華麗なる漆黒
腹が鳴る。テーブルにある時計は、10時45分と読み取れた。
スグニィスがあの食堂で味試ししてもいいと言っていたが、お金が無いことに気づき、携帯端末に何かあるのかと調べるが、お金を意味するような感じのする文字は見つからなかった。
大きくため息を吐いた後、スグニィスに連絡する。教えられていた通りに操作すると簡単に繋がった。
「おお、悠翔か。意外と早かったな、もっと寝ててもいいんだぞ」
「そんなに疲れてませんよ、いろいろ気になって仕方ないし」
「そうか、それで出たか? 神様」
驚く悠翔。
「出たんだろ、神様。ここへお前さんを呼んだとかいうやつだよ」
「え? 神様というか、祈る人たちだから神とは違うんじゃ……」
「あれ、聞いてないのか。神になる為の修行の身ということらしいし、不思議な力もあるしで、俺たちの言う神という捉え方でいいと言われたって聞いたぞ」
「へー、そうなんですか。会いましたよ。ここへ俺を呼んだのは仕える師だと言ってましたけど」
「今までの全員が、会ってるらしいんだ。俺たちの前には現れないし、見えないらしいんだが、話を聞くと嘘言ってるとは思えなくてな。やっぱり出たのか。で、参加するって決めた?」
その問いに、しばし逡巡して答える。
「いや、とりあえず何するのかとか、もう少し教えてもらわないと」
「ああ、そうか。じゃあ、いろいろ説明するよ」
腹が鳴る悠翔。
「そのことの話もあるんですけど、あの、腹減ったんでまた食堂行きたいんですが、お金はどうすればいいのかと」
「あれ? カード渡してなかった? ……あ、ここにあった。悪い悪い、渡すの忘れてたよ」
しばらく笑ってから続ける。
「じゃあ、また食堂へ行くか。ちょっと早いけど俺も腹減ってるし。今からそっちへ行くよ」
「服装は、昨日のままでいいんですか?」
「ああ、この時間に私服は目立つから、隊員服を持っていくよ、すぐ行くから待ってて」
悠翔は通話を終えると、寝間着から自分の服に着替え、髪を整えて待った。
呼び鈴が鳴り、扉を開ける悠翔。現れたスグニィスの服装に驚く。建物へ入る時に小銃を持っていた兵士と思われる者たちと同じ格好だ。兵士の服には無かった、左二の腕に巻かれた薄いオレンジの腕章が目を引く。
「よ、おはよう」
「あ、はい。おはようございます」
「はいこれ、隊員服」
包みを2つを受け取って見定める悠翔。
「中で待っててください、着替えてきます」
そう言って、スグニィスが上がるのを見てから、部屋の奥へ行く。
中身を出し、広げる悠翔。刺繍はあるが、やはり無縫製で、接着してあるだろう部分も均一な柔らかさだ。軽さに驚きながら上下させる。
着替えを終え、テーブルの席に着いて待っているスグニィスの元へ行く。
「サイズぴったりだな、さすがは救世主、似合ってるよ」
「これ、驚くほど柔らかくて軽いですね。ごわつきも全く無いですよ」
「耐刃、耐熱、耐火に優れた人造繊維で出来ている一級品だからな。防汚、防臭性も高い。庶民には買えないものだよ」
それを聞いて、右腕を上げ臭いをかぐ悠翔。
「じゃあ行くぞ、腹が減ってるんだろ?」
微笑みながらそう言って、部屋を出ようとするスグニィスに悠翔が声をかける。
「ちょっと聞きたいんですけど、この天井の電灯、音声入力を使わない時は、手動のスイッチで点けたり消したりすると思うんすけど、どこにあるんですか? スイッチ」
「え? 壁にあるだろ」
「え? どこにあるんです?」
部屋の壁を触る悠翔。
「電灯の設定は、部屋に入る前にするだろう普通。外にあるんだよスイッチは」
そう言って戸を開けて部屋を出ると、入り口横の壁の四角い囲みを押さえてスライドさせる。
悠翔も外へ出て、スイッチパネルがあることを確認し、唇をすぼめて驚く。
「……寝る時に部屋の外へ出て消して、暗い中をベットまで戻るなんて困りませんか?」
その問いに、眉を寄せ、少し呆れた顔でため息を吐いた後に答えるスグニィス。
「その為に、部屋のテーブルに電灯があるんだろ。それを点けておけば何も困らないぞ。というより、そもそも音声で入力するようにしておけば、スイッチ触る必要なんてないんだから。だから大元のスイッチは外」
「そういう理屈なんですか。……う~ん、まあ、習慣の違いなのかな」
首を傾げながらも、悠翔は一応納得した。
二人で食堂まで行く。明るい中で見上げると、構造物がハッキリと見える。興奮し、感嘆する悠翔。
「凄いですね、本当に宇宙居住地なんだ」
「ああ、悠翔もそんなに驚くか。君らの世界では、まだ理論提案でしかないらしいな」
「ええ、かなり大昔から提案されてるんですが、具体的な検証は何もされてないみたいです」
「それはそれで幸せだと思うぞ。切羽詰まってないってことからだろうからな」
食堂に着く。
「昨日のは、君らの世界のものとほとんど同じものだったけど、今日は君らの世界の食べものと似ているけれど、微妙に違うものがいいと思うんだよ。空覇だけじゃなくリルターも喜んでたから、外れじゃないと思うぞ」
「じゃあ、それにします」
カードで払う。
「ちなみに、そのカードで買った物は全て俺に分かるし、政府にも伝えられるから憶えておいてくれな。申し訳ないが、君らは監視対象という現実なんだよね」
「あ、そうなんですか」
それは仕方ないかと思う悠翔。小さく小刻みに頷く。
「ま、エッチなものが欲しい時は、俺が買ってやるよ」
頬に右手を当てながら、小声で言うスグニィス。「いりませんから」
注文した料理が出来、受け取って席に着く悠翔。
深めの皿、横幅25センチ程で、実質の容器の幅は20センチ程度、深さは3センチ程の楕円の皿だ。そこに円形の白く艶やかなものが乗っていて、その上に真っ黒な粘性のある液体がかかっている。円形の両側も黒く埋まっていた。分かりやすく言うとカレーっぽいものです。黒いです。凄く黒いです。片側の凄く黒いものの上には白い花と黄色い花が乗っていて、付属の小鉢のサラダにも、花が一杯乗っている。凄く綺麗です。なにこれ。
早速、フォークスプーンで黒いカレーっぽいものをすくって口に入れる悠翔。
「あーこれはカレーですね。香辛料を組み合わせた物ですよねこれ。俺の世界のと同じですよ」
「下の白いのも食べてみてよ」
スグニィスがにやけながら言う。
悠翔がフォークスプーンで切り込むと、驚くほど柔らかい白い円形のもの。切り取ってすくい上げると、その断面は非常に細い縞模様になっている。白と茶色と黄色の縞模様。黒いカレーが縞に垂れる。
口に入れる悠翔。咀嚼して飲み込んだ後に、恍惚の顔で言葉を発す。
「これ、白身魚の練り物ですね。味付けしたものとチーズの層で、その間に揚げ物、ジャガイモか、にんにくの薄切りの揚げ物が挟まれている。柔らかい練り物の中に歯ごたえのあるものがあって、物凄く美味しく感じますよ」
満面の笑みで語る悠翔に、スグニィスも笑ってしまう。
「そんなに喜んでもらえると、俺もうれしいよ。作ったわけでもないのにさ」
「いや、本当に美味しいですよ、程よい辛さで、麻薬が入ってるみたいな美味しさですよ」「入ってないから」




