父からの贈り物
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、これまでの部分についても細かいところを変えています。大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。(12/4更新3話目)
※ダイジェスト化は、ありません。
「メリー、話がある。儂の執務室に来い」
準備運動兼体力向上の訓練を終えた私に、お父様がそう話しかけてきた。
一体、何の用かしら?
そう疑問に思いつつ、私はお父様の執務室に向かう。
晴れている日の昼間に屋敷の中を歩くのは、久しぶりのことだ。
何せ、雨の日以外は自主練か訓練でほぼ外にいるし、雨の日も室内の訓練場で何かしらの訓練をしているのだから。
本格的な訓練は週に二・三日。
それ以外の日は、お父様もご多忙なので独りで訓練をしている。
朝から晩まで、基礎体力の向上やら型の確認やらその他諸々やることは沢山ある。
前まではお兄様も一緒に訓練をなさっていたのだけれども、最近お兄様は一通り訓練をすると、部屋に篭って勉強をしていた。
次期領主として学ぶことが沢山あることに加え、お兄様は軍略を学んでいるようだ。
あんまり根を詰めて倒れないようになさってください、とお伝えしたら、お前もなと困ったように笑って私のキズを指差していらっしゃった。
お母様を亡くしてから、私たちは皆、こんな感じだ。
まるで、心の一部が凍ってしまっているよう。
そしてそれを埋めるために、それぞれが一心不乱に何かをしている。
……私でいえば、訓練のように。
どれぐらいの間、私は心の底から笑っていないのだろうか。
お母様を失って時間を経ても誰もが癒えない傷を抱えたまま、しかもそれがじくじくと膿んでいるようだ。
執務室に行くと、お父様は厳しい顔をしていらっしゃった。
「……お待たせ致しました、お父様」
「いや、良い。訓練中に済まなかったな」
「いえ。……何用でございましょうか?」
「うむ。……お前に、これをやろうと思ってな」
そう言って渡されたのは、剣だった。
少し細身の、けれども持ってみれば訓練用の刃の潰れた剣とは違う切っ先に重みを感じる。
持ち手のところには侯爵家の紋が刻印されていた。
「この剣は……」
「お前の為に誂えたものだ。……お前は、その剣を扱うに足る者となれるか」
お父様の鋭い視線が、私を射抜く。
ゾクリと、背筋に冷たいものが走った。
今までの訓練で使っていた剣とは違う、人を害するためのもの。
それを振る覚悟があるのか、そう問われているのだろう。
……けれども、それが何だというのか。
今まで私が学んできたものは、どんなに綺麗ごとを並べたところで、人を傷つけるものだ。
「……お父様ならばお気づきでしょうが、私が最初に剣を手に取ったのは私怨によるものです。ですから、この紋の……侯爵家の名には誓えません」
誰かを守るため……そんな崇高な志ではなかった。
私は私の為に剣を取り、そして学んできたのだ。
「なので私は、私の名に誓います。今までお父様に、諸先輩方に教えていただいたこと、そして築いた剣術に私は誇りを持っております。私は私の誇りを自ら汚さぬよう責任を持ち、剣を振るうことを誓います」
「よくぞ言った。……その言葉、決して違えぬよう」
剣を納め、私はお父様に頭を下げた。




