理不尽な現実
鐘が、鳴る。
荘厳で、重苦しい……葬送の鐘が。
「……お母様……」
棺に眠るお母様に、声をかける。
けれど決して、その呼ぶ声に応えることはない。
分かっていても、眠るようにそこにいるお母様を見ていると、呼び続ければその瞼を開けてくださるのではないかと期待してしまう。
けれどもやっぱり、お母様の目が開くことはない。
泣いて縋っても、時を戻すことができない以上……お母様のあの笑顔を見ることも、お声を聞くこともできないのだ。
突きつけられる現実に、涙が溢れる。
身体が勝手に動いて、お母様に縋り付くように側に寄った。
お母様の冷たいその身体に触れて、これが夢ではないのだと思い知る。
……私の名前は、メルリス。
メルリス・レゼ・アンダーソン。
アンダーソン侯爵家の一人娘だ。
お父様はこの国タスメリア王国から領地を賜るアンダーソン侯爵家の当主にして英雄。
いつもは豪快に笑うお父様も、今だけは消沈しているようだった。
兄も、横でわんわんと泣いている。
『武の誉れ高いアンダーソン家の男の子が、そんなことで泣かないの』
そう言って叱咤激励してくれた、お母様はもういない。
……二度と覚めることのない夢の中にいるのだから、それも当然だ。
周りからも、啜り泣く音が聞こえてくる。
優しくて、素敵なお母様だった。
誰の言葉にも耳を傾け、優しさを惜しみなく与えるような人だった。
なのに、何故……。
何故、お母様がこのような目に遭わなければならないの……!
悲しみから一転、激しい怒りが私の胸を占める。
……この世界は、理不尽だ。
それを、理解した。
否……理解させられた。
ギリリっと、唇を噛み締めて叫び出したい衝動を押し留めた。口の中に、鉄の味が広がっている。
「……メリー。今はただ、お前の母のことを想ってくれんか?」
お父様の言葉が、私を現実に呼び戻した。
……お父様は、私の心の内を読んだのかしら?
そんな疑問が頭を過ぎったけれども、そのような些事は今はどうでも良いと、私は再びお母様のことにのみ意識を向ける。
「……お母様……」
私は、ポツリ呟いた。
呼びかけた声に、応えは勿論ない。
涙は、未だにとめどなく溢れ出てくる。
……そっと、瞳を閉じて祈った。
お母様の冥福を。
ふと、目を開けると視界にお父様の姿が映った。
それと同時に、気づいてしまった。
私たちに一度も涙を見せたことなどなかったお父様の頬に、水滴が伝っていたことを。




