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武家の嗜み  作者: 澪亜
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とある密偵の供述 弐

本日2話目の更新です

「ほう、アルメリア公爵家で……か」


「ええ。私の両親はトワイル戦役で戦場となった村に住んでおりました。村は甚大な被害を受け、両親を除く親族は全滅。頼る者が無くなった二人は村を出て、王都で結婚し私が産まれたのですが……父は仕事中に事故で亡くなり、母もまたその後無理が祟って後を追うように亡くなりました。その後、独り街を彷徨っていたところをルイ様に保護していただき、密偵のイロハを学んだ後に国軍の所属となりました。ちょうどそういった経緯で身内がおりませんので、顔で身元が割れる心配もなく、時には名を変えて方々に潜入をしております」


「……お主は、何故国軍に?」


一瞬、お父様の顔が曇る。

助けることができなかった自分を、責めているかのように。


「何故、とは?」


「お主の親族を、村を守れなかったのは間違いなく儂ら軍人の不徳の致すところ。だというのに何故、お主はそうまでして国に尽くす?」


お父様の問いに、けれども何故かエイベルさんは微笑みを浮かべた。


「逆ですよ。……確かに、私の両親はトワイル戦役で身内や友を失くしました。けれども……将軍が助けに来なければ、両親たちも死ぬところだったんです。貴方は確かに全てを守ることはできなかった。でも、貴方がいなければより多くの命が失われていたのです。だから両親は自分の命や村を救ってくれた貴方に感謝を捧げていましたし……まるで英雄譚を語るかのように、貴方がいかに村を守ろうと戦ったかを語っていましたよ。だからこそ、私は貴方に憧れたのです」


「それは……」


きっと、エイベルさんの言葉を以ってしてもお父様の呪縛が解けることはなかっただろう。

お父様は、そういう人だから。

失うことから、目を逸らさない。……いつまでも自身のモノとして、抱え続ける。

だからこそ今も浮かないような、納得がいっていないような表情をされているのだろう。


「そしてそれと同時に、私は自身の恵まれた環境が許せなかった。……私と同じような境遇の者は多くいます。私は運良くルイ様に拾っていただけましたが……多くの者が、辛酸を嘗め続けた。だからこそ、私は国軍を志したのです。これ以上、私と同じような境遇の子が現れないように。誰かが誰かを失うことで苦しみ、そして失うことに対する不安に怯える必要がないようにと」


「そう……」


私は、何も言えなかった。

それだけ彼の真剣な思いが、言葉の端々や声色から伝わってきて。


「今回の件は、リンメル公国に潜入している際に動きを察知しました。ただ……情けないことに、察知した時には既にリンメル公国から不眠不休で馬を飛ばしても会が始まってしまう頃であったということ、そしてあまりにも不確定であったために、急ぎリンメル公国より私自身が参った次第です。……そしてパーティーに潜り込み、不審者を尋問して情報を取得したところでメルリス様にお会いしたのです」


「……では、エイベル。我が国の協力者は?」


「残念ながら、奴らも知らなかったのです。そのため、現在我が国の国軍の制服をどのようなルートで得たかを調査中です」


「そうか……」


エイベルさんの回答に、お父様は深い溜息を吐いていた。

……お父様からしたら、早く答えを知りたいだろう。

そう簡単に得られぬ国軍の制服をあの人数分手に入れたということは……恐らく、国軍の中か、もしくは国軍に何らかの影響力を持つ人物が協力していたということだろうから。


「……では、リンメル公国側の関係者は?」


ルイの言葉に、一瞬エイベルさんは困ったように言葉を詰まらせていた。


「確たる証拠は未だ入手しておりませんが……スリガー公爵家です」


「待って……スリガー公爵だって、今回参加しているのよ? まさか自分で自分の殺害を依頼らしたというの……?」


思わず、自身ですら誰に向けたか分からない問いを口にしていた。


「……あまり選択肢を狭めたくないが、現状考えられるのは二つ。一つは、他の公爵家と共に襲われるところを目撃されることで疑いの目を背けるために、あえて自分たちも標的に入れたということ。この場合、何らか自分たちは助かる術を確保していた上でのことだが」


「……もう一つは?」


「タスメリア王国に来ていない、スリガー公爵家長男のコーディス・スリガーが全ての糸を引いていたということ」


「まさか……自分の親と弟を殺すよう依頼したということ?」


「あくまで可能性の話、だ。……だが、ありえない話ではないだろう? 何らかの目的や経緯があって、自分の身内を殺す依頼を出すことは」


言葉に、詰まった。

確かに、そうだ。……ついこの前、私は絶望しかけたではないか。

お母様の件を通して、身内ですら命を奪う人の業の深さに。

お父様も同じことを思っていたのか、妙に哀愁漂う雰囲気を纏っていた。


「……申し訳ありません。思い出させるようなことを言ってしまって」


ルイもすぐに私たちの考えに思い至ったのか、謝罪の言葉を発する。


「構わん。……ルイ殿の言う通りだ。ありえぬことでない以上、選択肢から除外すべきではない」


お父様の言葉に、ルイは頭を下げる。


「……では、エイベル。その二つの線で捜索をしてくれ。それから、ガゼル殿。恐縮ですが……」


「勿論、最大限協力する。儂は儂で内部の協力者の正体を探らせてもらおう」


「ルイ様、承知致しました。ガゼル将軍、協力感謝致します。……それでは、私はそろそろ失礼させていただきます。挨拶という名目で、あまりこちらに留まっていては不自然でしょうし」


「ああ、それもそうだな。頑張れよ、エイベル」


「ありがとうございます、ガゼル将軍」


「あ、では私もこちらで失礼致します。これから先の予定の支度がございますので」


エイベルさんが出るタイミングで、私もお父様の書斎から出た。


「……本日は、ありがとうございました」


並んで歩くエイベルさんに、私は謝罪の意味も込めて感謝を伝える。

王宮で遭遇した時は疑うしかなかった状況だったから仕方がないとは思うけれども……とはいえ、密偵として活動中の彼には随分と無理な願いをしてしまった。


「いえ、私の方こそ……改めて、先日ご協力いただいたことにお礼を申します。ありがとうございました」


全く気にしていないとでもいうかのような素振りで、逆にお礼を言われてしまった。


「あの……エイベルさん。お聞きできたらで良いのですが……貴方の本当の名前は何ですか?」


「え?」


突拍子もない質問に、エイベルさんは目が点になっている。

珍しい動揺した姿に、思わず笑ってしまった。


「先ほど仰っていたでしょう? 時には名を変えて方々に潜入していると。……なので、『エイベル』もそうなのではないかと」


「ああ……そういうことですか。すいませんが、本名を伝えることはできません。秘密は知る人が少なければ少ない方が良いので」


「やはり、そうですよね」


少し残念に思って、内心溜息を吐いた。


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拾い癖はルイパパの遺伝でしたか
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