表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その他

電車の外に忍者を走らせるやつ

作者: てこ/ひかり

 ガタガタと揺れる電車の窓の向こうに、僕は何となく忍者を走らせていた。


特急列車と同じスピードで、通り過ぎる景色の中を僕だけにしか見えない忍者が駆け抜けていく。高層ビルを駆け登ったり、その上から間髪入れずジャンプしたり、山の輪郭を走らせたり…。決して意味があるわけではないが、子供の頃からよくこうして忍者を走らせて暇を潰していた。


「見て!あそこに誰かいる!」


 僕が肘をついて景色と忍者を眺めていると、前の席から元気な男の子の声が聞こえてきた。


「なあに?」

「あれ!…忍者!?」

「え?どこ?」

「見えないのお母さん?ほら…今高速道路の上を走ってるよ!」

「もう!お兄ちゃん、妄想しすぎ!」


 前の席の親子の会話を聞いて、僕は驚いた。ただの妄想なのに…男の子には、僕と同じ忍者が見えているのだろうか?それとも…単に僕と同じような横スクロール妄想をしているだけなのか。僕は試しに頭の中で、忍者にこちらの窓に向かって手裏剣を投げるよう念じた。


「うわあ!」


 前の席から、甲高い声と水筒を落とす音が聞こえてきた。


「ママ!手裏剣だよ!窓に刺さってる!!」

「はいはい」


 騒ぎ出す男の子に、前の席でお母さんは笑って流していた。やがて男の子は、窓にへばりついて必死に忍者を見つめ始めた。僕はファンサービスも込めて、窓の外の忍者をいつもよりアクロバティックに走らせてみた。川の上を逆立ちで走らせたり、バック転を繰り返してひたすら車の上を跳ねさせたり。男の子はその様子を目で追い、食い入るように眺めていた。やがて特急列車はトンネルに差し掛かり…その入り口で忍者に煙玉を投げさせ、僕は妄想を止めることにした。


「あー…いなくなっちゃった…」


 男の子が残念そうな声を上げ、窓ガラスからほっぺたを引き剥がした。名残惜しいけれど、幸せな親子の妄想はここまでだ。


「…さあ行きましょう、殿。遊んでる場合じゃございません」


 いつの間にか前の席に座っていた忍者が、くるりと椅子を回転させて現れた。忍者は息を切らしながら僕を責めるように見つめてきた。


「…殿、今日はやけに、注文が多かったですな?」

「少しは遊ばせてくれよ…」


 僕は苦笑しながら、忍者と共に、誰も乗っていない二号車を後にした。


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あれは何という現象なんでしょうね? [一言] 教科書の文字の隙間で塹壕戦をする兵士の妄想もしてました『し』のくぼみで一休みするサボり気味兵士。あいつとは友達になれそうな気がする。
[良い点] うわー、最高に面白かったです。天才ですね。
2019/10/08 04:16 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ