ルマンドの袋の開け方をググって理解しました
悠翔は目を見開いて首を少し振ると、わずかに後ずさりした。
自宅の扉を開け、玄関先に入り、天井の灯りがつくやいなや、身の周りを何かが高速でグルグルと周回したからだ。
「早く、早く! 早く、早く!」
その興奮が感じ取れる、明るく高い声の主がシムカなのは、当然、瞬時に理解出来た。「早く、早く! 早く、早く!」グルグルは加速する。
「なんですか? シムカ様」「早く、早く!」
驚いて聞く悠翔の目の前に、浮いたまま止まるシムカ。
「早く出して、早く」「早く、早く!」また回りだす。
「え? 何を出すんですか?」
シムカは再び目の前で止まり、首を傾げての怪訝そうな顔。
「何をじゃないでしょ。昨日、私が頼んだお供え物、早く出しなさいよ。早く、早く!」また回る。
しばし以上の時が流れ、ずっと無言でいる悠翔に気を悪くしたのか、再び、シムカは悠翔の目の前で止まると、上目で睨みつけてきた。悠翔は気圧されて、辺りをグルりと見渡すように目を逸らす。
「あー、アレですね。あー、はい」
顔を上げてそう言いながらも、チラとシムカの方を見ただけで、目を合わせず伏し目がちにしながら続ける悠翔。
「今日はいろいろあって、大変だったんですよ、忙しくて」
再度シムカの方を、一瞬だけ見る悠翔。すぐ逸らす「明日、明日は買って来ますから! 明日でいいですよね!? 今日はもう遅いので」
その場をとりつくろうような、半笑いの悠翔の言葉にシムカの顔がみるみる変わった。眉間にしわを寄せ、目のつり上がった鬼のような形相のシムカ。
異様な気配に気づいてシムカを見た悠翔には、牙も見える気がした。
そして辺りが急に暗くなり、悠翔は周りを見回して慌てる。照明が消えてもいないのに突如として暗くなったのだ。照明はうすぼんやりとなって見えるが、部屋全体が不自然に暗すぎる。あまりにも違和感のある対比になっていて怖いのだ。その不自然さが、シムカの言う演出という超常の力なのだろうことは、容易に察せられた。
「なんですか!? シムカ様! 変な演出するのやめてくれませんか!?」
首を振って慌てる悠翔に、無言のシムカ。
続く無言に悠翔も固まるが、首と目が彷徨う。
長い無言の間に耐え切れず、慌て気味に悠翔がカバンから何かを取り出して口を開いた。
「今日は、これで。今日はこれでなんとかなりませんか?」
シムカの前に差し出されたのは、黒地に黄文字の未開封の菓子袋。激辛を謳う菓子の袋だ。激辛です。
「ちょっと辛いですけど美味しいですよ。辛いだけじゃなくてうま味もありますし、辛いのを食べて汗をかくとダイエットにもなるんですよ」
悠翔は早口でまくしたてた。
その言葉を受けて、しばし菓子袋を睨むように見ているシムカ。
そして次の瞬間、航空機が音の壁を突破する時の様な轟音を響かせると、右手で菓子袋を左斜め下へ叩き落とした。うっすらと白い霧のようなものが広がっていく。
悠翔は反射的に手を引っ込めると、身を縮めて震えた。目を見開いたその顔は蒼白だ。
怯える悠翔には一瞥もくれず、シムカは悠翔の眼前からゆっくり後方へ退くと、音もしない仕草で合掌をしてなにやら唱え始めた。
シムカの声が小さく、聞き取れない悠翔が首を延ばして耳を澄ますが、即座に身を引いて震えながらシムカに尋ねる。
「は、ですよね? は、ですよね?」
悠翔の慌て気味の声に、シムカは何も応えず詠唱を続けた。声は徐々に大きくなっていく。
「は、じゃないですか? は、ですよね? も、じゃなくて、は、ですよね?」「もげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろ」
「何がもげるんですかー!? もげまんせんよ簡単には、まだ若いですから!」「もげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろ」
首を振り、足踏みして慌てる悠翔。「なんですかー!? 何がもげるんですかー!?」叫び声が響く。
「もげるというと、鼻がもげるとか、首がもげるとか?」
顔をしかめながら悠翔がつぶやく。
「でも、鼻がもげたら生活出来ないですし、首がもげたら死にますよね?」
「もげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろ」「聞いてない、全然聞いてない」
悠翔の叫びにも全くシムカは動じない。
「なんですかー!? 何がもげるんですかー!?」
悠翔は何度か足踏みをして叫んでいたが、何も応えないシムカに窮して、顔をしかめながら口をつぐんだ。
そして鼻からの呼吸でゆっくりと息を整えると、詠唱を続けるシムカを静かに見据える。その姿勢のまま、悠翔はカバンのある場所へゆっくりと下がった。
「もげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろ」
シムカの詠唱だけが響くひと時。
長く続く自分だけの声に気が付いて気になったのか、シムカが薄っすらと片目を開けた。
その視線を見てとった悠翔が、歯を見せてにやける。
「だめですよ、そこは。そこはダメですからね」
悠翔は声を上げながらにやけた顔で両足を閉じると、少しかがんで片手で股間を押さえた。「ここはだめですよ。ここはもげませんよ。もげたら困りますから」
にやけた顔の悠翔の態度にシムカがギョッとした顔をして返す。
「見てないでしょ! なにも見てないわよ!」
頬を染めて慌てるシムカに、悠翔はさらににやけて騒ぐ。
「見た、見た。見ましたよ。ガン見しましたから」「見てないでしょ!」
「ここはダメですからね。ここは大事な所なので、もげたら困りますので「見てないでしょ!」
「いやいやいや、見た見た、見られました」「キャー、恥ずかしい。シムカ様のエッチ!」
「見てないわよ! 見てないでしょ! ハゲろもげろハゲろもげろハゲろ!」
両手を振って叫ぶシムカに、悠翔は吹きだしそうになりながら声をかけた。
「はい、シムカ様」
そう言って差し出されたのは、シムカに頼まれていた甘い菓子の袋。
シムカは口を大きく開けて笑顔になると、その場でクルクルと小さく回りだす「早く早く!」
部屋が自然な明るさに戻ったことに、悠翔はホッとしつつ袋を開け、中から個包装の一本を取り出してシムカに手渡した。
シムカは奪い取るようにして手元に引き寄せ、即座に個包装の袋の先を両側に引いて開き、中身を押し出すやいなやかぶりつく。
「おいひー」
歯を鳴らして咀嚼してから、ごくりと呑みこんで発する言葉と、シムカの幸せそうな笑顔に悠翔も微笑んだ。
「美味しいですよね。俺の世界にも似たようなお菓子があるんですけど、これの方が値段が少し高いせいか、舌触りがよりきめ細かくまろやかな感じで美味しいですよ」
悠翔の言葉も聞こえないのか、シムカは夢中で二口目にいそしんでいる。
しばらくして半分ほど食べ終えたシムカが、悠翔を少し睨むようにしながら声を上げた。
「どうして、すぐに出さなかったのよ」
「いや、危なかったんですよ、すっかれ忘れてて。辛い菓子が思いのほか美味しくて、もう一つ買おうとした時に思い出して買ったんです。すぐに出さなかったのは、今度は何を言い出すか気になったからですよ」
そういった後に、不満げな顔で悠翔が聞く。「何がもげるんですか?」
悠翔から目を逸らし、しばし間をおいて答えるシムカ。
「いろんなところがもげてバラバラになるのよ「それじゃ死にますよね?」
悠翔が驚きながら聞くと、シムカは少しだけ沈黙した後に小声で答えた。
「バラバラになっても死ねないのよ「ここは地獄なんですかー!?」
大声で叫び、首振って騒ぐ悠翔。
「うるさいわね、細かいことをゴチャゴチャと。そうならないようにしっかりやりなさいということでしょ」
睨んで言うシムカを、顔をしかめて見つめてから悠翔がぼやく。
「いろいろおかしいですよね。そもそも願掛けは、神様に、することで、神様が、することじゃないのに」
「何言ってるのあなた!」
悠翔の言葉に首を延ばして驚いたようなシムカの声。
「今ごろ何言ってるの? どうして今まで聞かなかったの? 何年経ってると思ってるのよ!?「いや何年も経ってません、経ってませんよ」
「いや、おかしいなと思いましたけど、その辺は設定でどうにでもなるかなとも思いまして」「何が設定よ」
そう言った後に一本目の菓子を食べ終わったシムカが手を出すので、悠翔はもう一つ菓子をシムカに渡しながら、続ける。
「シムカ様は神様でいいんですよね「そうよ」
「願掛けはシムカ様の世界の言葉を、俺の世界の言葉にする時の変換ミスかなとも思いましたが、他の言葉でおかしく感じるものは無いですし、言葉に関しては「わかる」感覚の方が強いと感じてましてたから、変換ミスとは思えませんでした」
聞いているのかいないのか、シムカは二本目にかぶりついている。
「そうなると、どう考えればよりよくシムカ様の世界のことを説明出来るのかが問われることになりますので、あれこれ考えた末に、たぶんこうだったんじゃないかなと思いついたんですよ」
悠翔の不敵な笑みに、全く反応しないシムカ。
「シムカ様は、祈祷しているカルなんとか様という方の代わりに俺の所に来たとも言いましたし、神様だけど修行の身とも言いました。それは役割としての階級差があるということですね」
悠翔は少し顎を上げた後に続けた。
「恐らくはこうですね。シムカ様の世界の始まりのご先祖様は人数も少なく、大きな力を持っていて、空は裂け海は割れ、大地が崩れ山がそそり立ついうようなことが出来て、この世界や俺の世界を創り出したんでしょう」
「しかし神様が増えていって、大きな力が使える神様も増えると、当然いろいろと問題も出てくると思えます。おのずと力を行使する者の資格を問われたり、階級的なものによっての制限などが出来たんじゃないですか?」
「もしくは、力を分離してどこかへ集めて、使う場合は合議制で決められるとか。いずれにせよ大昔と違って、個人の好き勝手で強大な神の力が使えなくなっているという世界ですね。これなら願掛けという言葉でもそれほどおかしくはない」
そう言ってからシムカの方を見るといないので、部屋を見渡すがいない。左手に持っていた菓子袋に違和感を感じて見ると、シムカが菓子袋を掴んで中に手を入れていた。
「なんですか、シムカ様」
悠翔が菓子袋を胸元へ引き寄せると、シムカは中から一本の菓子を取り出して悠翔から離れた。
「そんなことはどうでもいいから、早く全部よこしなさいよ」
睨むシムカに困惑しつつも悠翔が答える。
「一日三本までにしようと思ってたんですけど」「一本余るわね」「いや俺にも一本くらいですね」
「あなたは買った日に10本食べたんでしょ? 私にも10本よこしなさいよ」
しまったという悠翔の顔。
「いや、俺は訓練で運動してますけど、シムカ様は食っちゃ寝ですよね「誰が食っちゃ寝よ」
悠翔は少し笑いながら続ける。
「こんなに甘いものを一度に10本も食べたら太りますよ「私は太らない体質なんですう」
さすがの悠翔も顔を引きつらせた後にため息をついて言う。
「俺の姉ちゃんみたいなこと言わないでくださいよ。後で大騒ぎになってとばっちり喰うのは嫌ですからね。三本しかあげません。ダメ絶対」
そう言って横を向いた悠翔をしばしの間シムカは睨みつけていたが、憎まれ口をたたくと奥の部屋へ行ってしまった。
「ふん、ケチ、どケチ」
それからずっと、悠翔とシムカは目も合さず、口も聞かなかった。
寝る前になってようやく悠翔が、食事用テーブルの前からシムカのいる方に話しかける。
「ここに置いておきますけど明日になるまで食べたら駄目ですよ。音がしたり、灯りがつけば気が付きますからね」
シムカの返事は無い。
そして、悠翔もシムカも寝静まり、草木も眠る丑三つ時。
バタバタと騒がしい音がして悠翔が目覚ます。耳を澄ますと蛇口を開けて水が流れる音がした。
笑いを堪える悠翔。
悠翔はシムカが食べた後の個包装を回収し、辛い菓子を入れて菓子袋に入れていたのだった。開封部を薄いテープで閉じるということまでしている悪質さだ。
未開封の側を手前にして縦に入れておいたので、灯りの無い暗い中、手探りで掴んで食べたシムカが、そのことに気付くことが出来なかったのだろうことは容易に塑像がついた。
悠翔は掛け布をかぶり丸くなるが、しばらくの間揺れが止まらない。静寂の中で水の流れる音がしばらく続いた。
おっさんなのでもげそうです。
26話のシーン、悠翔のタルートがイラディムのタルートがいる横の建物の真上に立ち、擲弾を落とすというシーンに追加して直したいことを思いつきました。
落とされた擲弾の爆発に怯んだのかイラディムのタルートは後方へ跳躍して離れたが、すぐさま悠翔のタルートを追うように建物の壁の端に跳躍する。
しかし既に反対側の壁の端から降りようとしていた悠翔のタルートが、イラディムが着地しようとしてる壁の端の足元に擲弾で撃ちこんでいた。
着地と同時に足場を崩されたイラディムのタルートは、バランスを保てずに落下する。
慌てるように崩れていない壁の端へ跳躍し、更に反対側の壁に立った時には、既に悠翔のタルートの姿は見えなくなっていた。
ということにしてください。
ここで問題になるのが「建物」がよくわからないことですねハイ。序盤で説明すべきことなのに、戦場になる建物の設定はいまいち決められなくてうやむやにしていました。
一応アメリカの郊外の集合住宅みたいなイメージで、同じ形の家がずらりと並んでる感じで考えてましたが。
いつまでもハッキリしないままにしておくわけにもいかなくてなんとか決めたのが、タルートが隠れられる高さの建物でタルートが立てるほど壁が厚いということ。壁の厚みは放射線を遮蔽する為の細工がある故の厚みということです。
基本として土地に余裕があり、核戦争への強い危機感から高い建物はほとんど無いという世界です。
タルートが隠れられるほどの高さの建物を一世帯の建物にするか未だに決められずにいまずが、そういう建物が立ち並んでる場所。戦争で破壊された区域もありますが、ほとんどが戦争の被害を受けておらず無傷で残っている建物が大半です。
政府の考えで、万が一の際に戦場として使用することになったということで、故意に壁を切り取ったりして遮蔽物に使えるように工作されています。
無傷のまま壁だけにされていたり、二角を切り取りながらも天井は残っていたりと様々です。
これらの説明を聞いた悠翔が「まるでゲームのステージみたいですね」と言うことになります。今更書き直しませんが最初の方でそういう説明があったということにしてくださいすいません。




