが儂には驚きだった。
「一体、貴方はどれだけ大きな眼と耳をお持ちなんでしょうね」
「軍の動きを見るのは宰相として当然だし、飲みに行ったっつうのはそりゃ隠してなけりゃ人の口の端にのるもんよ。街の酒場で耳に挟んだぜ?お前さん、有名だから」
「にしても、よく分かりましたな。前の時と店が違っていたのに」
「色んなところに顔を出してれば、騎士たち御用達の店なんて知れるもんだ」
ぞくぞく、と寒気が走った心地を感じた。
一体、目の前にいる人物はどれだけのことを見通しているのか……!と。
最早、予測ではない。予知だ。
あちらこちらに散らばる点をつなぎ合わせ、推測し、そして介入し自らの求める結果を出す。
これがこの国の宰相か、と戦慄した。
「……そうまでして、何故貴方は私に助力を?」
「そりゃ、宰相としての打算が九割だな。……お前さんは、この国にとって今や失くせない人物だ。民の人気もさることながら、お前さんの存在自体が他国への牽制になる。実際、お前さんのおかげでトワイル国との交渉はスムーズにいったからなあ。……だから国に愛想をつかされたり、お前さんに潰れてもらっちゃ困るっつうわけよ」
「国、ですか」
「おうよ」
「……。貴方の力は分かりました。分かった上で問いますが、貴方は一体何の助力をしてくださると?失礼ですが、貴方に戦う力があるとは思えない」
「そうさなあ。……お前さんの娘にも、俺は負けるだろうな」
ロメルの言葉に、儂はピシリと固まった。
先ほどから驚かされてばかりだが、それでも慣れることはない。
一体、どれだけのことを見通すことができるのか。
「ご冗談を。娘は病弱故、争うことなどとてもとても」
「最近の病弱な娘は、野盗をバッタバッタとなぎ倒すのか?」
ケラケラと笑うロメルは、確信を持ったように見える。
それをすぐに察して、溜息を一つ吐いた。
「参考までに……何故分かったのですか? 一応、対外的には、娘の影武者兼護衛が始末したことになっていますが」
「一つ目は、襲われた場所から王都の距離。囮は自分より先か隣に置くものだ。護衛の一人を囮として別行動させるのなら、そっちの方が効率的だ。だってのに、囮の位置はそこから最速で行ってギリギリ茶会に間に合うぐらいだ。病弱なお嬢様にそんな強行させるか?ってな」
「……二つ目は?」
「勘」
ロメルの言葉に、儂はここに来て初めて笑った。
「貴方らしくない答えですな」
「自分でもそう思うさ。ただ……自分の目で見て、感じた。それが、一番俺を確信するのに至らせた」
「娘は領地から出たことがありませんが?」
「俺はお前さんの奥さんの葬儀に出席したろ?」
「……ああ……」
「俺ぁ、ぞくぞくしたよ。あの中で、彼女だけが先を見据えていた。現実の理不尽さに絶望しながら、それに屈しないような強さ……そんな、焔が彼女の瞳に宿っていた」
儂はロメルの言葉に耳を傾けながら、目を細める。
……同じだった。
かつて、儂が彼女に対して感じたことと。
「武術の才だとかは分からねえけど。お前さんの娘は、 母親の病の『せい』で病弱になることなどないだろう。病も蹴散らして、駆け抜けそうだ。男なら、俺の下で鍛えたいね」
「貴方には、息子さんがいらっしゃったはずでは?」
「息子と合わせて、俺の下にってな。二人を組ませたら、中々面白いことをやってくれそうだしなあ。……ま、贅沢な話か」
「ええ。彼女は女ですし、何より私も彼女がどこまで武を高めるか、楽しみにしています。ですから、お譲りできませんね」
「クククッ……だろうなあ。ま、話は逸れたが……俺は確かに武の力はねえ。だが、文官として中々だと思うぞう?お前さんが動き易いように、最大限バックアップしてやる。俺と組めば……野盗だけじゃねえ、野盗のバックにいた奴らも全員、叩き潰させてやるよ」
「野盗の……裏?」
「なんでい、お前さん、そこまで調べがついてなかったのか。なら、お前さんが組んでくれるまで内緒」
「クククッ………ハハハ……!」
儂は、笑った。
腹の底から、盛大に。
儂の笑い声で、ビリビリと調度品が震えるぐらいの……それぐらいの盛大さだった。
「面白い、面白いですな。私の復讐に貴殿がとことん付き合ってくださると……そのために、私の身を軽くさせてくれると理解して宜しいですな?私は、全身全霊をかけて自分の為に力を奮って良いと?」
この時儂の胸の奥底より沸き上がっていたのは、充足感だった。
思い切り力を奮って良いと、後のことを気にせずに動けるのはどれだけ素晴らしいことか。
自分の本質は、あくまで一人の兵なのだ……と、今更気づいた自分に笑う。
将軍として、戦場を駆け巡るのも悪くない。
むしろ、自身の思うように戦況が動く様は興奮すらするほど。
けれども平時において将軍の肩書きは、最早枷に等しかった。
様々な部署との折衝。
国が、人が、儂の栄光にあやかりたいと群がる。
貴族社会を厭うてそこから逃げ出すように軍に入ったというのに、いつの間にか、その真っ只中に否が応でもどっぷりと浸かる。
人の良い笑みを向けて近づく者たちに喰われず、いかに良い条件を引き出すか。
知るか、そんなもの!と儂は本心からそう思っていたが、部下たちのことを思えば逃げ出すこともできず。
そういった負荷が儂の動きを重くさせていた。
「勿論。せっかく組むんだ……まずは、その堅っ苦しい口調からどうにかしてくれ」
「悪いな!それじゃあ、改めて……こちらこそ、よろしく頼む!」
「おうよ」
そうして、タスメリア国の宰相であるロメルと将軍の儂は固く手を結んだのだった。




