25話です
続きはすぐ出来ると思いますので
「イラディムさんて、そんなによく喋る人だったんですね」
いつもよりゆっくりと、少し低く単調に放つ悠翔の言葉。
殺気だった勢いで突撃してくるイラディムが駆るタルートに、悠翔は応戦しつつも逃げるように移動するしかない状況だった。
悠翔は建物の残骸の角を曲がり、イラディムが追いつく前に右側の壁だけの残骸側から裏へ回ろうとする。しかし壁の窓の部分の穴から悠翔の機体が見えているのか、イラディムに即座に対応され、形勢は覆らない。
歯を食いしばりながら逃げ惑う悠翔。操縦席のモニターにあるライフルの残弾計は黄色くなり、残りが少ないことを示していた。
それはシムカと一騒動があった次の日で、技能判定戦の日のことだ。
悠翔はいつものように起きると、当然のようにシムカはまだ寝ているので、静かに支度をして外へ出た。
昨日のこともあり、悠翔はいつもの時間より少し早めに食堂へ着くようにしていたのだが、既にいつもの席にスグニィスが座っているのが見える。
悠翔が注文をしつつスグニィスを横目で見ると、食べている様子は無く、座ったまま両腕を組んで悠翔の方を睨んでいるようだった。
注文を終えて席へ歩いていく悠翔。顔を伏せ気味にスグニィスの方は見ず、スグニィスのいる席の手前で右に90度曲がると、離れた席の椅子を引い「おい!」
スグニィスの声が上がり、冗談ですよと笑いながら、悠翔は戻ってスグニィスのいる席の前に座った。
「笑い事じゃないからな、昨日のことは」
少しきつめな言い方だが、顔が少し緩んでいてホッとする悠翔。
「じゃあ。昨日のことを洗いざらい吐いてもらおうか」
スグニィスにそう言われ、悠翔は深呼吸をして頷きながら、いきさつを話し始めた。
まだ時間が早い為か食堂に人は少なく、奥の席にいる悠翔たちの周りには誰もいない。
「おいおい、大丈夫なのか?「大丈夫ですよ。触れば痛いですけど、ほとんど問題ないです」
そう言って、手のひらを開いたり閉じたりして見せる悠翔。
「この世界は本当にすごいですね。骨折用の接着剤は俺の世界でもニュースになったことがありますけど、実用化なんて、まだまだずっと先の話みたいでしたよ」
「怪我のこともあるが、こんなことした犯人突き止めなくてもいいのかってことだよ」
「またその話ですか、もう犯人捜しはしないと言ったでしょう?」
うんざりした顔をする悠翔に、スグニィスは少し小声になりながらも続ける。
「そうだけど、そんな怪我をさせられて、今後もまた何かしてくるかもしれないだろう?」
「もう無いと思いますよ。それに手加減しない以上、こういうことには用心するべきで、油断したと思ってますし」
「その手加減しないってのは何なの? なんで?」
スグニィスが怪訝な顔をしながら首を伸ばして聞く。
「なんでって俺が手加減されるのが嫌いだからですよ。勝てないなら自分が足りてないだけで、勝つためにいろいろ考えなきゃいけないだけの話なのに。手加減するなんて相手をバカにしているとしか思えないですからね。されたら腹立ちますよ俺は」
「いやそんな大げさに考えなくても、どこがダメなのか教える感じで相手してくれるなら、バカにされてるのとは違うだろう?」
「そういうのはなにか上から目線の気がして、されたくないしやりたくないですね。基本的によく知らない人とやるわけだし。俺はボコボコにやられる方が納得出来ますから」
スグニィスが少し顔をしかめて首を傾げるのを見つつ、続ける悠翔。
「もっと言うと、前にも言いましたけど俺より上手い人なんてたくさんいるんですから、俺がやることじゃないですよ、そういうのは。俺にはそんな余裕はないです」
そうまくしたててからひと息つくと、続けてつけ足すように言った。
「だから ここの訓練で対戦した後に言葉でアドバイス出来ることに感心したくらいですよ。聞いてもらえずに切られたりしますけど、言葉なら上手く使えばやんわりと伝えられますからね」
「めんどくさいんだな悠翔は」
スグニィスは少し呆れた感じで首を振りながら身を引いて笑い、それ以上は何も言わなかった。
食堂に徐々に人が増えていき、室内も温まっていく。
注文した朝食を持って戻り、座りながら悠翔が話しかけた。
「そういえば、これは言わなくていい余計なことかもしれませんけど」
そう言って少し悠翔は口ごもるが。
「なんだよ言えよ」
スグニィスに促される。
「昨日のことで、スグニィスさんの推理も一理あるとは思いましたけど、やっぱり距離が遠過ぎると思いますよ。元ネタはすぐそばの窓からなのに、あれだけ距離があるといろいろ難しいんじゃないですか?」
「そうか? まあ俺も推理物は好きだがそこまで詳しくないからな。ただ、あれと同じ理屈で出来るだろうと気付いただけの話で」
「気になって調べたら、この世界にも当然、超低速で回るモーターがありましたよ。小型で静音で高トルク。それを携帯端末で操作出来る工作キットまであるんですから、それを使って隣に置いた箱から糸を巻き取るとかすればいいんじゃないかなと思って」
それを聞いているスグニィスが不満そうなに表情になったことに気付き、悠翔が少し慌てる。
「いや、言いたいことはスグニィスさんの推理の否定じゃなくて、あの場にいれば操作することは可能だから、誰がやったかは簡単にはわからないということですよ」
「ああ、まあ、確かにな。あれ? じゃあ」
何かに気付いたのか、続けて言おうとするスグニィスを悠翔が少し睨む。
「犯人捜しはしませんからね」
「わかったよ」
スグニィスはそう言って、唇を尖らせると首をすくめて横を向いた。
食事を終えてしばらくしてから朝会に出ると、珍しくベッキアがいて視線が止まる悠翔。そして最後に訓示があった。
「今日の技能判定戦だが、まだまだこの先の訓練も長いのだからさほど構える必要も無い。各自がこれまで学んだことを活かして挑んでくれ」
「通話はいいんですか?」
前方の誰かの声が飛ぶ。
「通話も訓練の時と同じように各自の自由だ。現実の戦いで、敵パイロットと会話するような馬鹿馬鹿しいことはあり得ないが、初歩の訓練だから気にせず使え。ただし、暴言が過ぎる者は減点するがらな」
そして解散となったが、ベッキアが思い出したかのように付け加えた。
「敗退後は視聴覚室で各自の端末とつながるようにされているから、他の者の対戦を見て糧にしろ。対戦によっては、実況好きのアホ教官が解説してくれるそうだから聞いてやってくれ。切ってもいいがな」
そして技能判定戦の開始となった。通常なら実機での訓練をする班も集合した為に通路が混雑したが、通知されていた順番に従って入室し、対戦が行われていく。
悠翔の順番も来るが、2戦をなんなくこなして勝利。そして3戦目の相手、それが件のイラディムだった。
「よう、今日は本気でやらせてもらうからな。覚悟しろよ」
初めてまともに聞くイラディムの声。その斜めに睨みながらも笑みを含んだような重い声の鋭さに、悠翔は身動き出来ず、目を見開いて戸惑うしかなかった。
また遅れましたがこの回は以前からどうしようか悩んでたのでお許しを




