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ダンスウィズアームズ  作者: 陣駆
22/30

歯のない翼ではなくプテロダクティルスでした

 悠翔は医務室から実機訓練場へ戻ろうと通路を歩いていた。何やら足取り軽く、つり上がった口角。包帯を巻かれた右前腕を胸元に構えている。その腕を表裏回しながら、右掌を広げて握るを繰り返すと、一瞬顔がゆがんで、腕を縮こめた。慌てて包帯をさすりながら歩みを進める。

 しばらくして扉を抜けると、悠翔が怪我をした場所の外側の通路に出た。先へ行けば、箱が落ちてきた棚の裏側仕切りへの出入り口がある。通路の部屋側には等間隔で窓があるが、そのうちの一つだけが少し開いていた。

 悠翔が立ち止まり覗くと、窓側越しの横にある棚に多少は視界を遮られるが、悠翔が怪我をした時に立っていた棚の前が見渡せた。そこにはスグニィスやサルギィたちが立ち集まっていて、わずかに強さを感じる語気で、それほど激しくはない言葉のやりとりがされている様が見えた。悠翔は眉を上げ、小走りで出入り口まで行くと、ほんの少しだけ出入り口の引き戸を開けた。

 声は聞こえるがスグニィスたちは見えない。それもそのはず、仕切りがあってその裏が棚なのだから。

 悠翔は眉を寄せると取って返して通路に戻る。そしてスグニィスたちが見えやすそうな窓に手をかけて、少しだけ引いてみた。鍵はかかっておらずすんなり開く。窓のそばには棚にもたれかかった見知らぬ隊員の一人がいて悠翔に気が付くが、悠翔は鼻前に左手人差し指を立て、無言で懇願した。相手の軽い会釈で何事も無く収まる。


 スグニィス、サルギィ、イラディムらの姿が見える。ベッキアも見えた。聞こえてくるスグニィスの声。

「だから、これだけ重いものが入った箱が自然に落ちるわけないだろ。誰かが落としたんだよ。そして落としたのは」

「落としたのがイラディムだという証拠があるのか? ここから離れた奥にいたんだぞ」

 即座に答えるサルギィの声に、わずかに感じられる怒気。

「そのへんのことを、今から俺が説明してやるよ」

 サルギィの睨む目線を見もせずに答える、誇らしげなスグニィスの声。さらに続く。

「コレだ。今、俺がはしごを使って棚から取ったのを見たろ? これはボルトだよ。おそらく箱のケツをわずかに浮かせて傾かせるためだろう」

 手に取ったボルトを振って見せつけるスグニィスに、何の為に浮かせるんだと問うサルギィ。スグニィスが続ける。

「まずこの箱だ、落ちてきた箱。樹脂製で蓋ははめ込み式、上部に縁がある。ここに糸の付いた針金か何かをひっかけることが出来るのさ。糸はおそらく釣り用の透明度の高い、細い糸だろう」

 周囲は静まっている。


「そして細い筒、ストローか何かを短く切って、粘着力の弱い養生テープとかで、棚裏や支柱に留めて、見えにくいように配置して糸を通していくわけだ。いきなり一気に引くと針金がもたないから。ゆっくり引いて、箱が落ちるのを確認してから一気に引けばいいってことさ。硬すぎない針金なら引っかかることなく引っ張れる。そういう仕掛けさ」

 スグニィスは勝ち誇ったような表情で顔を上げて喋り終え、サルギィの方を見て無言で問う様に首を傾げた。目を逸らすサルギィ。


「あれ、それって」

 見知らぬ隊員の声。何かに気づいた、何かを思い出したかのような顔つき。

 スグニィスが即座に呼応する。

「そう、この仕掛けは「名探偵ドイルさん」であった仕掛けだよ」

「ああ、本当だ。確かにそうだ。あったよね、この仕掛け。ドイルさんで」

 スグニィスの得意げな言葉に、見知らぬ隊員が破顔して同調する。

 ざわつく周囲。多くの者も気づいたのか、顎を上下して同意しているような声を上げ、周りを見ている。あったあったと言う様に。

 サルギィもイラディムも険しい表情ながら黙って聞いている。


「まあ、悠翔に勝てなくて腹立つってのは判らなくはないんだよ。俺も初めはむかついたし」

 少し自嘲気味に話し出すスグニィス。

 スグニィスは自分も手加減しない悠翔にカッとなったが、暴力なんか絶対に振るわないと続ける。

「そんなことには意味が無いからな」

 そのスグニィスの言葉に頷く悠翔。


「イラディム以外の何人かにも話もせず切られてると悠翔から聞いて、それなら少しは手加減しても良いのではと言ったんだが、悠翔に即座に拒否された」

 そう笑って続ける。

「腹を立てるよりも、どうやったら勝てるのかを即座に考えられるように訓練しなければ死にますよって、睨んで言われたよ。戦争なんかしたこと無いですけどねって笑ってな」

「いや言ってない、言ってないですよ、そんなこと」

 慌てて独り言が出てしまう悠翔。鼻が鳴る。


 その言葉に場が静まってなお、続くスグニィスの言葉。片付けが終わり、既にいつもなら解散している時刻なのだが、皆黙って聞いていた。


「明日は仮想訓練機での技量判定戦だ 高い賞金はわずか2名のみ。急に現れた悠翔のせいで3位になる可能性が高くなった者には面白くないだろうなあ」

 誰もが気づくであろう、冷笑気味のスグニィスの嫌味な抑揚、イントネーション。

「いいかげんにしろよ、てめえ」

 身を乗り出したサルギィの怒声が響き渡り、しんとする。場が凍るとはこのことだ。


「イラディムがやったと言うのなら、証拠を出せ!」

 続くサルギィの怒声。大きく響く。


 悠翔は目を見開くと、身を引いて通路で身を屈める。そして右腕の包帯をとめてる薄いテープに爪をかけた。

 伸縮性のある長袖をまくって怪我をした右前腕に包帯が巻かれていたのだが、悠翔は慌てて包帯をほどき、貼りつけた時よりも硬さが増している薄い樹脂性の添え木のようなものも剥がした。そして、辺りを見回すと、通路の外側の窓を開けて放ってしまう。

 そして意を決したようにつばを飲み込むと、出入り口の戸まで走って中へ入る。


「なんだよ、俺は間違ったこと言ってないと思うぞ。普通に誰もが思い至る話だろ。証拠は今から」

 スグニィスの言葉が終わる前に、悠翔が慌てて声を上げ、スグニィスのいる場へ躍り出た。なんともなかったから犯人捜しは必要ないと叫ぶ。


「止めてくださいよ。なんともなかったですから」

 赤みがかった右腕を上げて見せる悠翔。

「こんなに騒ぐことじゃないですよ。なにかの拍子に箱が落ちただけかもしれませんし」

 その悠翔の言葉に、何かを言おうとするスグニィスを制すように悠翔が続ける。

「イラディムさんがそんなことをするとは俺には思えませんね。もし、腹を立てて何かするなら、直接胸ぐらを掴まれて殴られるとかされてますよ。それくらいみんなも判りますよね」

 悠翔に頷くような場の雰囲気。大勢の首が波の様に動いている。


「ああ、俺もそう思うな。そういうことはするなと何度も言っているし、そんなことはしないと俺は信じているが」

 サルギィの落ち着いた鋭い声。


「だから、そうじゃなくて明日の……」

「それは、なんともなかったんだから、失敗ということで終わりですよ」

 話を戻そうとするスグニィスの言葉を、遮るように即答して右腕を振る悠翔。ほんの一瞬歪む顔。幸い誰かが気づいたような感じはない」

「それに、明日の為の仕掛けなら、イラディムさんが疑われ過ぎるじゃないですか。普通、そんなことはしませんよ」

「明日のことが理由なら、俺が犯人かもしれないな」

 悠翔の言葉に笑って応えるサルギィ。悠翔もつられて微笑む。

「サルギィさんはそんなことしませんよ」

 声を上げたのは、腕を組んで険しい顔のイラディムの隣にいるルークルだった。


「じゃあ、誰がやったんだよ」

「だから、誰がやったかなんか調べなくてもいいって言ってるでしょう」

 しつこいスグニィスに、ほんの少し怒気を込めて話す悠翔。

 静まる室内。


「ほらこんなことしてるから、終わる時間からだいぶ経ってるじゃないですか。もう終わりましょうよ。早く食事にしたい人に俺が恨まれるでしょう、困りますよ」

 ベッキアに頼むような悠翔の顔。


「悠翔がそう言うならこれで済ませてもいいが、ことなかれ主義はあまり感心しないぞ」

 ベッキアの声。優し気は感じるが、真剣な目で問われるように睨まれる。

「そうだぞ悠翔、うやむやにするとまたやられるぞ」

 スグニィスも同調した。


「いいんですよ。次は無いでしょうし、俺も気を付けますから。もし再び何かあって怪我でもすれば、徹底的に調査してくれますよね、ベッキア大尉」

 悠翔がわずかに笑みながらベッキアに顔を向けると、ベッキアも即座に答える。


「当然だ。今回は悠翔の意向もあり留め置いてもいいが、悪質なものには軍警が動くことになるぞ、市民団体もうるさいからな。そうなれば令状も取れるだろうから、識別帯の記録を開示して、その時どこに誰がいたかを精査すればいいだけの話だ」

 そう言ってため息をつき、呆れ顔で続ける。

「まったく、喧嘩程度のことは毎度起きているが、こんな悪質なことは初めてだぞ。頭に当たっていたらどうするんだ。何をしたらどうなるか、ちゃんと先のことも考えろ。若いからと許されることじゃないぞ」

 ベッキアの言葉に全員がうつむいた。


「よし、とりあえずこの話はこれで終わりだ。各自、くだらないことを考えず、技量向上に精進しろ。お前たちが身を挺した実戦に出る可能性は限りなく低いがゼロでは無い。誰の為でもない自分の為に考えて訓練しろ。時間を無駄にするなよ。以上、解散」

 ベッキアの声に応じて敬礼し、各自散り始める時に悠翔が叫ぶ。


「手加減はしませんよ。その代わりどうすればいいかとか、俺なりの考えを伝えますし、見下すような態度をとってるつもりもありませんからね。それは今後も変わりません」


 響く悠翔の言葉に、ほとんどがほんの一瞬止まったか止まってないかの素振りだけで、いちべつもくれることなく散っていく。ベッキアだけがチラ見で微笑んだ。

 棒立ちして、きょとんとした顔で唇を尖らせる悠翔の肩が叩かれる。スグニィスの手だ。


「うるせーよ。そんなのみんなわかってるよ、バカにすんな」

 そう言って笑うスグニィスに、小さく頭を下げる悠翔。恥ずかしげな顔。そしてスグニィスに言葉を投げる。

「スグニィスさんがしてくれたことには感謝してますけど、犯人捜しとかはしたくないんで……すいません」

「ああ、わかったよ。俺もちょっと気負い過ぎて先走ったな」

 スグニィスは笑って右手を振った。


 話が一段落して悠翔がほっとしていると、スグニィスが飯にしようぜと言い、共に通路を歩いていく。しばらくすると先を歩いていたスグニィスが振り返って悠翔に近づいて来た。

「名探偵ドイルさんてのはさ、80歳で大富豪のドイルさんが……「別に教えてくれなくてもいいです」

 悠翔は、スグニィスが楽しそうに話しかけてくるのを、頭と右手を振って遮り先を歩く。

「なんだよ、15年以上続いてる大ヒット作品なんだぞ「別に興味ないんで」

 悠翔は笑いを堪えながら端的に答えて歩みを速めるが、スグニィスはしつこく話しかけてくる。


「聞いてよ、面白いから「聞きません」「聞いて、聞いて「聞きません、聞きません!」

 悠翔は笑いながら食堂まで走った。「聞いてよ~」そう叫ぶスグニィスを置いていく。


 食堂で料理が出来上がるのを待っている間、悠翔はずっと黙って聞いていた。聞かされていた。相席なので逃げられないのです。

 スグニィスは悠翔の目をつむって横を向いた、聞いていないアピールを意にも介さぬように一方的に喋っている。

 ドイルさんとディライブという青年探偵が、石の階段から転がり落ちて魂が入れ替わったこと。若い肉体を得たドイルさんは行き方知れずとなりながらも、青年探偵に時折連絡して資金の運用や事件解決の手助けをしてくることなどなど。そして。


「体育館から翼竜が飛び立つシーンのある回とか、迫力あって凄かったんだぞ。バタバターって」

 右手を顔前に振って言うスグニィス。

「大型の翼竜は、地上から羽ばたいて飛べないって聞いたことありますよ」「小型の翼竜だから飛べるんだよ、抜かりはないよ。それに最近では、大型の翼竜も羽ばたいて地上から飛び立てた説が有力になってるぞ」

「そうなんですか?」


 悠翔が、思わず指摘したことに反論されたその時だった。突然、短い悲鳴のような女性の声が響く。

 付近にいた多くの者の視線を集めたのに気づいたのか、その女性は慌てて口に右掌を当てた。

 悠翔に向かって走ってくるその女性、髪を降ろしてい為、悠翔は一瞬戸惑った表情をしたが、それは私服に着替えたリルリムだった。

 しまったという顔をする悠翔。私服に着替えていて半袖だったのだ。赤みがかった右腕をテーブルの下に隠す。


「え? 何? 何なの? どういうこと? なにそれ? ちょっと!」


 悠翔の前にのめり立つリルリムが困惑しながら叫ぶ。右腕のけがを手当てしてくれた、歳も近いだろう女性だ。悠翔はその剣幕に身を縮めた。

読んだのは読書最初期のころで小学生低学年かな 以後再読していないので思い出せるのは道中もめ事が発生したのと翼竜が飛んでったということだけですけど

で 何年か前に「翼竜は地上から羽ばたいて飛べない」というのを聞いて あああの作品はかなり古いから仕方ないよねと めっちゃ上から目線で許してたんですよ

今回最初に書いたのは「大型の翼竜は、地上から羽ばたいて飛べないって聞いたことありますよ「細かいことはいいんだよ」だったのです

投稿する前に確認しようと調べたら そもそも歯の無い翼じゃねーじゃんと判明して驚いて さらに調べていくと「大型の翼竜も羽ばたいて飛べた」という説が出てきていると知って驚きました

調べて確認もせず歯の無い翼と思い込んでいたことに正座して謝罪しました許して

中学の時にホームズを何冊か読んで同じ作者と知って驚きましたよ

まあ思い出せないながらも読んだ時にそれほど面白いと思って無かったんですけど 翼竜が飛んでった のは凄いインパクトで今でも情景が頭に浮かびますよ これだけでも凄いことですよね

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