機を見て敏なり
イラディムとの対戦が始まり、追い立てられる悠翔の機体。今までの対戦とは、うって変わったイラディムの機体の動きに翻弄されてしまう。
突撃してくるイラディムのタルートは、擲弾で悠翔の行く先をけん制しつつ防御波弾を消費させ、機体を狙ってライフルを撃ってくる。擲弾の速度はそれほど速くはないのでかわすのは容易いが、主力となるライフルからの銃撃との絶妙な組み合わせに、悠翔は緊張を強いられた。
「おいおいおい、なんだよその動き。俺に声かけられてビビってるのか? 今までと違い過ぎだろ」
そう言って笑うイラディムの声は威圧的だ。
「そっちこそ、今までと違い過ぎじゃないですか。時々おかしなフェイントを入れて方向を変えたり、妙に無駄な間を取ったりしていたのは、わざとだったんですね」
悠翔の言葉を聞いたイラディムが、大声で笑ってから言う。
「あれはやり過ぎかと思ったが、思ってた以上に早く気が付いて攻め立てて来たのには感心したぜ」
悠翔は大きく息を吸った後に叫ぶ。
「そういうの嫌いなんですけど!」
怒りを込めてイラディムのタルートを銃撃するが、数発がタルートの前腕をとライフルをかすめただけで手ごたえはない。
「今日は、俺の本気を見せてやるよ」
攻防はしばらく続き、どうにも気圧されて敗走気味の悠翔は、建物の残骸の角を曲がった。その先にある壁だけの残骸の裏に回る。
だが、イラディムのタルートは現れなかった。
すぐに追いつくだろうイラディムを、迎え撃つつもりだった悠翔は少し戸惑い、イラディムがいるはずの来た道を少し戻ると、遅れたようにイラディムのタルートが現れて撃ってきた。
タイミングを外された格好になり、悠翔はまた受け身に回ることになる。
顔をしかめた悠翔が、少し多めにイラディムのタルートへ銃撃。
それを、見事な機体さばきでかわすイラディム。
「今日はいつもより無駄撃ちが多いんじゃないか? 俺から逃げるにしてもビビり過ぎだろ」
嫌味な声。
悠翔は歯を食いしばった後に、大きく息を吸いゆっくり吐き出しながら言葉を返す。
「イラディムさんて、そんなによく喋る人だったんですね」
それからもしばらく形勢は覆せず、黄色くなった残弾計が目の端から離れない。悠翔の方から攻勢をかけるのは難しい状況だった。
「発煙弾を使って逃げてもいいんだぜ」
窮した悠翔を見透かすようなイラディムの言葉。
悠翔は少し間をおいてから、口語で書かれた文章を流して読むように、抑制された声で言い放つ。
「対戦時間短縮の為、発煙弾の使用は控えて欲しい。禁止ではないが使えば大きく減点されて対戦相手に加点される。勝つ為に使うかどうかは自分で決めろ」
それは判定戦を伝える時に聞かされた、ベッキアの言葉だった。
「くそ、憶えてたか」
鼻で笑うようなイラディムの声。
その一瞬を突いて、悠翔のタルートが発砲。イラディムのタルートに少し回り込むように動き、水平から少し振っての5発の撃ちこみ。最後の2発は少し遅らせる。
2発が防御波弾に弾かれ、1発が空を切り、そして2発がイラディムの機体の肩をかすめて火花が散った。
しかしイラディムのタルートは、怯むことなく追ってくる。
「おお、危ない危ない。しかし、今ので残弾が5発になったな。さてどうする?」
イラディムの言葉に悠翔は仰天した。モニターに表示される残弾数も5発だからだ。
「何、黙ってる? 残り5発を言い当てられて、声も出ないか?」
「そっちだって、そろそろ弾切れでしょう?」
怒気を込めて悠翔が聞くが、イラディムは茶化すように答える。
「残念。少し前に交換してるんだなこれが。気づかなかったか?」
思い出して小さく舌打ちする悠翔。先刻イラディムの攻勢が不自然に遅れた時のことだろうと気がついた。
「交換にかかる時間なんてたいして長くないだろ。さっさと交換したらどうだ? この俺がそれを見逃すと思うならな!」
悠翔が移動しても、即座に付いて回ってくるイラディムのタルート。弄ぶかのように擲弾を数発放つだけで、銃撃はしてこない。
悠翔が激しく移動する機体の中で、ライフルの情報を映すモニターに目をやると、弾倉交換不可の意を示す文字が表示されている。機体の速度が落ちれば可の意の文字に変わるのだが、機体の速度を上げればすぐに不可に戻った。
「発煙弾を使えよ、発煙弾を! けむに巻くって言うだろ?」
そう言ってから響く、イラディムの嘲り笑う声。
悠翔もさすがに腹に据えかね、凄まじい形相になるとタルートを加速させた。
即座に追随するイラディムのタルート。同じ性能の機体、大きくは引き離せない。
しかし、追うイラディムのタルートを、意にも介さぬような無駄のない動きで建物の残骸の角を曲がる悠翔。左に建物の残骸、右は壁だけの残骸という、以前通った場所だ。正面に建物の残骸の壁があり、道が二手に分かれるが、どちらに行こうと身を隠す前に追いつかれて見られてしまうのは明白だった。
悠翔は角を曲がると、躊躇なく操作してタルートの左手を使い、機体の右肩後ろに装備されている3本の短剣の内の1本を掴んで捻り投げた。
その短剣が正面の壁の中ほどに突き刺さるやいなや、タルート全体を左に旋回させつつ低く跳躍する。そして壁に刺さった剣の柄を踏み台にして、来た方向へ大きく跳躍した。
イラディムのタルートが追いついた時には、左側の建物の上の端に着地。イラディムのタルートがいる場所のすぐ上だ。
イラディムが気づいたのかライフルを向けようとするが、その時、悠翔はタルートの頭を左右に振ってばら撒いたいくつかの擲弾を起爆させた。
撃ち当てていない擲弾の威力はタルートの装甲には軽微な損傷しか与えられないが、イラディムのタルートは一瞬怯んだようになり、追う為に壁の端に跳び乗った時には、既に悠翔のタルートの姿は見えなかった。
イラディムの舌打ちを聞き、悠翔は大きく鼻息を漏らしつつ弾倉の交換を開始する。
そこからは思いのほか早い展開となった。悠翔のタルートの動きは明らかに俊敏機敏になり、イラディムと互角以上に立ち回る。
そして。
そこは先刻、弾倉交換の為に利用した建物の配置とさして変わらない場所だった。
建物の残骸を曲がった正面のその先は、建物の壁あり道が左右に別れている。右側は壁だけの残骸で、回り込もうとしても窓の穴から見えてしまうだろう点も同じだ。
しかし違う点もあり、左側の建物の残骸の奥側と正面の建物の残骸の右側は大きく壊れているので、左右の道どちらへ移動しても機体が見えてしまい、わずかに姿をくらますことさえも出来ない。
そこへイラディムの機体が追いついた。前方の壁には以前と同じように壁に剣が突き刺さっている。イラディムもそれを視認したのか、左に機体を旋回して上を見上げた。前回と同じように悠翔の機体が上にいると思ったのであろうが、そこに悠翔はいなかった。
その直後、イラディムのいる場の左側の建物の残骸、その窓の穴の隅に置かれていた擲弾が爆発する。当然、防御波弾が消費されてイラディムの機体には何の損傷も無い。
しかし、それを機に始まるであろう悠翔のから攻撃を察知したのか、イラディムは機体を更に深く左に旋回して、後方からの悠翔の攻撃に備えるような体勢をとった。
その時だった。
前方右側の、壁だけの残骸を悠翔のタルートが跳び越えてくる。悠翔は壁だけの残骸の端に潜めていた機体を、壁に刺した剣を踏み台にして大きく跳び越えさせたのだった。
機体は空中で横向きに一回転し、イラディムのタルートを上方からライフルで連撃しながら着地する。
イラディムのタルートも即座に反応して機体を左に旋回させるが、右持ちのライフルの銃口が悠翔の機体を捉えるには時間がかかり、悠翔が反撃を避けるように機体を斜め前方へ進めながら撃ち続けたこともあって、わずかに間に合わず胴体左下部を撃ち抜かれた。
悠翔のタルートは勢いあまって建物の残骸に激突するも、大きな損傷は無い。
イラディムのタルートは動力までは失っていない為、そのまま立ち固まっている。
機体を立て直す悠翔。相手パイロットの死亡と判定され、悠翔の勝利が画面に表示された。
悠翔は何度か息をついた後に、慌ててイラディムに聞く。
「一つだけ教えてください。俺のライフルの発砲を、数えてたんですか?」
しばしの沈黙の後、イラディムが答えて通話を切った。
「うるせえ、サルギィに聞け」
俊敏機敏と書きましたがおかしくないですよね? 俊敏と機敏の違いは調べたらすぐわかったので「なら重ねてもいいかな」と思うと同時に既に誰か使ってるよねと
ググったら誰も使ってないのか出ない すごく不安 俊敏かつ機敏ならとググっても出ない えーと思ったけど 間違ってる気もしないので使いました
ライフルの残弾がわかったのは答えをひっぱる必要もなにも無い普通の仕掛けです 普通だけどイラディムが説明するとも思えないので
あと壁に隠れてた悠翔がどうやってイラディムの機体の様子を見ていたのか これはここで突然「ヘビみたいなカメラがある」とするのはおかしいと思ったので
耳を澄ましてイラディムのタルートの足音を聞いていたということで(笑) 音量上げれば判りやすいし 目視しなくても確信して行動出来るのが悠翔の才能です(笑)
意外と壁の端から機体をはみ出しつつ悠翔が見ていても イラディムが壁の剣から即座に左上に視線を移して爆発で攻撃を予期したら気づかないかなとも思いますが無理かな
本当は25話で判定戦 今回でシムカ様との再戦だったのですがとても無理でした




