また神の話してる
驚く悠翔。大声で叫び跳び退き、壁に身を寄せて怯える。
「なんで、そんなに怯えるのよ失礼ね。何もしないわよ」
頭に声が響く。
「お化け?」「誰がお化けよ」
ほぼ白色の薄い黄色の光の粒が更に近づいて、小さなつむじ風のようにクルクルと回る。
「私の名はシムカ。あなたをこの世界に呼び寄せた師の使いよ」
悠翔は怯えつつも光に手を伸ばす。
「どこ触るのよ、いやらしいわね!」
手を引っ込める悠翔。
「え、やっぱり女性なの?」
「失礼ね、見れば判るでしょ」
「いやいやいやいやいや」
思わず笑ってしまう悠翔。続けて聞く。
「呼び寄せた師の使いって、どいうこと?」
「あなたをこの世界に呼び寄せたのは、私の師、カルバルト様よ。カルバルト様は祈祷の間で、ずっと祈りを捧げているのでここへは来られないの。願いを託す本人が直接会えぬ非礼をお詫びする。カルバルト様からの言葉よ。仕方のないことなのでご理解願います」
そう言って、更に近づくので、反射的に身を引く悠翔。
「しかたないわね、もう」
シムカはそう言うと、光の粒が集まって一つになり、30センチ程の大きさの女性の姿になった。稚児髷という、後頭部上側に髪の輪を二つ結い、白と薄いオレンジ色の着物姿。体にまとった天衣という帯の輪が宙を漂う、まごうことなき天女です。浮いています。
「これならいいでしょう? あなた好みの、あなたにとっての神秘的な姿を念じたの。何かおかしい?」
「え、そうなの。まあ、いいけど……なんか恥ずかしいな……なんで小さいの?」
「仕方ないでしょ、私はまだ位の低い修行の身なんだから。あなた程の大きさを維持するような大きな力は使えないのよ」
シムカの人形のような姿に目を奪われて頷きながら、ハッと目を瞬いて聞く悠翔。
「願いを託すとか言ってたけどなんなの? どうして俺がこの世界に呼ばれたの?」
「えーとなんだっけ……そうそうとりあえず、あなたの世界、この世界、そして私の世界。この3つの世界があるというのは判るわよね」
「あー、はい」
「で、私たちの世界は、あなたの世界やこの世界が平和でありますようにと、祈りを捧げることが使命なの。そしてカルバルト様のような位の高い方たちは、世界の転機を感じることがあって、その時には祈りだけでは無く、協力者を求める事もあるのよ。そしてあなたたちが現れた。この世界の平和の為に協力して欲しいということよ」
「え、なんで俺が? ゲームが上手いからとか?」
「ん? カルバルト様はこの世界の平和の為に最適な、協力してくれる者を求めて祈りを捧げ続けただけよ。そしてあなたが現れたというわけで、選んだりしていないわ。祈っても誰も現れず終わることの方が多いくらいだし」
天女の姿のシムカが、悠翔の顔の前に近づいて、肩の位置で両掌を開く。
「私たちは祈りを捧げる以外には、あなたの世界やこの世界に、直接干渉してはいけない決まりなの。だから、この世界の平和の為に何かしたい時は、あなたたち第三者の世界の者に頼んで、了承を得て協力してもらうことになるのよ」
「え、じゃあこの世界の平和の為に、帰還作戦に参加しろってことなの?」
「細かいことは私にはわからないわ。この世界の人に聞いて、この世界の平和の為に協力して欲しいわね。それがカルバルト様の願いだから。まあ、それを断るような者は、そもそもここに現れないわよ。祈りが通じていないということだから」
悠翔は聞きながら唇を尖らせ、顎をつまんで思案した後に聞く。
「あの人型兵器を操縦して、この世界の平和の為にってことなの? いや、ちょっと待った! まさか、あれに乗って戦争しろとか言うんじゃないよね? 人殺しなんか出来ないよ!?」
「人殺し!? そんなことは絶対に無いわ! 私たちは、平和で穏やかな世界でいられるように、祈りを捧げているのよ。そんなことをさせるために呼び寄せるなんてことは、あり得ないわ」
体をくの字に曲げて否定するシムカ。
「ならいいけど……」
「もしそんなことをしなければならなくなって、あなたが絶対にしたくないと思ったら、すぐにあなたの世界に帰してあげるから。呼び寄せることは出来なくても、帰すくらいのことなら私にだって出来るのよ」
「ああ、帰れるのか」
「そうよ。でもすぐ帰りたいという者は、そもそも呼び寄せられることは無いの。協力してくれる者に現れて欲しいと祈っているのだから」
そう言って、悠翔の顔を上目で見ながら続ける。
「帰りたい?」
そう問われて困惑する悠翔。目を逸らす。
「いや、まあ、もう少し事情を知ってから決めたいのですが」
不敵な笑みのシムカを、横目で見ながら続けて聞く。
「協力しない者はそもそも現れない、協力するからこそ現れた、とすると、この世界が平和になることも決まっているということ?」
「そんなに都合良くいくわけないでしょ。ここから先はあなた次第になるわ」
そう聞いて、小さく何度も頷く悠翔。
「では、そういうことでよろしくお願いします」
宙に浮いたまま、シムカは両手を揃えて頭を下げた。
唇をWにして、しばし沈黙し、鼻息を吐いた後に聞く悠翔。
「あ、ひょっとして俺がこの世界の言葉と通じたり、文字が読めるってのは君のおかげなの?」
「そうよ。あなたがこの世界で不便の無いようにするのが、私の役目だから」
「そんなことが出来るのか、凄いな。……しかし遅延なく言葉を翻訳するなんて、どういう仕組みなのか気になるというか、都合良すぎるというか、なにそれ」
「出来るから出来るのよ。それくらい私にだって出来るわ」
「だって言葉を発した瞬間に、翻訳されて相手に伝わるとか、魔法過ぎる気がして、嘘くさいな」
「うるさいわね。そんな細かいこと、どうでもいいでしょ。出来るから出来るのよ。そんなことをごちゃごちゃ言うなら、ハゲる願掛けするわよ」
「それは呪いじゃないの!?」
シムカの剣幕に気圧されつつも、思い出す悠翔。
「あ! 言葉が通じないものがあるんだけど」
「え?」
驚くシムカに、悠翔は天井を指さして続ける。
「この上の電灯が、音声入力で操作出来るみたいなんだけど、俺が言っても作動しないんだよ」
「ああ、機械との言葉のやりとりね。それは気づかなかったわ」
そう言った後、光の粒に戻って悠翔と電灯を通過すると、再び天女になる。
「さあ、これで通じるわよ」
驚き顔の悠翔に告げるシムカ。
「ライトオン」
悠翔が発声すると天井の電灯が点いた。もう一度発声して電灯を消し、感嘆する悠翔。
「凄いな」
「これくらい簡単よ」
「本当に本当なのか、コレ」
そう言いながら、得意気なシムカに手を伸ばす。
「触んなって言ってるでしょ」
手をはたかれた。
しばらく腕を組んで首を傾げ考え込む悠翔。
「夢で無いのは間違いないけれど、ひょっとしたら悪の科学者に拉致されて、脳の実験で仮想現実の世界にいるのかもしれないな。どうにも安っぽい世界観だし」
組んだ右腕の人差し指を振りながら続ける。
「悪の科学者は科学に関しては凄い才能があっても、仮想現実の世界説定、物語創作の才能はあまり無いんだよ多分。だから、地球の未来じゃなくて異世界設定にした。いろいろ誤魔化しが効くからね、異世界は。そうやって異世界にしたくせに、まったく同じ身体の人間が住んでるというご都合主義。握手とか、手を振るという習慣まで同じだし。食べられる花とか、靴を脱ぐとか、どうせネットで見つけたのを嬉々としてぶっこんで「ハゲろハゲろハゲろ
「ハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろハゲろ「ちょ」
悠翔の後ろで両手を合わせて眼を瞑り、詠唱するシムカ。
「やめて! もう言いません」
慌てる悠翔に、シムカがまくしたてる。
「何、独りでぶつぶつぶつぶつ喋ってるのよ気持ち悪いわね。あるからあるんでしょ。現実にあなたや私がいるのよ。ちゃんと存在してるでしょここに。たーっ」
そう言って、悠翔の右頬に飛び蹴りを入れて押す。傾く首。
「はい」
凹んだ頬で小さく答えた。
「それじゃあ、私は帰るわね。後はこの世界の人に聞いて、どうするか決めなさい。私に用がある時は、私に会いたいと念じれば通じるから。出来るだけ一人の時に呼ぶように。この世界の人に私は見えないけれど、たまに勘のいい人がいるし、なによりあなたが独りでぶつぶつ喋ってる所を、見られない方がいいでしょ」
「あー、はい」
悠翔の返事を聞くと、シムカは光の粒に戻って回り、徐々に薄くなって消える。
淡いやわらかな光に包まれていた部屋が、急に角を立て、人工的な直線と曲線の世界に戻った。
ハゲてないよ




