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ダンスウィズアームズ  作者: 陣駆
5/30

カタピラ渚にて

「君らの世界でも漫画や映画で核戦争による終末が予想されてるらしいじゃん。それが現実化したのがこの世界ってことだな。核戦争がいつ起こるかわからないって恐怖から、同盟国でかなり無理をして宇宙居住地の建造計画を進めていたそうだよ」

 そう言って花を食べるスグニィス。

「何とか防げなかったんですか」

 悠翔が眉をひそめて聞く。

「まあ 俺も生まれてない大昔のことだから、学校で教えられた受け売りだけど、一応、外交努力はされてたらしいよ。でも勃発的に起こって、連鎖反応の応酬で世界の半分が灰燼に帰したってさ。原因も色々な説があるだけで定かではないそうな」

 その言葉に視線を落とし、ため息を吐く悠翔。


「それは一度目のことで、俺たちの国アクスリアは関係無いんだけれど、流れてくる汚染物質で、ただでは済まず、防護服が必要な世界になってしまったと。その後しばらくして、元々仲の良くなかった隣国の動きとか、食料供給の不安やらなにやらで、結局もう半分の世界、俺たちの国アクスリアも戦争を始めたんだとさ」

「映画や漫画の話を、聞いてるみたいですよ」

 悠翔の言葉に少し笑い、続けるスグニィス。

「星が小さいからか、寒冷化も凄まじかったらしいんだ。陸の生物や植物はほぼ死滅したらしいよ。そういう事態に備えて種子や遺伝子を保存していたそうだから、今はかなり回復していると確認されているけどね」


「ああ、それで帰還作戦なんですか」

 目を見開いて聞く悠翔のその言葉に、鼻息を吐くスグニィス。

「そう、宇宙居住地に移住完了してから70年目、遂に帰還作戦が発動されたのさ……ま、これにも色々嫌な話がついてまわるんだけどな」

「嫌な話?」

「30年ほど前に人権なんたらで、出生人数規制が廃止されたんだ。その結果、人が増えていろいろ問題が起き始めてるのさ。その解消の為、人減らしの為に帰還作戦を急遽始めたんだろって話。帰還作戦に参加するのは、金の無い若者ばかりで、いろいろ優遇するとして募集したんだよ」

 コップの水を一口して続ける。

「汚染は解消されてるみたいなんだ。衛星写真が公表されてて、防護服無しで出歩いてる人々の姿や、生い茂る草木も確認されてる。ただ、本当に問題無いのかは、わからないからな……」


「なんで降りて調べてからにしないんですか?」

「ここへ戻れる確証が無いからさ。使われていた宇宙船発射施設が、何十年か前に破壊されてるのが確認されてね。また建設するには時間がかかる。ほとんどのものが機械任せで作ることが出来るんだけど、宇宙船ともなると、細かいチェックを技術者に頼らなければ怖くて使えないそうな」

 その言葉に、小さくうなずく悠翔。

「だから技術者とかの金持ちは、どうなってるかわからない下へ、すぐには降りたいなんて思わないのさ。このままこの居住地で暮らせば、なんの問題もないんだからな。まずは、金で釣った貧乏人を降ろして確認するってこと」


 悠翔は、スグニィスのその言葉に、眉を顰めつつも、しばし沈黙してから言葉を発する。

「今までに来た、俺の世界の人達は、その帰還作戦に参加して降りたって事なんですか?」

「そうだよ。ラスティン以外の3人な。悠翔が参加するなら4人目だよ」

 その言葉に眉を寄せ、首をゆっくり左右に振る悠翔。

「え? 参加して何をするんですか? というか、俺は元の世界に帰れないんですか?」

 首を伸ばして聞く。

「その辺の話は、明日するよ。ま、悪いようにはならないからさ、それは安心してよ。元の世界にも帰れると聞いてるよ」

 そう言って、麺をフォークにすくい上げ、口に入れるスグニィス。


「とにかく、この世界は君のいた世界の未来とかじゃないから。あと、空覇に聞いたんだが、君たちの星には70億人以上も人がいるんだろ? 本当に顎が外れるくらい驚いたよ」

「そうなんですか?」

「70億人も人がいるって、想像出来ないよ、多過ぎだろ。え? って思うよ」


 聞きながら、顔を伏せてのひとしきり。じっと見つめていたスープに浮く花をすくい、一息で吸い込む悠翔。

「悪くないだろ?」

 見とがめたスグニィスが、間髪入れず聞いてくる。

「ええ、少し甘みを感じるくらいで、クセは無いですね」

 呑み込んで答える悠翔。

「昔は、苦いのもあったりしたけれど、改良されたみたいでさ。空覇も綺麗でいいですねって褒めてくれたよ。リルターの奴は、えー、花なんか食べるのーって、でかい声出しやがって、失礼な」「申し訳ありません」

 悠翔の即答に笑うスグニィス。悠翔もつられて笑う。

「あの人は、ゲーム大会の中継でもいつも騒ぐ人なんで、勘弁してあげてください。あれでも結構人気者なんですよ」

「傍から見てれば面白いのかもしれないけれど、関わる者の身にもなってくれよ」


 聞きながら笑う悠翔が、サラダの葉野菜をフォークで突いて口に入れる。

「それ、どう? 嫌いじゃない? クセのある香りとか」

「え? これですか?」

 呑み込んだ後に、答える悠翔。小刻みに首を上下して続ける。

「ああ、香草ですね、嫌いじゃないですよ。食べ物の好き嫌いは無いんで」

「そうか、良かった。リルターが、なにこれ、これ嫌いって、大騒ぎしてな」

「香草が苦手な人がいるのは確かですけど、香草を使った料理が多い国もありますから、単純に習慣とか好みの差ですよ。美味しいですよ」

「そうなのか。こういうのを使った料理が多いんだよアクスリアは。空覇は何も言わなかったから、リルターの反応に驚いてさ。ひょっとして我慢してたのかと気になって」

 その言葉に、頬が緩む悠翔。


「しかし、さすが救世主、動じず堂々としてるな。空覇も落ち着いていたけれど、リルターは結構、青い顔してて不安丸出しだったぞ。若い方が対応力あるのかね」

 その問いに、ほんの少し間をおいて息を吐き、答える悠翔。

「まあ、とりあえず生命の危機は感じないし、心配するなと言われるし。夢かと思ったけれど、夢みたいなデタラメさは無いから、気を静めて対応するしかないかな、と思ってるだけですよ。動揺はしてますよ」

「悪いようにはならないってのは確かだから、安心してくれ」

 そう言って、スグニィスは顔を傾げて微笑んだ。


 しばしの時を経て、食べ終わる二人。

「よーし、喰った、喰った。さあ、今日からの寝る場所に案内するよ」

 食べ終わった悠翔に話しかけて席を立つ。食べ終えた食器を載せたトレイをカウンター横の返却口に置き、二人は食堂を出た。

「はい、これ」 

 ふいに何かを投げてくるスグニィス。

 とっさに受け取る悠翔。小さな四角形の塊。

「歯磨きガムだよ。その中身を口に入れて」

 そう言われて包み紙を解き、中身を口に入れる。包み紙はポケットに入れた。

 ガムと同じと思ったが、瞬時に泡立つ刺激を感じる。歯茎へのマッサージにもなる様な強い刺激だ。

「吐き出すなよ、噛んでれば無くなるから」


 暗い外へ出てしばし歩き、連れていかれたのは、何棟もある建物の1つの端の、2階にある部屋。

 開き戸を開けると 中は暗いが、入ると同時に明るくなった。かなりの明るさだ。淡く黄みがかった薄い灰色の壁。明かりの元は、天井の中央の正方形部分だった。面一で光っている。

 入口は横幅2メートルほどで、左右に物置の様なものがあり、奥には台所の様なものが見える。形状は見慣れない感じがするが、機能的にはほぼ同じように思えるものだ。冷蔵庫だろうものも小型だがある。


「トイレと浴室は、この引き戸の向こうだよ」

 台所と思えるものの、反対側を指して言いながら、上下の段差の前で靴を脱ぎ、上がるスグニィス。

 続いて靴を脱ぐ悠翔の顔を見て、投げられる言葉。

「靴を脱ぐ習慣があるからって、君たちの世界の未来じゃないからね」

「ああ、それはもう了解しましたので」

 右掌を前に扇ぐ。

「空覇が靴を脱ぐことに驚いてさ、空覇の国以外は脱がないからって」

「あ、それ違いますよ。他の国でも靴を脱ぐことが多いってテレビで見ましたから。思い込みの誤解だって言ってましたよ。脱がない国は昔程多くないって」

「そうなのか。まあ、普通に考えれば脱ぐよなあ」

 スグニィスはそう答えて少し進み、淡く黄みがかった薄い灰色の壁に右拳を軽く当てる。真ん中で段差があり、上部に四角い小さな窓があるので、戸であろうことは判る。窓はすりガラス状で中は見えない。ゆっくりと右へ横スライドする戸。

「早く開けたい時はこう」

 そう言って戸を右へ素早く撫でる。素早く戸が開く。中は暗い。


「ライト、オン。照度80」

 スグニィスがそう言うと、瞬く間に部屋が明るくなった。

 中へ入り、見上げて目を見張る悠翔。天井全体が光っている。格子も何も無い天井一面が光っていた。

 部屋は一人には十分な広さで、壁は全て淡く黄みがかった灰色の艶消しだ。床は薄い茶色で微妙に柔らかい。前方に小さな透明のテーブルと4つの茶色の椅子があった。椅子は単純なJ型の4本足だ。


 スグニィスに促され、そのテーブルに相対して座ると、これから調書を取ると言うスグニィス。持っていた鞄から小さな器具を取り出して右耳に装着すると、携帯端末を見ながら、親指で微調整をする仕草。

「これから、悠翔がここへ来た経緯を聞きます。映像と音声が記録されるから、虚偽の無いように」

 真面目な顔に、悠翔も息を呑む。

 どこの誰で、どうなってここに来たかを聞かれ、素直に答える悠翔。


 重機テロを停止させたのが、悠翔と知って驚くスグニィス。顔が固まる。

「建物とか壊しちゃったんで、申し訳ないです」

「いや、初めて動かしたんだろ? タルート」

 眼を見開いて、乗り出して聞く。

「ええ、でも、基本操作がゲームと同じだったんで、なんとかなりましたよ」

 スグニィスは、身を引くと、無言で首を左右に振り、横を向いてため息を吐いた。


 所持品も出して撮影される。

「この紙がお金というのは、何度見ても面白いな。紙は破れたり燃えたりして不都合だと思うんだが」

「あー、まあ、大昔からの継承なんで、仕方ないかもしれませんね」


「よし、終了。そしてこれが連絡用の携帯端末」

 そう言って、鞄から出した手のひらに収まる大きさの、黒色の薄い板の様なものを置く。

 手に取る悠翔。驚くほど軽い。

 スグニィスが、かいつまんで使い方を説く。

「へー、俺の世界のと大差ないですよ」

 悠翔のその言葉に、満面の笑みで話し出すスグニィス。

「右端をつまんで引き出してみて」

 言われて引き出す悠翔。薄いフィルムのようなものが引き出される。

「引き出したら、その端を裏へ折って」

 言われた通りにすると、20センチほど引き出された紙の様なものが固まり、操作用記号の並んだ映像が浮かび上がった。

 驚き顔の悠翔に、スグニィスがにやけ顔で声をかける。

「その右下を押して説明書を選べば、細かい使い方が表示されるから暇な時に読んでよ。上の方を押せばテレビとかも観られるよ」

 

 元に戻す悠翔。

「後は、ポケットに入れる少し前に、このボタンを長押しするといいよ」

 長押しすると、小さく音が鳴った。ポケットに入れようとする悠翔。

「いや、入れずに持ってて」

 そう言われて、持っていると、しばらくして携帯端末全体が、驚くほど柔らかくなった。その感触は蒟蒻のようだ。

 大口を開けて驚く悠翔の顔を見て、大笑いするスグニィス。

「凄いだろう。柔らかくなるから、ポケットに入れても違和感が無くなるんだよ。取り出してさっきのボタンをまた長押しすれば、すぐ元に戻る」

 そう言って立ち上がるスグニィス。


「この部屋にあるものは、君らの世界とほとんど同じらしいから、問題なく使えると思うぞ。あのリルターでさえ使えてたんだから大丈夫だよ。替えの下着もある」

 そう言って、引き出しを開け、中の衣料をつまみ上げた。

「サイズはこの黄色いタグの方でいいと思うぞ。青いのは大きいサイズだからな」


「明日はどうすればいいんですか?」

「明日はいつまでも寝てていいよ。起きたら連絡してくれてもいいし、さっきの食堂で味試ししてからでもいいから、今ぐらいまでには一応、俺に連絡してくれ。またいろいろ山のように説明するからさ」

 そう言って、玄関へ行き靴を履く。

「じゃ、よい夢を」

 スグニィスは、背を向けたまま右手を上げて振り、去った。

辛辛魚買ってきました

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