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ダンスウィズアームズ  作者: 陣駆
9/30

無人君は電気ウナギの

「ところで、帰還作戦の詳細を教えてくださいよ」

 悠翔が、サラダの黄色い花をすくって口に入れながら聞いた。

「ああ、簡単に言えば人体実験だよ」

 驚いてわずかに身を引く悠翔に、笑って続ける。

「冗談だよ。さっきも言ったけど、アクスリアの全ての人が宇宙へ上がったわけじゃなく、残った人々もいたし、今は防護服無しで生活していることが、何年も前に確認されている。汚染は解消されてるはずだよ」

「その残った人たちとは連絡取れないんですか?」

「ああ、電波妨害で通じないんだ。25年ほど前だったかな。二人の博士、親子の博士が、通信の回復を目的として降りたそうなんだが、結局そのまま音信不通で終わってしまい、何があったかもわからない。それもあってか、その後は帰還に関して躊躇するようになったらしいよ」

 唇を尖らせながら頷く悠翔。


「帰還作戦の要旨は、通信の回復と、宇宙港調査が第一目的。そして、そのおまけで無人機基地の制圧という計画さ」

「え? は? 無人機基地の制圧?」

 疑問顔の悠翔に、スグニィスは続ける。

「通信の回復と、宇宙港調査は、悠翔にはなんの関係も無い。悠翔が、救世主様たちが関係するのは、無人機基地の制圧」

「いや、だからその無人機ってなんなんですか?」

 スグニィスは、ハンバーグのようなものを食べ、飲み込んだ後に話し出す。

 それは軍人を含む多くの国民が宇宙へ上がり、武力を司る者が居ない地で、残った人々や国土防衛の為、数多くの無人機、自律型無人機動兵器が稼働しているということだった。


「ああ、そうか。戦争した相手の国は下に残っているんだ。でも無人機なんかで守れるんですか?」

「現に守れているからな、70年。まあ、当時あまりにも酷い状態になったことで、自然に戦争が収束していったという話だし、また酷いことにならないよう自重しているということもあるんだろう」

 その無人機の工場が7つあり、その1つを制圧する計画だと言うスグニィスに、悠翔は驚いて聞き返した。

「あれ? 制圧ってどういうことなんです? 自国の兵器なんですよね?」

 その問いに笑いながら答えるスグニィス。

「おかしいと思うよな。……その理由はなんと、70年も防衛として機能する無人機システムを開発した天才博士様が、なにをトチ狂ったか、誰にも制御出来ないものにしてしまったのさ」

「誰にも?」

 驚く悠翔。

「一応残された声明には、この恐ろしくも優れたシステムが、為政者の自由になる事に耐えられないとあった。武器を持って近づかなければ無人機は何もしないのだから、国防の任は違えていないとね」

「近づかないと何もしない?」

「そうだよ、武器を持って近づかなければ何もしない」

 そういった後、吹き出して続ける。

「その辺の話はもうちょっと後でするよ。いきなりいろいろ話すと、喋っている俺にもわからなくなるからな」

 コップの水を一飲みして、更に続ける。

「だからー、救世主悠翔に頼みたいのは、昨日の重機テロを破壊するのに使った、アクスリアが誇る人型兵器タルートの操縦を習熟して帰還作戦に参加してもらい、無人機基地の制圧に手を貸して欲しいってことさ」

 

 ため息を吐いてから聞く悠翔。

「その救世主ってなんなんです? 面はゆいんですけど」

「ん? それは君らがとてつもなくタルートの操縦が上手いからだよ。帰還作戦には軍人は数えるほどしか参加していない。貧乏な若い素人が短期間の訓練で降りるんだから、その中で君らの上手さが際立って目立つのさ」

「え、そんなので無人機基地の制圧なんて出来るんですか?」

「一応、降りてから半年ほど訓練する予定だからな。それくらい訓練すれば何とかなるんじゃないか?」

 大口を開ける悠翔。

「半年も? いやいやいや、それよりもなによりも、相手は無人の「兵器」なんですよね。俺も含めて、そんな素人で本当にやるんですか?」

「あー、それな。大丈夫だよ、死なないから」

「え? は?」

「無人機基地の制圧に使うのは、遠隔操作のタルートだから。操縦者の生命の安全は担保されてるよ」

 目を点にして、口をすぼめる悠翔を見て、鼻で笑いながら続ける。

「空覇も、リルターも納得して参加してくれてるんだから、何の問題も無いんだよ。参加してくれるよな?」


 目が泳ぐ悠翔。うつむいてのしばしの間。

 真っ黒のカレーの様なものと、白身魚の練り物の様なものを慌ててかき込んで、水を飲み干すと手を合わせる。

「ごちそうさまでした。ちょっと、鳥を撃ちに行ってきます。ゆっくり食べててくださいね」

 そう言って、慌ただしくトレーを持ち上げて席を後にした。唖然とするスグニィスを置いて。

 

 トイレは食堂を出てすぐの場所にある。中へ入る悠翔。

 意外と壁の厚い個室へ入って座る。眼を瞑って深呼吸をした後、シムカを呼び出そうと念じてみた。

「なに?」

 シムカの声が頭に響く。

「凄く重要なこと聞くの忘れてて、聞きたいんだけど」

「そこどこ? 狭い感じがするんだけど」

「え、トイレだよ。独りになれる場所がここくらいしかないんで」

「トイレ? まさか出してないわよね」

「え? 出すって何を? ……出してるわけないじゃん! 何言ってるの!?」

「出してたら、ツルツルにするからね」

「え? どっちを? いや出してないし! 声が通じるならこのまま話してもいいんだけど」

 首を出して聞いた後、首を引いて振る悠翔。

「ダメよ、大事な話なんでしょ? この状態で話すのは力を使うから疲れるし、ちゃんと面と向かって話すのが礼儀でしょ」

「なら早く来てよ、時間が無いんだから」


 悠翔の目の前が光り輝くと収束して、天女姿のシムカが現れた。

「何よ、話って」

「すごく重要なことを聞くの忘れてたんだよ。俺の世界の俺はどうなってるの? 行方不明なの?」

「え? 普通に過ごしてるわよ」

「は?」 

「普通に生活しているわ」

「え? どゆこと?」

「ここに居るあなたは、元々のあなたの魂の半分なのよ」「は?」

 眉間にしわを寄せて続けるシムカ。

「今ここにいるあなたの身体は、カルバルト様の力で複製されたもの。その体に宿るのは、元々のあなたの魂の半分。分裂したということよ」「は?」


「ちょっと待った、じゃあ、俺が今すぐ戻りたいと言ったらどうなるの?」

「あなたの世界の身体に魂が戻るだけよ。魂が融合され、記憶も融合されるだけの話。なんの問題も無いでしょ」「は?」

「うるさいわねホントに、バカなの? 死ぬの? あなたが困ることは何一つとして無いって事よ。この世界の平和の為に協力して欲しいだけなんだから」

 しばしの沈黙の後、聞く悠翔。

「もしかして、この世界で死んでも戻れるの?」

「当たり前でしょ、そんなの。……まあ、死ぬまでの痛みとかはあるけど」

 呆然とする悠翔にシムカが続ける。

「あなたが痛い思い、苦しい思いをしたら私にも伝わるから、すぐに駆けつけるわよ。その時に帰りたいと願えば、すぐに帰してあげる。それで痛みも苦しみも無くなるわ」

 眉間にしわを寄せ、うつむいて首を傾げる悠翔。

「私の言ってることが信用出来ないなら、今すぐ帰りたいと言えばいいだけよ。すぐに帰してあげるから」


「あ、そうそう。降りてから半年の間の訓練と言われたんだけど、そんなに長い間……」

「ああ、それも大丈夫よ。この世界とあなたの世界の時間の流れが違うから」「は?」

「ここで1年暮らしても、あなたの世界は1日くらいよ」「なんそに?」

「いや、それだと俺の世界に、ここの世界の人が行ったら困るんじゃないの?」

「……その時は逆になるのよ」


 それを聞いた悠翔はしばらく沈黙した後、唇を隙間なく結んだまま何度も大きく動かし、口を開く「ハゲろハゲろハゲろ……」シムカの詠唱再び。

「ちょ、まだ何も言ってないじゃん!」

 声を上げる悠翔にシムカが答える。

「出来るから出来るって言ってるでしょ。誰も困らないという前提の元、全ての世界が平和で平穏であるようにと祈っているのよ。カルバルト様が凄まじい精神力を使って祈っているの!」

「いや、でも、それにしても……」


 シムカは悠翔の顔前に浮き立って、右手人差し指を突きつける。

「出来るから出来るって言っているでしょ。ゴチャゴチャとしつこくケチをつけると、ツルっと逝くわよ、ツルっと! なんか最近抜け毛多くね? とか言ってると、ある日鏡の前で、なにこれ!? ってなるのよ。驚くほど短期間に! ごっそり逝くわよ!」

「なにその生々しい言い方。てか、なんで髪の毛を気にするとか知ってるの?」

「代々伝わる手引書があるのよ。あなたたちと良好な関係を築くための」「いや、脅しだよねそれ」

「平和の為だから仕方ないでしょ。平和の為にならなんだってするわよ」「怖い怖い怖い」


 シムカは、悠翔の顔の周りを何度も回って飛んだ後、頭の上に降り立った。両手を水平に広げて。

「とにかくあなたが困ることは無いということを信じて欲しいわね。ここから先は何があるかわからないけれど、あなたが帰りたいと願えば、いつでも帰ることが出来る。困ることは何も無いのよ。だからこの世界の平和の為に協力してください。……早く決めてくれないと、話がちっとも進まないでしょ!」

 しばしの沈黙の後、悠翔が答える。

「わかったよ、信じるよ。この世界の平和の為に努力して協力するよ」

 その声に、悠翔の顔の前に移動して笑って返すシムカ。

「そう答えてくれない者は、そもそもここに現れないのよ。当然の帰結ね。よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げ、差し出されたシムカの小さな右掌を、悠翔はつまんで答えた。

「はい」

ハゲてないよ

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