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ダンスウィズアームズ  作者: 陣駆
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まおか

ジム・ブラス警部の声をイメージして書きました

 五人目の救世主という言葉に驚く悠翔。

「ちょ」

 ベッキアに抱きしめられる悠翔。うめくが、お構いなしに強く抱きしめられる。

「おー、見知らぬ世界に来て相当緊張してるな、心臓の音が聞こえてきそうだ」

 左胸を掴まれる。

「そんなにドキドキしなくてもいいぞ。悪いようにはならないからな。私を信じろ」

 その言葉と抱きしめる力に暖かさが感じられ、悠翔の強張った顔が緩んだ。


「おいおい、慌てて撤収とは、建物を壊して気まずくなって逃げたのか? いろいろ手続きがあるんだから困るよ」

 額の広い丸顔の男の笑みを含んだ声。背広に似た服装で、小柄だが貫禄がある。40代後半くらいか。

「片方は上手くやれたが、もう片方は派手にやってくれたな。またぞろマスコミに叩かれるぞ」

 続く言葉。

「ああ、すまん警部。ちょっと事情があってな、行動記録の複製はすぐ渡すよ」

 悠翔を隠すように前に立つ。

「それより、なんで重機の管理が出来てないんだよ。おかしいだろ」

 ベッキアが、声を上げる。

「すまんな、最近の増改築の急増で重機の使用が増えていてな、遠隔操作可能な重機は、特に厳重に管理するよう通達されているんだが」

 首を傾げ、両手を肩の位置で開いた後に、言葉を続ける。

「倉庫に保管してあったものが、セキュリティを欺瞞して盗み出され、自律稼動するよう短時間で改造されたらしい。どうにも高度な技術力のあるテロ組織のようだ」


「まったく、早く捕まえてくれ。それから、銃が使えないのは仕方がないが、タルート3機しか出せない決まりはどうにかならないのか」

「それを私に言われても困るんだが、まあ今回のことで議論されるだろう、見ていた私もそう思ったからな」

 その答えに、口をゆがめて不満顔のベッキアだが、すぐに続ける。

「そうだ。病院まで警察車両で運んでくれないか。普通車じゃ着くまでに時間がかかりそうなんでな」

 首を傾げる警部に、ベッキアは悠翔の横に並び、掌で紹介するように見せると、薄く笑みを浮かべて続ける。


「コード030だよ。βのな」 

「なんと、また来たか。ああ本当だ。よしわかった手配しよう。おい、そこの」

 掌の携帯端末を悠翔に向けてそう言い、振り返って手を挙げ、後方の警官に呼びかけた。


 悠翔は目の前に立つ、今まで自分が乗って操作していたものに、目が釘づけになっていた。10メートルほどの大きさの人型をした兵器だ。太い円筒の胴体でずんぐりしている。ダンアーで使用しているスマートな機体との違いに、口元が引きつるが、嫌いでは無いものだった。自分が乗っていた部分は円筒の胴体中央だと理解する。薄緑色と灰色の色分けに、袖と裾に黄色のラインが入っていて、その金属の塊という威圧感と存在感はたじろぐ程であった。

 思わず近寄って足のふくらはぎ部分に触れる。稼働の熱なのか熱く感じられ、素早く手を引く悠翔。もう一度手を近づけ、それほど熱くないことを確認して触る。にやける顔。


「初めて乗って任務完了とは恐れ入るね。まあ相手が兵器だったら、こうはいかないだろうが」

 若い男、ベッキアと似た服装の男が声をかけてきた。悠翔が足を滑らせたのを笑っていた男の声だ。

「俺はリングァ、よろしくな救世主」

 右掌を顔位置に上げて、悠翔に言う。無言で小さく頭を下げ、応える悠翔。


「兵器じゃないから平気だろうと任せたんだが、本当によくやってくれたな、ありがとう悠翔君」

 ベッキアの声。

「あんまり平気じゃなかったですよ、舌を噛むところで……」

 悠翔も精一杯落ち着いて、しゃがれた声で答える。口腔内の渇き。唾が出ない。

「そんなに緊張してたか、少し待ってろ」

 ベッキアは少し笑いながら、倉庫端へ向かった。


「あー、俺のタルート、傷だらけじゃねーか!」

 息を切らせた男が走って来て叫ぶ。

「おう、クレファウ、酷い目に会ったな」

 笑うリングァの声。

「突然に外だぜ、わけわかんねーよ、なんなんだよこれ。ナルア公園から走って来たんだぞ、全く」

 クレファウは、前かがみで両膝に手をつき、何度も大きく息を吐いた。


「おお、クレファウ。ご苦労だったな。私はこれからこの子を検査に連れていくから、警部の相手を頼む」

 戻って来たベッキアはそう言って、悠翔に飲み物らしい小さなパックを投げて渡すと、ついて来るように手で促した。

「隊長、俺にもくださいよ」「自分で買え」

 ベッキアの返しに顔をゆがめながら、悠翔を見て目を見開くクレファウ。

「その子が救世主? あ、本当だ、識別帯が無い」

 クレファウと呼ばれる男が、腰から取り出した端末を悠翔に向けて驚く。


 悠翔に渡されのた、掌に収まるていどの小さな長方形の紙パックの様なもの。悠翔の世界のコンビニで売っているものとほぼ同じものだ。

 ストローはついておらず、ストローを挿す穴も無い。代わりに2センチほどの幅のシールの様なものが貼ってあり、剥がしやすいようにか1センチ程はみ出していた。

 悠翔は指でつまみつつ、思わずベッキア隊長の方を見ると。ベッキアは剥がすゼスチャーをして見せた。

 剥がすとストローが出てきた。自動で伸びてくることに驚く悠翔。シールも箱からは分離せず付いたままだ。

 口をつけ中の液体を吸う。染み渡る冷液。のどがカラカラだった悠翔は、恍惚の表情を見せる。適度な甘さの炭酸の無い冷液を、一気に飲み干して大きく息を吐いた。


「あれ、タルートって言うんですか?」

 ベッキアの後をついていきながら、人型兵器について聞いてみる。

「ああ、アクスリア軍が誇る名機タルートだ。ま、大昔の機体の一部を取り換えつつ、無理やり使っているシロモノだがな」


 連れられて行く道すがら、空になったパックをその辺に捨てるわけにもいかず、ストローを押し込めて手で畳むと驚くほど小さくなった。悠翔の世界のものと違い、ストローの固さに苛つくこともない、気持ちよく押しつぶせることに思わず何度も指で押さえる。そしてそれをポケットに入れた。

 そして別のポケットにある携帯端末のことを思い出し、取り出してみたが、当然のように壊れていた。

 うなだれた首をあげ、目に見える世界の違和感に気づく。人型機械に搭乗していた時にはそれなりに明るかった風景が、かなり暗くなっていた為わかりにくかったが、その違和感の最たるものは、地面が緩やかに内側へ湾曲しているという感覚だった。

 首を大きく左右に振り両側を見ると、明らかにそのどちらの側も丘のようになっているのが家々の明かりから判る。そのことは行き止まりを感じさせるに充分だった。


「うわっ」

 思わず声が出たのは、湾曲どころでは無いことに気づいたからだ。見上げた空に星は無く、なにやら人工的な構造物に覆われている。薄暗くなっていて判りづらいが、空では無く、屋内だということに気が付いたのだった。

「どうした?」

 悠翔の驚きの声に、振り返るベッキアの声、

「さっき、宇宙居住地とか言いましたよね?」

 悠翔は声を上げた。

「ん、 そうだぞ、ここはアクスリアの宇宙居住地の一つ、マコス居住地だ」

 目が点になる悠翔。にわかには信じがたい。

「え? ちょ? え?」

「まあ、そんなに慌てるな、徐々に説明するし、理解出来るはずだ。悪いようにはならないから安心してくれ」


 驚きつつ、しばしついて歩くと男の声がかかった。

「あー、軍人さん、こっちです」

 手を振る若い男の方へ向かう。制服から警官だろうと推測する。


 警察車両なのだろうことは悠翔にも理解出来た。4ドアの自動車だ。かなり小型だが、中は広々としていた。内燃機関では無いらしく、動き出しても音がしない。電気自動車か何かなのだろうと悠翔は思った。その車に乗せられ、窓の外に見える、日本のものとは明らかに違う街並みに目を奪われていると、短時間で大きな白い建物へ到着した。

 ベッキアについていき、中へ入る。多くの人々の行き交いは、悠翔が病院の風景として知っている、ごく普通のものだった。

「病院だ。ここで身体の検査をする。何も心配しなくていいぞ」

 ベッキアと共に奥へ進み、引き戸を開けて悠翔もに中へ入る。

 白い部屋であちこちに機械があり、机と椅子が左にあった。


「じゃ、検査するから全裸になりなさい」

「はい?」

 真顔で言うベッキアに驚き、目を丸くする悠翔。

「いいから脱ぎなさい。すぽーんと脱ぎなさい! すぽーんと脱いでポローンと出しなさい、ほら早く! すぽーんと脱いでポローンと! すぽーんと脱いでポローンと!」

 スパーンと、いい音がして、頭をはたかれたベッキアは右側に飛んで転がった。


「またお前か! ベッキア!」

 眼鏡を掛けた白衣の女性が、手にカルテのような薄い板を持って、目の前に立っていた。

「早いなおい」

 そう言って、後頭部をさすりながら起き上がるベッキア隊長。

「警察に、すぐ私に連絡するように言っておいたのよ。空覇の時みたいなことになると大変だから」

「ちっ」

「出てけ、外で待ってろ」

 そう言われて、唇を尖らせながらベッキアは外へ出た。


「はい、淫獣は退治したから、そこで検査着に着替えて」

「あ、はい」

 指差された、角にある着替えるための場所は、悠翔の知っている病院のそれと変わらない。カーテンを引き、置いてある検査着に着替えた。

「ここに立って」

 言われるままに立つと、右手に持った、手のひら大のドーナツの様な部品が付いた棒を悠翔の全身に上下させる。

「金属は無いみたいね。じゃ、あの扉の中へ入って、台の上に寝てくれる」


 そう言われて、奥の部屋へ入り、身体を完全に覆うことが出来る、大きな筒状の装置の前にある台の上に寝た。その台が移動して筒の中へ入る。テレビで見たことのある核磁気共鳴画像方式の装置だろうと悠翔は思った。

 おどろおどろしい音が鳴りだして装置が動き出した。顔が引きつりつつも10分程で音がやみ、身体が外へ出る。テレビでは1時間かかることもあると言っていたのに早くて驚くが、言われるままにした。

「ありがとう、終わったわ」


 その後は血液採取やレントゲンなど、簡単な身体検査をされた。

 筒状の機械からアラーム音が鳴り、白衣の女性が画面を細かく操作をすると戻ってきて悠翔に話しかける。

「今までの全員がそうだったけど、全く私たちと変わらないし、何人かが肺が汚れていた以外、健康そのものだわ。あなたも何一つとして問題の無い健康体よ」

「この世界の人間じゃないってことが、わかるんですか?」

 驚きながらも質問する悠翔。


「ええ、私たちは生まれてすぐ、国民識別帯というものを身体に埋め込まれるの。それはいろんな場所で必要になるのよ。あなたたちの肉体年齢までそれが無く、外した形跡もないなんてのはあり得ないのよね」

 顎を上下して納得する悠翔。

「国民識別帯の埋め込みは数日後よ。あとこれ、睡眠導入剤。慣れない状況に興奮して寝付けないようなら飲みなさい」

 そう言われて透明の小さな袋を渡された。中に錠剤が2錠見える。お酒は飲まないようにという念押しを後にして部屋を出た。


 所在無げに両腕を組み、壁にもたれて右膝を折っているベッキア隊長が、顔を上げ悠翔に声を投げる。

「終わったか、エッチなことされなかったか?」「おま、……されてませんよ」

 悠翔は即答しつつ、近寄ってくるベッキアに身構えた。


「お、来たな」

 そう言ってベッキアが指した先の人物は、長髪茶髪、アクセサリーを身にまとった、まるでチャラけた大学生の様な風貌の青年だった。

「それじゃあ、すまんが、私はやることが山ほどあるから失礼するよ。ここから先は彼が教えてくれる。あと、異世界人だとは誰にも言わないようにな。まあ言っても誰も信じないと思うが」

 悠翔の耳元へ、途中から小声で言う。

「ああ、はいわかりました」

「じゃあ、悠翔君……、いや君づけは失礼だな。この世界では君づけは子供扱いなんだ。悠翔と呼んでいいか?」

「ええ、構いませんよ」

「じゃあ、悠翔。何か困ったことがあったらここへ連絡してくれ。私はアクスリア軍、ベッキア大尉だ。ま、じきにまた会える」

 そう言って悠翔の右手を握った後、文字の書かれた紙片を渡す。

 ベッキアは少し離れてから振り返り、悠翔に投げキッスをして、出入り口に向かって去った。


「あー、君が悠翔?」

 ベッキアが指した大学生の様な風貌の青年が、手に持った端末を悠翔に向けて確認した後に聞く。


「俺はスグニィス。君たち異世界人のお世話をするように、言いつかっている者さ。わけわかんなくて混乱してると思うけど、落ち着いてくれな。ちゃんと説明するからさ」

 そう言って右手を差し出すので、悠翔も右手を差し出して握手をした。

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